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「どうしてここに……」
校門の前で手を振る私に、鋼くんは呆れた様子でそう言った。
鋼くんの周りにいたお友達らしき人たちは、私と鋼くんを交互に見て何事かと様子を窺っている。話は聞いていたが、こっちでちゃんとお友達が出来たんだなぁと感動しながら、手に持っていた袋をずいっと差し出す。
「何でって、お誕生日だから!」
「今日平日だろ。大学はどうした」
「お休みでーす」
「確か水曜は一限から四限まで詰まってて大変って言ってたよな」
「鋼くんって本当に記憶力いいよね」
「誤魔化すな」
鋼くんは誕生日プレゼントを受け取ると、「ありがとう」と言いつつ、神妙な顔付きで額に手をやって少し長めのため息を吐いた。

私たちは、私が高校三年生、鋼くんが一年生の時に付き合い始めた。元々中学からの知り合いだったが、鋼くんは約三年もの間私への好意を温めていたらしい。高校で再開してしばらくした後に、真っ赤な顔で告白をしてくれた時は本当にかわいいと思ったものだ。
付き合いたての鋼くんは歳の差を埋めようとしていたのか、必ず歩道側を歩くだとか、ご飯代を出そうとしたりだとか、そういう背伸びをしている感じがひしひしと伝わってきて、そのたびに萌え死にそうになっていた。友達に「彼氏くんどんな子なの?」と訊かれると、「わんちゃんみたい」などと答えていたくらい、忠犬、という感じだった。
ボーダーにスカウトされた時はすぐに打ち明けてくれて、自分が役に立てるならスカウトを受けたいと正直に話してくれた。正直に言うと遠距離は寂しいと思ったが、それ以上に鋼くんの選択を誇らしいと思ったので、気を付けて行ってきてと背中を押した。あの時の私は、多分年上の余裕みたいなものを見せたかったのだと思う。
今の環境は鋼くんに合っていたようで、鋼くんは昔より明るく社交的になったし、色んな意味で大人になった。あんなにかわいらしい男の子だったのに、今ではがっしりしていて男性的だ。先輩と後輩の関係だったので最初のうちは敬語で話されていたが、それも次第に抜けてきて今ではすっかりタメ口だし、私のことを名前と呼び捨てする。それが背伸びでも何でもなく、とても自然なので、名前を呼ばれると私たちの付き合いの長さを実感する。
初めてキスをした時なんかは顔を真っ赤にしてそれはそれはウブだった。しかし最近はあまり赤面するようなこともない。「あの頃はかわいかったのにな」と言えば、「本当にその話好きだな」とやや呆れて笑う。
この数年で鋼くんは結構変わった。成長を傍で見ていたからこそ、鋼くんの誕生日は直接祝いたかったのだ。

昔は私を見るとぱっと顔を輝かせて駆け寄って来たというのに、そういったものも落ち着いてきたのか、鋼くんはサプライズで現れた私に特別驚くわけでも喜ぶわけでもなく、講義をサボって来てしまったことを気にしているようだった。
「確かに昨日の電話の時点で怪しいとは思ってたが……」
「鋼くんにはすぐバレちゃうな〜」
「名前が分かり易いんだろ」
「嘘苦手だしね。んじゃあ、目的は果たしたし帰るわ! 本当におめでとうね!」
「えっ」
そう言うと、鋼くんだけでなく、鋼くんのお友達も目を丸くした。
「だってその人数で一緒に帰るって、何かお祝いみたいなのやるんじゃないの? 私アポ無しだし鋼くんの顔見れたし帰るよ」
私の目的はあくまで直接お祝いすることだ。数時間掛けてわざわざ三門市まで来たのは私がそうしたかっただけで、先約を蹴ってもらうのは申し訳ない。それに私は、鋼くんがお友達に囲まれてお誕生日のお祝いをしてもらえることが何よりも嬉しいのだ。
それじゃあねと潔く帰ろうとすると、強めの力で鋼くんに腕を掴まれた。珍しく必死な顔をしているので驚く。
「どうしたの?」
「あ、いや。実は今日もう一人誕生日の奴がいて……」
「え、誰!? おめでとう!」
ガタイの良いソフトモヒカンヘアの男の子がピースをしたので、改めて「おめでとう!」と拍手する。
「えーすごい! 偶然ってあるんだね。アメしかないけどあげる」
ソフモヒくんの手のひらにアメをバラバラと載せていると、鋼くんが一つ咳払いをした。
「それで、悪いんだが少しだけ抜けてもいいか?」
私ではなくお友達の方を見ながらそう言った鋼くんは、どことなく照れている様子だった。男友達に対してそういう感じなんだ、なんて思いながらやり取りを眺めていると、話をつけたらしい鋼くんは私に向き直った。
「とりあえず行こう」
「あ、うん」
お友達に頭を下げて、鋼くんと並んで歩き出す。見上げると、鋼くんの横顔があまりにも大人っぽくなっていて、知らない男の子みたいだった。
「本当によかったの?」
「むしろそっちを優先しろって怒られたよ」
「ありゃ、なんか申し訳ないなぁ」
「せめて事前に言ってくれてたらな」
「でも事前に言ってたらサボるなって怒るじゃん」
「当然。でも来てくれて嬉しいよ、ありがとう」
鋼くんが優しく目を細めて笑った。そういうところは昔から変わらない。離れていて寂しくないと言ったら嘘になるが、こういう顔を見ると寂しさも吹き飛んでしまう気がする。
「どこか落ち着けるところでケーキか何か食べる?」
「ああ、そうしたらカフェとか」
「カフェでいいの?」
そう言って見上げると、一拍置いてから鋼くんの表情がきゅっと固まった。そして全身を脱力させながら、はあ、とため息を吐く。
「不純だ……」
「え、カラオケとかネカフェって不純なんだ?」
わざとらしい私の言葉に、鋼くんの顔がカッと赤く染まった。久しぶりに見た焦った表情に、思わずにやにやしてしまう。
「鋼くんかわいい」
「やめてくれ」
頭から煙が出そうなくらい真っ赤な顔を、ゴツゴツした大きな手で隠した鋼くんは、恨めしそうに横目で私を睨んだ。しかしどこか下心が隠し切れておらず、内心ドキドキしながら茶化す。
「さすがに制服の子連れては行けないからな〜」
「着替えてくるよ」
「わ、食い下がってきた。助平だ」
「悪かったな」
開き直ったのか、やや強い言葉で肯定した鋼くんに、そろそろ年上ムーブ出来なくなっちゃうかも、と未来の自分を案じた。


20220615

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