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※夢主と半崎くんが同居している特殊設定


昨日の夜からニュースが大騒ぎしている通り、外はしんしんと雪が降っている。
これから義人くんの誕生日ケーキを取りに行かないといけないのに、こんな天気になってしまうとは。帰り道がかなり不安だが、年に一度の誕生日だ。なんとか無事にケーキを持って帰ってみせる。

仕事を終えて携帯を見ると、義人くんから連絡が入っていた。義人くんは連絡がマメなわけではないから、前回のやり取りから二週間ぶりのメッセージになる。
一体何だろうと開いてみると、『会社出る前に電話してください』という文面と、見たことがないポケモンの『むかってます!』というスタンプが送られてきていた。私と義人くんのジェネレーションギャップは、いわゆる御三家ポケモンをどこまで知っているかでわかる。
私の中で一番新しいポケモンはポッチャマだ。しかも他の二匹は何だったか忘れてしまった。キモリだっけ。いや、それは一つ前だ。思い出せない。
それを前に義人くんに話したら、悪意なく「は?」みたいな顔をされてしまったのは流石に傷付いた。義人くんはゲームが好きだから詳しいだけだよ、と力説したものの、いまいち響かなかったようだ。
そんなことを思い出しながら義人くんに電話をかける。すぐに繋がって、「もしもし?」と聞き慣れた声がした。

「お疲れっす」
「ありがとう。義人くん、どうかした?」
「今近く来てるんで下りて来てください」
「わざわざ来てくれたの? なんで?」
「いいから。オレも行くんで。それじゃ」

トゥルン、と通話が切れる。あの最後のぶっきらぼうな感じからして、義人くんは照れているようだ。もしかしたら雪が降っているから迎えに来てくれたのかな、なんて思いながら職場を出る。
会社の前の道は色んな人が行き交うせいか、雪が茶色くどろどろに溶けていた。歩く度にぬかるんだ地面がぐちゃぐちゃと音を立てて、さっそくパンプスの中に雪だったものが侵入してくる。雨と違ってとても冷たく、ちょっと痛いくらいだ。
うじゅ、と涙目になっていると、近くのカフェの方向から義人くんがさくさくと雪を踏みながら歩いて来た。防寒対策はばっちりなようで、いつもの帽子にプラスして、マフラーを鼻先まで巻いている。

「うへー、さぶさぶ」
「義人くん〜、靴濡れちゃって足冷たいよぉ……」
「あーあ。そんな靴履いて来るからっスよ」
「仕事だからしょうがないじゃん。タイツまで濡れちゃった」
「寒いんで早く帰るっスよ」
「うん……」

義人くんは踵を返すと、今来た方向を歩いて行く。寒そうに肩を上げる後ろ姿を追う。
私たちの歩幅は大体同じくらいだが、義人くんは私が心配なのか、いつもよりゆっくり歩いてくれていた。優しい。

「義人くん、迎えに来てくれたんだ。お家で待っててくれたらよかったのに」

すると義人くんは、ネコのような瞳でじっと私を横目で見た。

「いや、一人だったら名前ちゃん絶対転んで泣いて帰って来るじゃないっスか」
「そ、そんなことないもん」
「絶対ケーキもグシャるし」
「う……」

私と義人くんは訳あって同居している。
私は日頃、生活の様々なことを義人くんに助けてもらいながら過ごしているので、彼の言葉に強く言い返すことが出来なかった。

「あ、そこ名前ちゃん絶対転ぶ。避けて歩いてくださいよ」

側溝のグレーチングを顎で示されて、私はむむむ、と唸った。いかにも滑りそうな場所だというのは私にだってわかる。気を付けないから滑るわけで、気を付けていればへっちゃらだ。

「大丈夫だもん!」
「いやマジで。オレチビだから支えらんないす」

真顔でそんなことを言われてしまったら、わざわざチャレンジする気にはならない。言われた通り大人しくグレーチングを回避すると、義人くんは「よし」と満足そうに頷いた。

「義人くんは自分のことよくチビって言うけど、義人くんの成長期はこれからだよ」
「ハイハイ気休めどうも」
「本当にほんと! 私も高校でちょっぴり伸びてたもん」
「同い年ですでに一七八センチの奴いるんスけど」
「……その子は将来三メートルくらいになるんだと思う」

私の大雑把なフォローに、義人くんは呆れ笑いをした。義人くんは今日一六歳になったばかりなんだから、まだまだこれからだ。そのうち私の身長も追い越されるのかなぁ、なんて思いながら雪道を歩く。

「あー、鍋食いたい」
「お誕生日なのに?」
「関係ないっスよ。今日寒すぎる」
「オムライス作ろうかなと思ってたけど、じゃあ今日お鍋にしよっか。その後ケーキ食べ、あっ! ケーキ屋さんさっきの角右!」
「ええっ」

慌てて方向転換をしようとしたら、ちょうど地面が凍っているところを踏んでしまい、つるりと滑ってしまった。

「あっぶな!」

バランスを崩した私の二の腕を義人くんが支える。間一髪のところで転ばずに済んで、ほっと胸を撫で下ろした。

「だから気を付けてって」
「ごめぇん……」
「ほんとダルいなー」

その言葉に、「来てよかった」という言葉が隠れているのを私は知っている。素直じゃないなぁ、と笑っていると、義人くんは「うへぇ」と顔をしかめた。

「あ、一つお知らせが」
「なんすか?」
「ケーキ、アイスケーキです……」
「雪降ってんのに!?」
「だって一週間前はそんな予報なかったもん!」
「はあ。まあいんじゃないスか」

好きなものを用意したくて、とうじうじ言っていると、マフラーを鼻先まで持ち上げた義人くんが小声で「ども」と言った。
それだけで私は嬉しくて、早くマフラーを取った義人くんの顔が見たいなぁ、なんて思ったのだった。


20220210
半崎くんお誕生日おめでとう!

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