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バラバラのまま海続編

 部屋に入るや否や、名前はキスしてくれと強請った。身体を密着させ、俺を見上げる瞳は憂慮に堪えないといった色をしている。ここ最近の名前は特にそうで、手を掛けてやらないと途端に離れていってしまいそうだった。望み通りに口づけてやると、生温かい名前の舌が俺の唇をなぞった。あの辿々しくされるがままになっていた姿からは想像出来ないようなキスに、とうとう引き返せないところまで来てしまったのだと実感する。名前は背伸びをしたまま俺の腰に抱き付くと、泣きそうな顔で懇願した。

「東さん、シたいです」
「まだ来たばっかりだろ?」
「いいの。座ってください……」

 言われた通りにソファーに腰掛けると、名前は床にぺたりと座り込み、俺の足を割り、間に入ってきた。器用にベルトを外し、ジーンズのボタンを外すと、股間に顔を埋め、チャックを噛んでゆっくりと下ろしていく。こんなことは教えていない。おそらく、名前なりに誘い方を考えたのだろう。ソファーの肘掛に片肘を置き、頬杖をついて彼女を見下ろす。
 下着の上から半勃ちの陰茎を取り出すと、名前はそれを丁寧に啄んだ。熱い吐息が掛かったと思えば、ぬるついた舌が裏筋をゆっくりと舐め上げた。名前は徐々に硬くなっていく陰茎を両手で握ると、小さな口の中にそれを沈めた。思わずため息が出る。それを聞いた名前は、愛おしそうな表情で俺を見上げ、吸い付きながらねっとりと舌を這わせた。これは以前教えた、射精させるためではなく、勃起させるためのフェラチオだ。時折、くちゃ、という水音を立て、名前は行為を続ける。軽く扱きながら睾丸を吸うように舐めてきたので、頭を撫でてやると、嬉しかったのか、ゆるりと目を細めた。

「東さん……」
「うん?」
「私、もう……」

 恥ずかしげな表情で少し俯いた名前は、スカートの中に手を伸ばすと、自身で水音を立てて俺を誘った。すぐにでも押し倒してやりたかったが、平静を装い、どうしようか、と考えるフリをする。名前はもう一度俺の名を呼び、膝に跨ろうとした。やんわりと手で制すと、「なんでですか」と弱々しく呟いた。彼女の泣き出しそうな顔はどうしようもなく蠱惑的だ。

「後でちゃんとしてやるから、その前に一つ聞いてくれ」
「何をですか?」

 耳に唇を寄せて、秘めやかに言う。

「名前が自分でしてるところを見せてくれないか?」

 吐息交じりに「あ」と言葉を漏らした名前の背筋がしなる。名前は耳元でこうして囁かれるのに弱い。そのままの体勢で困惑しながら「そんなの……」と口籠る彼女に追い討ちをかけるように、「頼むよ」と頬にキスをすると、戸惑いながら俯いてしまったが、否定の言葉は出てこなかった。
 自慰する姿を見せてくれと言ったのは今日が初めてだ。以前、行為に至る途中で、名前の羞恥を煽るために自慰の経験があるかを訊いたところ、恥ずかしそうにあると答えた。中に指を入れるのには躊躇いがあったようで、下着の上から陰核をいじる行為をしていたという。
 俺に様々なことを教え込まれてから、膣内でも絶頂を迎えられるような身体になった今、名前の自慰はおそらく以前よりももっと生々しいものになっているに違いない。

「行こうか」

 下着を直し、ベルト等は緩めたまま名前を寝室に誘う。腰に手を回して引き寄せると、名前は緊張して身体を固くした。ベッドに座らせて、俺はベッドの横にある小さな書斎スペースに置いていた椅子に腰掛ける。名前はまだ戸惑っていたが、何も言わずにじっと見つめていると、観念したのか静かに下着を下ろした。

「っ、東さん」
「始めていいぞ」
「あぅ……」

 恥じらいと困惑をない交ぜにした表情を浮かべながら、名前は足を開き、ベッドの上に乗せた。初めて名前の陰部を見た時の光景と重なる。名前は指をそこに当てがうと、とろりと溢れた液体で指先を濡らし、陰部を回すように撫で始めた。

「んっ、あ……。はあ」

 あまりにも従順で、俺の言いなりになる名前。口答えなど一度もされたことがない。献身的な姿に目眩にも似た快感を覚える。
 名前の中指の先が、つぽ、と穴に埋まった。初めてでも指一本容易く飲み込んだのだから、今の彼女がそれだけで物足りるはずがない。すぐに中指と薬指の先が消失する。名前は深く荒い呼吸を繰り返しながら、自身の指を出し入れし始めた。彼女の視線の先は、俺でも指の先でもなく、フローリングの線をなぞっているようだ。

「名前」

 呼ぶと、「あっ」と短く嬌声を漏らして、おずおずと濡れた瞳に俺を映し出した。半開きになった唇からは、熱い吐息と小さく甘い喜悦の声がしている。

「目線はこっちだ」
「あずまさんっ」
「うん?」
「あっ、東さんの、っほしいです、ください……」
「一回自分でイけたらな」
「やっ、いじわるしないでぇ」

 クチュクチュと膣内を掻き混ぜながら、だらしない顔で懇願する名前に、いよいよ抑えが利かなくなってきた。血管が浮き出るほどに勃起した陰茎を露出させ、名前の姿を見ながら扱く。すると名前は、俺が興奮している様子を見てますます昂ったのか、あられもない姿で快感を貪り始めた。

「あっ、あん、んっふ、あずまさ、っ、あ! やっ、はあ、はあ、イく、イっちゃう、あずまさん!」

 びくびくと内腿を震わせて、名前は絶頂した。打ち震える名前は浅い呼吸を繰り返して、とろりとした目で俺を見ている。衣服を脱ぎ捨てながら名前を押し倒し、膝の裏に手を差し込んで大きく開かせた。充血して固くなった陰核をなぶると、名前は腰を痙攣させ、激しく身を捩った。

「やっ! まだだめっ、あんっ! やだっやだっ、あっあっ、またイっちゃうからあ!」

 指を挿れ、好きな部分を擦りながら舌先に力を入れて舐めると、逃げるように腰を揺らして名前が喘ぐ。これは隣の部屋に聞こえているな、と思ったが、隣人はこの時間帯は留守のため問題はない。

「ああっ、いやっ、やっ、んぐっ、あずまさんっ! んんっ、〜っ!」

 名前が俺の名を呼ぶ時は、大抵は絶頂を迎える直前だ。イく時は伝えるようにという言いつけを守っているのだろう。がくがくと痙攣する名前の中から指を引き抜くと、潮が溢れて俺の膝とシーツを濡らした。

「あっ、ご、ごめんなさっ……」

 じわじわと瞳に涙の膜が張り、ついに留めきれずに流れ出た。「大丈夫だ」と微笑みながら液体で濡れた指を口の前に差し出すと、申し訳なさそうな表情で泣きながら、子犬のようにそれを舐め取った。ぞくりと尾てい骨から迫り上がるような興奮と、自分は何てことをさせているんだ、という罪悪感で視界が狭まっていく。
 名前はいずれ、俺の前から姿を消すかもしれない。ただでさえ歳が離れている。名前が言う「好き」という言葉が、ただの年上の男に対する憧憬である可能性は未だに捨て切れない。だがそんな彼女をみすみす逃がせるほど、軽い気持ちで手を出したわけでもない。その反動からか、名前の性を随分と歪めてしまった。俺の元から去ったとしても、俺でなければならない身体にしてしまえば、いつか戻って来るのではないか。身勝手なエゴで名前を壊していくことに対する良心の呵責と、どうしようもない高揚感はいつも波のように交互に押し寄せ、名前の感情を揺さぶっていることは自覚している。

「名前」

 服を脱がせながら深く口づけると、名前は必死に舌を伸ばして絡めようとしてきた。はだけた柔らかい素肌を撫で、掻き抱く。首筋に顔を埋めて、肺を彼女の匂いで満たした。名前は俺の髪がくすぐったかったのか、やんわりと払い、それから俺の頭をしっかりと抱き締めた。まるで子どもをあやすようなその仕草に、俺はおそらく生涯、この子を愛するという業を背負って生きていくのだと、諦めにも似た気持ちが芽生えた。愛していると言ってしまえば、名前の心は満たされるのだろうが、俺にはそんな言葉を言う資格などない。

「東さん、来て……」

 耳元でそう囁かれ、一瞬冷水を掛けられたような感覚に襲われた。耳にぬるりと名前の舌が這い、誘惑してくる。整いかけていた息が再び上がり、頭がぼんやりしてきた。名前の中に埋もれたいという欲に支配され、避妊具を取ろうとしたが、その手を阻まれる。

「名前?」
「そのままして……」

 ああ、まただ。目眩がする。避妊具を着けずに挿れてほしいと懇願する名前の頭を撫でる。

「出来ないよ」
「お願い、東さん。私、不安なんです……」

 目尻から彗星のように涙が零れ落ち、名前の耳を濡らした。止めどなく流れる涙を拭ってやるが、終わる気配がない。髪を掻き上げ、額を親指の腹で撫でる。名前はぐずぐずと表情を歪めた。

「東さんのこと、誰にも取られたくないんです。東さんが誰かと一緒にいるところを見ると、悲しくなっちゃって、変なの。奥寺くんと小荒井くんにも、男の子なのに嫌だなって思っちゃって……。本当は、東さんは私のなんだってみんなに言っちゃいたい。でも、東さんに迷惑かけたくないからぁ……」
「それで最近焦ってたのか?」
「ごめんなさい、私、東さんにこうしてもらえるだけで特別なんだってわかってるのに」
「いや、俺も悪かった。つらかったな」

 涙を拭う名前の手を取り、口づける。指、甲、額、頬と順番に唇を寄せて、最後に唇に触れるだけのキスをした。
 名前が奥寺や小荒井に嫉妬しているように、俺も名前が歳の近い男と一緒にいるところを見ると一抹の不安を覚える。追われているようで、追っているのは常にこちら側だ。

「俺には名前しかいない」
「っ、東さん……」
「だから何も不安に思わなくていい」
「はい……」
「疑ってるか?」
「今は、大丈夫です。でも離れると不安になります」
「それは困ったな」

 ふふ、と名前が笑う。涙はもう止まっていた。避妊具のパッケージを切ると、多少不服そうな表情をされたが、問答無用と装着する。先端を名前の股にぴたりと合わせ、ゆっくりと押し込めた。

「ん……」

 膣内の襞が陰茎に絡みついて、奥に引きずり込まれるような感覚に陥る。初めのうちは閉ざされ、拒むように押し返していたが、今ではこうして俺を離さないまでになった。
 挿入が終わり、乱れて視界を遮っていた自身の髪を掻き上げると、ふいに名前の膣が締まった。

「ん?」
「あっ、うぅ……。今の、かっこよくて」
「そうか?」
「恥ずかしい」
「嬉しいよ」

 涙で濡れた耳に舌を這わせ、時折甘噛みをすると、蕩けそうなほどに甘い名前の吐息と小さな嬌声が、静まり返った寝室の片隅で、ひっそりと空気に混じって溶けていくようだった。シーツとの境界線が曖昧な、水光を放つような身体の曲線を、指の背で触れるか触れないかの力で撫で、肩口に触れる。徐々に深くなっていく呼吸と連動するように、膣内が蠢く。
 首筋に唇を当て、そのまま滑らせる。鼻にかかったような声を聞きながら、柔らかい肩に置いた手を数回往復させ、控え目に膨らんだ胸に這わせた。包み込むようにして、慈しむ。時々指の隙間に引っ掛かる乳首に触れないようにやんわりと避けると、もどかしいのか、更に主張を激しくした。
 俺の髪の先端が、名前の肌の上を泳ぐ。しっとりと瑞々しい肌に何度も口づけて、唇で食む。名前は自分の指を唇に押し当て、声をくぐもらせた。ようやく乳首に到達し、力を抜いた舌で舐め上げると、名前がびくりと震えたのと同時に、膣が収縮した。刺激を続けると、声が高くなってきて、身をくねらせ始めた。そうすることで挿入された俺のものがいいところに当たったのか、ぴくりと腰が跳ねる。その姿が愛おしく、そっと腹を撫でた時、名前が言った。

「気持ちいい。東さんが触ってくれるところ、全部」

 顔を上げると、上気した頬で、はにかんで言う名前がいた。今まで俺の顔色を窺うような表情ばかりさせていたため、どこか新鮮に映る。「東さん……?」と動きを止めた俺を不思議そうな目で見る名前に、笑い掛ける。

「ああ、すまない。あまりにも可愛すぎて驚いた」
「えっ」

 照れる名前の顔の横に手をつき、ゆっくりと律動を始める。名前の手を絡め取り、繋ぐと、嬉しそうに目を細めた。

「今度、名前の保護者に挨拶に行っていいか?」

 びくびくと俺の動きに反応していた名前は、その言葉を聞くと、身体から力を抜いて安堵したように微笑した。
 初めからこうしていればよかったと思いながら、名前の中を掻きわけるようにして往復する。徐々に射精感が込み上げて来たが、まだ勿体無いような気がして、動きを止めた。

「東さん」
「……うん?」
「東さんは、気持ちいいですか……?」
「もちろん」

 すると名前は腰を上げ、自ら前後に動かし始めた。沈めようとしていた感覚が再び舞い戻る。

「こらっ、はあ……」
「んっ、東さん、キてっ」
「名前」
「ああっ、あっ、んっ、ん」

 身体を密着させながら腰を打ちつけていると、名前の足が俺の胴に巻きついた。腹の下からぶるりと迫り上がるような感覚があり、名前を強く抱き締める。

「出していいか?」
「はいっ、あ、んっ」
「っ、」

 腕の中に閉じ込めた名前の肩口で、情けなくも荒い呼吸を繰り返していると、回された手が俺の背中を撫でた。汗でこめかみに張りついた名前の髪を梳かしながらキスをする。普段よりも長い射精を終え、引きずり出して処理をする。
 横たわる名前に並ぶと、甘えるように擦り寄って来た。頭を抱えるようにして髪を梳く。

「そういえば、付き合ってることは別に隠さなくていいぞ」
「え?」
「ちなみに城戸さんと本部長には付き合った翌日には報告してある」
「えっ」

 起き上がった名前は、驚愕の表情で俺を見ていた。さすがにホテルに連れ込んだことは報告していないが、未成年と付き合う以上、懸念事項はある程度少なくしておきたい。ボーダーでは後輩を育成する、良識ある大人という立ち位置のせいか、そういったことは本人たちに任せると言われた。

「そんなの聞いてない……」
「じゃあ今言ったな」
「もう!」
「ははは」

 ぺちんと軽く小突かれる。まさかこんなに早く名前に小突かれる日が来るとは思っていなかった。拗ねている顔が余りにも愛らしく、にやけそうになるのを噛み締める。

「付き合ってる以上俺と名前は対等だ。何かあったらすぐ言ってくれ」
「何かって、例えば何ですか?」
「何でも。不安なこととか、不満でもいい」

 すると名前は、少し悩んだ素振りをした後、おずおずと俺に訊いた。

「じゃあ、東さんの部屋がちょっと散らかってるとか、言ってもいいんですか?」
「うん……?」
「洗濯物溜めすぎ、とか」

 名前の言う通り、レポートを書くための資料や書籍をそのまま放置する癖があり、机の上には常に何かしらの紙類が散らばっている。前日のコーヒーが残ったままのマグカップを放置していることも多々ある。男の一人暮らしだと毎日洗濯などしないため、名前の言う通りある程度溜めてから洗濯をしていたが、ずっと気になっていたのだろうか。

「耳が痛いな」
「片付けていいなら、私がします」
「ほどほどに頼む」
「はい」

 にこりと名前が笑う。裸のままこんなことを話し合うとは、帰宅した時には微塵も思っていなかった。年下と言えども、名前は大分しっかりしている。それが今は亡き両親の教育なのか、生まれ持った性分なのかはわからないが、このままいくと将来は尻に敷かれるだろう。だが、それも悪くないと思えるのは、愛ゆえなのだろうか。
 毛布を掛けてやると、「東さんも」と毛布の端を持ち上げて俺を迎え入れた。二人で包まりながら、肌を密着させる。吸いつくような名前の肌は俺の身体に合わせて形を変えた。俺ももう少し若ければ、このまま二回目を再開させたのだろうが、もうそんな体力はない。
 セーラー服が良く似合う名前が、やがてそれに袖を通すことすらしなくなるように、俺も今後どんどん衰えていく。理想と現実の落差を知った後でも、名前はここに残ってくれるだろうか。少なくとも今は、俺のだらしない生活態度すら受け入れてくれるようだ。

「愛してるよ」

 言わないと決めていた言葉だったが、一番相応しいのはこの言葉以外になかった。名前ははっとして、それからシーツに額を擦りつけると、ゆるゆると目を細めた。照れて言い淀む唇を塞ぐと、シーツのシワが深くなる音がした。たゆたうような心地のまま、このまま溺れてもいいか、と深く思った。


20211117

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