×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


自分で言うことじゃないかもだけど、私には色気の「い」の字もない。
朝起きた時のパワフルな寝癖は常にどこかに残っているし、身体の凹凸は少ないし、性格も子どもっぽいと思う。だからいつも隣を歩く弓場ちゃんを見ると、こんなに大人っぽくて色気のある人が、何故私と付き合っているのか疑問に思ってしまう。
私の親友はとても失礼なので、私と弓場ちゃんが同い年だとわかっていて「弓場くんってロリコンなの?」と言ってくるくらい私は見た目的にも幼い。
これは自分の幼さとは少しずれた話かもしれないが、先日ゲームセンターで女児向けのお着替えリズムゲームのカードを小学生と交換しているところを弓場ちゃんに目撃された時はさすがに恥ずかしかった。

「悪ィとは言わねェーけどよ、言いてェーこたァわかるな?」

筐体の前に置いてある小さな椅子にどっかりと座って、眼鏡を押し上げながら私にそう言う弓場ちゃんは完全に保護者だった。弓場ちゃんをその筐体の前に座らせるのはとても申し訳なくて、あれから私は弓場ちゃんが防衛任務の時にしかゲームセンターに行かないことにしている。

そんな私のエピソードを長々と語ったのも現状をわかりやすくするためだ。
現在私は弓場隊の作戦室にいる。そしてその作戦室に弓場ちゃんと二人きりで閉じ込められているのだった。
弓場ちゃんは床の上に座り、凄まじい形相で私のハンカチを噛んでいる。これから切腹でもするんか、というポーズで何に耐えているのかと言うと、弓場ちゃんは現在トリガーのバグによって一〇〇倍になってしまった性欲に耐えているのだった。
何でだよ、とツッコんでしまうのも無理はない。どこぞのアホなエンジニアが夜な夜な作ったのだろう。性欲を一〇〇倍にして一体何をしようとしたのかわからないが傍迷惑な話だ。しかもこのバグを直せる唯一のエンジニアが現在大阪に出張しているらしく、大至急とんぼ帰りしているそうだが、到着までに数時間かかるらしい。おまけに何故かトリガーオフも出来ないので絶体絶命だった。
そんなことになってしまったため、弓場ちゃんは隊室に隔離され、弓場ちゃんと付き合っている私が見張り役として投げ込まれてしまったのだ。
どうせ迅辺りが「あいつなら問題ないでしょう」とかなんとか言ったに違いない。未来予知が出来る迅が言うならと上層部も納得したんだろうが、彼氏の性欲が一〇〇倍になっても手を出されないとは、私の色気は一体どこにいってしまったんだ。それとも弓場ちゃんの精神が強すぎるのか。後者であってくれと願う。
私だって年頃なので性欲はある。なんなら弓場ちゃんはとてもセクシーな男なので、夜に二人きりで室内にいるとわりとムラムラしている。
自分から仕掛けることもあるが、弓場ちゃんは「出直してこいや」と薄く笑って私をいなす。私はドMなのでそれにすらムラムラしてしまう始末だった。だがその後はなんだかんだ弓場ちゃんにガブガブされてしまうので、私たちの関係は周りが思っているより進んでいる。

「弓場ちゃん、だいじょーぶ?」

前髪がアップになっている分いつもより鋭い印象の弓場ちゃんは、私のことをギロリと睨み付けると「あっち行ってろ」と部屋の奥の方を顎で指した。私はそれを無視して一人で話を続ける。

「でもさぁ、対魔忍みたいに感度が三〇〇〇倍とかにならなくてよかったじゃん。あ、弓場ちゃん対魔忍知らないか」

知ってたらちょっと嫌だ。怪訝そうに眉を顰めているので、おそらく本当に知らないのだろう。そのままの弓場ちゃんでいてほしい。

「ねえねえ暇だしお話しようよ〜。ハンカチも返してよ」

何故布を噛む必要があるのかわからないが、結構お気に入りのハンカチだった。ハンカチの周りにレースが付いているのだが、そのレースがパンと目玉焼きの形に編まれていてかわいいのだ。でもこのままでは噛み千切られるだろう。
ふうふうと息が荒くなっている弓場ちゃんは、自戒するように腕を後ろに回した。余計に切腹感が出てしまっている。
好奇心で弓場ちゃんの股間を覗いてみると、やはり性欲一〇〇倍なだけあって膨らんでいた。この状態になってから三〇分以上は経過しているが、何もしていないのにずっとあの強度を保っているのだろうか。すごい。
身の危険よりも好奇心が勝ってきてしまい、私はそれとなく弓場ちゃんに近付いてみる。

「ゆーばちゃん」

弓場ちゃんと一メートルくらい距離を取って目線を合わせた私は、弓場ちゃんに向かっておもむろにウインクをしてみた。その途端、弓場ちゃんの額の血管がビキッと浮き出た。

「(まさか、効いてる……?)」

私の数少ないお色気の術の一つ、ウインク。普段は鼻で笑われるそれに、確かな手応えを感じる。
私は右目ではウインク出来るが、左目では出来ない。出来ない方の目でやってみたらどうだろうかと思い、不完全燃焼のウインクをしてみると、先程よりは反応は弱かったものの、ビキッと青筋が一本浮き出た。

「(き、効いてるー!)」

こ、こんなんで効いちゃうんだ。いつもだったら「おめェーは何してんだ?」としらけた顔で言う弓場ちゃんが。嘘でしょ。うれしい。
今の状態で私の色仕掛けはどこまで通用するのだろう。完全に楽しくなってきてしまった私は、弓場ちゃんにさらに一歩近付いて投げキッスをしてみた。するとブシッと額からトリオンが流出した。めっちゃ効いてる。
吹き出しそうになるのを堪えていると、弓場ちゃんは満面の笑みで眼鏡を押し上げた。怒っている時によくする顔だ。でもこれはまだガチ怒りではないので大丈夫。頻繁に怒られが発生している私にはわかる。
次はどんな攻撃をしてやろうかと弓場ちゃんに滲み寄ろうとした時、体勢を崩してヒールがずるりと滑った。

「わっ!」

どてっと音がして、尻に痛みが走る。

「いてて……。あ!」

私の両膝の間から、ものすごい剣幕の弓場ちゃんの顔が覗いていた。慌てて正座をする。
厚めのタイツを履いているので見えなかったとは思うが、尻もちをついたことと相まって恥ずかしい。また子どもっぽいって思われちゃう、と俯く。

「おめェーはよォ……」

すると、ふいに視界に影が下りた。なんだろうと思って見上げると、天井の照明の逆光になっているが、弓場ちゃんが私の前に立っていた。

「さんざん人をおちょくりやがって、覚悟しろやコラァ!」
「ひゃああ!?」

ぐんと持ち上げられて、俵抱きされる。脳内に警告音が聞こえて、逃げようと手足をバタつかせたがトリオン体相手に敵うわけがない。

「待ってごめんなさい! ほんとに、っ!」

ベイルアウト用のベッドに雑に落とされた瞬間、弓場ちゃんが私のタイツを根元から破いた。

「わあああそんなバカな! それ一一〇デニールなんですけど!? ゴリラ!? んんっー!?」

強引に唇を奪われて、服をひん剥かれる。エロ同人じゃないんだからこんなところでしてはダメだ。でも一切の労わりなく貪られるような舌と手の動きが嫌ではない自分がいるのも確かだった。
そして私はこれまでで一番激しくガブガブされてしまい、途中で気を失ってしまったので、その後どうなったのかはよくわからない。

後日、弓場ちゃんは私の家を訪れると、玄関先でそれはそれは見事な土下座をしてきた。土間に額を打ち付けながら必死に謝る弓場ちゃんにちょっと引きつつ、付き合ってるし私も悪かったから大丈夫だと伝えると、弓場ちゃんは私に紙を二枚突き付けてきた。
それは半分きっちり記入された婚姻届と戸籍謄本で、捺印までされていたので今世紀最大の大声を出してしまった。おまけに証人欄には迅と忍田さんの名前があった。

「迅はまだしも本部長を巻き込むのは本当にやめて!?」

迅曰く、私があそこで転ばなければ弓場ちゃんは一〇〇倍になった性欲に耐えてられたらしい。それなのに私は確率が低い未来を引き当ててしまったという。読み間違えたお詫びとして、証人欄を書いたそうだ。
忍田さんは私と弓場ちゃんの間に起きたことを聞かされていないようで、本当に結婚すると思っていた。廊下ですれ違った時に祝福されたのをいい感じに否定するのは本当に大変だった。
でもいつか本当にその日が来ればいいなとは思っているので、あの婚姻届は大事に引き出しの中に入れている。


20220417

back