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諏訪にバレンタインチョコを初めて渡したのは中学の時だった。中学の時の諏訪は相変わらずモテなくて、誰からもチョコレートをもらえないことを茶化すと「バレンタインなんてもんはただの商法なんだよ」とつまらなそうに悪態を吐いていた。バレンタインなんか興味ありません、という態度の諏訪が面白かったので、その年のバレンタインに余った手作りチョコを義理だと言って渡すと、諏訪はなんだかんだ照れた様子で「サンキュ」とチョコを受け取り、律儀にホワイトデーにお菓子を返してくれたので、それから毎年諏訪に義理チョコを渡すようになったのだ。

「はい、毎年恒例の」
「おー、悪ぃな」
喫煙所にいた諏訪にチョコを渡すと、諏訪は吸っていたタバコを揉み消してそれを受け取った。
昔は色んな人に手作りチョコレートを渡していたが、ここ数年手作りするのが面倒になり、バレンタインにお菓子をくれた子にお返しをするだけになった。代わりに自分用の高級チョコを買うようになり、それが毎年の楽しみになっている。
そんな中、諏訪にだけは毎年チョコレートを渡していた。やめ時がわからなくなったのも一つだが、毎年一つはチョコをもらえると思っている諏訪の淡い期待を裏切るのは悪いと思ったのだ。
「今年はブランデー入りのやつにした」
「んないいモンじゃなくていいのによ」
「だっていいやつだと諏訪のお返しも弾むじゃん」
わざとらしくニヤリと笑って手でお金のポーズを取ると、諏訪は「っとにおめーはよ……」と呆れた顔をした。
ホワイトデーは三倍返しという言葉があるが、意外にも諏訪はこのタイプだ。さすがにきっちり三倍なわけではないだろうが、いつもいいものをくれる。
高校の時はお菓子がメインだったが、大学生になってからは高級な焼肉や寿司を奢ってくれることもあり、去年は成人した年だったのでお酒とちょっといいおつまみのセットだった。明らかに「ホワイトデー」なものじゃない辺り諏訪らしい。
「諏訪は毎年私にしかもらえないから予算を集中出来るんだよねー」
「うっせーな」
あははと笑ってみるが、私は知っている。諏訪はボーダーの後輩ちゃんたちからチョコレートをもらっている。それがばら撒き用のお菓子だとしても、飲み物やアイスを奢ったりしてきちんとお返ししているらしい。だがきっかりホワイトデーの日に返しているわけではなく、その場で返すことが多い。おそらく人が多すぎて誰にもらったか忘れてしまうからだろう。
オサノちゃんには堤と笹森とカンパして一つのものをあげているので、個人にきちんとしたお返しをしているのは実質私だけになる。それに他意があるのかはわからないが、私はあってほしいと思っている。
「じゃあ私もう行くから。味わって食べろよな〜」
「わーったよ」
バイバーイ、と手を振ってくるりと振り返り、あーって顔をしかめる。
「(今年も言えなかったー!)」
実を言うと、諏訪へのチョコはとっくに義理じゃなくなっていた。始まりは確かに義理だったのに、いつの間にか本命チョコになっていたのだ。しかし今更どんな顔して本命だと伝えればいいのかわからず、義理で通してしまっている。
「(いっそホワイトデーに諏訪から告ってくれないかな、なんて……)」
そんな都合のいいことを考えながら冷えた空気を鼻から吸い込んで、盛大なため息をついた。


20230212

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