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今日は二宮くんと四回目のデートだった。
私は随分前から二宮くんに片思いをしていたが、ボーダー内での恋愛があまりよく思われないのは重々承知していたので、この気持ちを隠し通すつもりでいた。しかし二宮くんと顔を合わせる度に、それがどれだけ難しいことなのかを思い知らされて、ついに我慢が出来なくなった私は、二宮くんをデートに誘ったのだった。
断られたらそれまでと思っていたが、私の誘いに応じてくれている辺り、少なからず悪い方向ではないとは思う。だが二宮くんからデートに誘ってくれたのは、二回目の時だけだ。それ以外に連絡が来るわけでもないので、二宮くんの真意はわからない。私も未だに告白していないし、二宮くんもそういった話題を振ってこないので、関係が全く進展していない。
食事を終えた頃、二宮くんは、「明日の予定はあるのか」と業務連絡のように訊いて来た。帰りの時間を気にしているのかと思った私は、少しでも長くいたいという思いから「特にないよ」と答えると、二宮くんは短く「わかった」と言い、会計を済ませて私を連れ出したのだった。
気がついた時にはホテル街にいた。まさか、突然こんなことになるとは思っていなかったので、何の準備もしていない。付き合っているかどうか、宙ぶらりんなまましてしまってもいいのだろうかと思いつつ、どこか期待している自分がいた。
二宮くんに手を引かれ、勇気を出して入ったホテル。まさか満室を理由に引き返すはめになるとは思ってもみなかった。私はこういった場所に来たことがないどころか、男性経験がない。出鼻を挫かれてしまって、居た堪れなさと恥ずかしさで少し泣きたくなってしまった。
二軒目に入ったホテルは、リーズナブルな部屋が満室で、部屋の内装に合っていない露天風呂がついているという、一泊するには高すぎる部屋しか空いていなかった。さすがに、と思って再び引き返そうとしたが、二宮くんは小さく舌打ちをすると、その部屋のボタンを押してしまった。そんなに現金を持っていないので、カードが使えるかどうか確かめたかったが、二宮くんが勝手にエレベーターの方へ歩いて行ってしまったため、確認が出来ないまま部屋に入ってしまった。
ドアを開けると、そこは洋画のセットのように煌びやかな空間だった。このホテルのコンセプトであろう中世ヨーロッパな空間が、居た堪れなさを助長させた。
二宮くんはロココ調のソファーに腰掛けて、澄ました顔をしている。その隣に行ってもいいか決めあぐねていると、二宮くんが「来い」とでも言うように私を見た。ドギマギしながら隣に腰掛ける。

「に、二宮く、んぅ」

向かい合った途端、二宮くんが私の肩に手を置き、キスをしてきた。二宮くんの薄い唇からは想像出来ない柔らかさに驚き、緊張で固まってしまう。私の初めてのキスの相手が、二宮くんだなんて、そんなことがあっていいのだろうか。それも、こんな夢みたいな空間で。
啄むようなキスにうっとりしながら、ふわふわと覚束ない心のまま二宮くんに身を任せようとした時、ふと疑問が湧いた。
この後、一体どうしたらいいんだろう。
このまま押し倒されてしまった場合、ソファーでするのだろうか。だとしたら避妊具はどうすればいいのだろう。おそらくベッドの近くに置いてあるのだろうが、直前になって二宮くんが取りに行くのか。だとしたら、ベッドでそういう雰囲気になった方がスムーズではないだろうか。
いや、それ以前に、最初にシャワーを浴びた方がいいのではないか。しかし問題は髪とメイクだ。この行為前のシャワーというのは、普通に風呂に入ることなのだろうか。だとしたら、髪を乾かしたりして、かなり長い時間待たせることになり、二宮くんの気持ちが萎えてしまうのではないか。作法が全くわからない。
そして、私が処女であることは、やはり伝えておいた方がいいのだろうか。処女はめんどくさいという話もある。それに加えて、私はまだ二宮くんと付き合っていない。そんな相手の処女を、二宮くんはどう受け止めるのだろう。
夢のようなキスをしながら、こんなにも冷静にこの後のことを考えている自分が嫌になってしまう。どうにかして二宮くんの判断を仰ぎたいと思い、そっと唇を離すと、少し余裕がなさそうな二宮くんが目の前にいた。初めて見る表情に心臓が跳ねる。二宮くんはふいと目を逸らすと、佇まいを直した。

「先にシャワー浴びるか?」

早速の常套句に、ぴしりと身体が動かなくなる。先に譲ってくれたのだから、お言葉に甘えたい気もするが、どうしよう。いや、でも間違ったことをして引かれるよりは、訊いてしまったほうがいい。ええいままよと言葉を絞り出す。

「あの、二宮くん。こういう時、髪とかって、どうしたらいいのかな……」
「好きにしろ」
「えっ、やっ、でも……。二宮くんはどうする?」
「はあ……。髪は後でいい。気になるなら洗え」
「う、うん。行ってくるね……」

そうして一人、露天風呂がどんなものかを見つつ、意味がわからないくらい広い浴室で身体を念入りに洗って、さっと上がる。そこで下着や服はどうしたらいいのかまた悩み、とりあえず下着はつけて、置いてあったバスローブを羽織って部屋に戻った。

「次、どうぞ……」
「ああ」

二宮くんがシャワーを浴びている間に、精算のシステムやクレジットカードが使えるのかを調べ、ついでに部屋の中を探索する。冷蔵庫の中にはサービスらしい、どこのメーカーのものなのかわからない水が入っていた。緊張と風呂上がりから来る渇きをそれで潤し、ほっと一息つく。
これから、私たちはセックスをしてしまう。一番の不安はそこなのに、別の意味の不安に一つずつ対応していたせいで、初体験に対する意識が今になって強まってきた。
二宮くんがどういうつもりでここに連れて来たのかとか、リードしてもらえるのだろうかとか、血が出てしまったらどうしようとか。痛くて最後まで出来なくて、雰囲気が悪くなってしまったら。考えれば考えるほど、今日ここに来るべきではなかったのでは、と思えてきた。
そうこう考えている間に浴室のドアが開く音がしたので、素早く天蓋がついたベッドに移動して腰掛ける。お姫様みたいだ、と思いながら辺りを見回すと、サイドテーブルの上に避妊具が二つ置いてあるのを見つけてしまい、ロイヤルな雰囲気から一気に現実に引き戻されてしまった。いくら中世ヨーロッパのお城のようなインテリアでも、ここは三門市。私たちは王子様とお姫様でも何でもない、二宮くんと私なのだ。

「待たせたな」
「あっ、ううん……」

私と同じバスローブを来た二宮くんが現れて、ついに始まってしまうんだ、と緊張が最高潮に達する。二宮くんが静かに隣に座った。緊張で俯いていると、くっと顎を上に向かされて、押し倒されながら唇が触れた。

「んっ、ふぁ……。はぅ」

先程とは違う。口を開かされて、二宮くんの生温かい舌が私の唇をなぞったり、私の舌を撫でたりしてくる。あの、二宮くんが、私を。
非現実感にくらくらしていると、二宮くんの手が私の胸に触れた。その手つきがあまりにも優しくて、普段の戦い方からは想像もつかない。セックスって、普段は見せない部分を相手に晒すことなんだ、と実感しながら、二宮くんの行動を受け入れる。
ベッドの中心に移動して、またキスをする。私のぎこちないキスで、二宮くんは満足してくれるだろうか。私は幸福感でいっぱいで、ずっとこうしていたいくらいだが、二宮くんはそうではなかった。
二宮くんは私のバスローブの紐を解くと、するりと脱がせて私の素肌に触れた。ブラジャーも外されて、あっという間にショーツだけになってしまう。
二宮くんは私の胸に顔を埋めると、そっと乳首を舐め上げた。経験したことがない感覚に震える。もう片方の胸を優しくゆっくりと揉まれて、あの二宮くんにそんなことをされているのが嬉しいような、申し訳ないような、恥ずかしいような、色んな感情がない混ぜになって、私はいっぱいいっぱいだった。

「に、二宮くんっ……」
「なんだ」
「あっ、恥ずかしい」
「気にするな」
「気にするよぉ……」

私の身体、どこも変じゃないだろうか。乳首の大きさとか、形とか、色とか。そんなことを気にしても何も変わらないけれど、恋焦がれていた二宮くんに見られていると思うと不安で仕方がない。

「……きれいだ」
「っ、……あっ」

見透かしたかのようなタイミングで、二宮くんがそう囁いた。腰からぞくぞくと何か得体の知れない感覚が込み上げてきて、末端まで届いた時、身体がぶるりと震えた。
その瞬間、今まで丁寧だった二宮くんの舌使いが荒くなって、先端を吸われる。

「やっ、あっ……」

下半身がじんじんと熱くなり、思わず内腿をすり合わせると、二宮くんが息を飲んだ音が聞こえた。そして、骨張った細い指が、太腿を撫でて、ショーツの方へ滑るように上がってきてしまった。

「にのみやくんっ」
「触るぞ」
「はずかしっ、んっ」

ショーツのレースを傷つけないためなのか、触れているのかわからないほどの力で撫でられる。しかし二宮くんの体温がそこに確かに伝わってきた。

「あっ、あ、やあ……」
「嫌なのか?」
「わっ、わかんない……」

羞恥のあまり混乱し、訳がわからないことを言う私を見て、二宮くんが体勢を変えた。二宮くんは私の頭の方に移動すると、私を起こして、身体に寄り掛からせた。後ろから抱き締められる形になり、二宮くんの身体の温かさをダイレクトに感じる。

「嫌だったら言え」

顔を上げると、ちゅっと唇が重なった。足を開かされて、二宮くんの指が私の秘部をくすぐるように這う。未知の感覚にびくびくと震えていると、頭を撫でてくれた。深いキスをされて、下を撫で回されて、一度に処理出来ない。あの二宮くんが私をこんな風に扱っているという事実に、おかしくなってしまいそうだ。

「ふっ、んっ、はぁ、はん」

二宮くんの指がショーツに引っ掛かり、脱がそうとしてきたので、大人しく腰を上げる。すぐに取り払われて、指先が直接触れた。くちゅりと音がして、恥ずかしさのあまり顔を隠す。二宮くんの指が私のぬるついた部分を往復し、ちゅく、と音を立てて、指が一本入って来た。

「あっ、あ……」
「痛くないか?」
「うん……」

くちくちと鳴る秘部に、二宮くんの指が深くまで埋まる感覚と、二宮くんの熱を孕んだような吐息が耳元でするのとで、興奮している自分を自覚してしまった。おまけにお尻の辺りに熱くて硬い何かを感じる。二宮くんって性欲あるんだ、とバカな考えが一瞬過ぎったが、二本目の指が入って来たのと同時に、どこかへ消えてしまった。

「んっ……」
「力を抜け」
「う、うん。ぁ……。はあ、はぁ……」

痛くはないが、押し広げられているような感覚が慣れない。息を荒げていると、二宮くんは何を思ったのか、空いている手で私の髪を掻き分けると、首筋にちゅっと唇を落とした。

「あっ!」

背中がしなる。二宮くんは構わずキスを落とし続け、私がめちゃくちゃになってしまっている間に、指を押し進めた。

「だめっ、変になっちゃう、ぁん、あっ」

普段の二宮くんの行動からは結びつかないくらい、優しく甘やかされるような愛撫に、愛されているのではないかと錯覚した。付き合っているかどうかすら、まだわからないというのに。でも、二宮くんが誰に対してもこんな風に愛撫をするとは考えられないし、考えたくない。それに、今まで二宮くんにこんな風に愛された人がいたと思うと、なんだか胸が張り裂けそうだ。

「もう大丈夫そうか?」
「ん……」

二宮くんは私の中から指を抜くと、バスローブを脱いだ。程よく引き締まった色白の身体に見惚れていると、二宮くんはサイドボードに手を伸ばして避妊具を手に取った。私の愛液で濡れた指のままパッケージを千切る姿を見ていられず、下を向く。二宮くんが下着を脱ぐ気配を感じ、少ししてピチッと避妊具を装着する音が聞こえた。

「名前」

食事をしていた時までは、二宮くんは私のことを名字で呼んでいた。ここに来て初めて名前を呼ばれて、身体が強張る。二宮くんが私に覆いかぶさり、とさりとベッドに倒された。自分の指先も、足も震えているのがわかる。二宮くんは私の足を開かせ、私の秘部に触れた。

「あ……。ま、待って……」
「……どうした」

私の異変を察知して、二宮くんの指が離れる。直接二宮くんの顔を見られず、手の甲で顔を隠しながら、ついに私は不安を吐露した。

「あのね、私、初めてだから……。その、うまく出来なかったら、どうしよって。それにね、私、二宮くんと、その、付き合って、る……?」
「あ……?」
「ごめっ、付き合ってないからしないってことじゃなくて、ね。その、私は、二宮くんのことが、好き。だから、初めてをあげたいって思うけど、重たくないかなって、不安で……。あれ?」

口に出せた安堵からなのか、ぽろりと涙が溢れた。

「待って、違うの、あれ……」

涙と震えが止まらなくなってしまい、慌てて涙を拭う。こんな土壇場で困らせるような態度を取るなんて最低だ。ぐすぐすと泣いていると、二宮くんは短く息を吐いて、私の背中に腕を回した。温かくて、さらさらした肌が触れ合い気持ちがいい。額同士を触れ合わせて、二宮くんが言う。

「付き合ってるだろ」
「そう、なの……?」
「俺はそのつもりだった。言わないとわからないか?」
「そんな大人じゃないから、わかんないよ……」
「それに俺も経験はない」
「へっ」

思わず二宮くんを見ると、目を細めてバツが悪そうな顔をしていた。
二宮くんのことだから、経験はあるのだろうと当たり前のように思い込んでいたが、まさかすぎる。でも確かに、モテるイメージはあっても、女性関係の想像が出来ない部分はあるなと思っていたが、そうだったのか。
そう思うと、これまでの二宮くんの振る舞いも、私と同じように手探りで、多少の不安があったのではないだろうか。私は、二宮くんのことが好きだと言いながら、彼のことを何も見えていなかった。

「不満か?」
「不満なんて何もないよ。嬉しい……。私でいい?」
「くだらないことを訊くな」
「うん……」

二宮くんの熱いものが充てがわれて、ぐっと入り込んで来た。

「息を吐け」
「ん……」

深呼吸を繰り返して、二宮くんを迎え入れる。みちみちと広がっていく感覚はあるが、想像していたような痛みはなかった。二宮くんは私を気遣いながら、全てを押し込めると、私を包むように覆い被さってキスをしてくれた。
私は、二宮くんの気高いところが好き。佇まいがしっかりしていて、ポーカーフェイスで、実力もあって、後輩を食事に連れて行ったり、どこか天然なところも好きだ。私はそれだけしか知らないまま、二宮くんとここまで来てしまった。でも、キスした後の少し余裕がなさそうな顔も、すごく優しく私に触れてくれたところも、好きだ。これから知る部分も、全部ではないかもしれないけど、きっと好きになる。
本当のことを言うと、明確に付き合っていると線引きをしてから、二宮くんのこういう一面を一つずつ知りたかった。それに、二宮くんが何故私を選んでくれたのかもわからない。行為が終わったら、答えてくれるだろうか。知りたいな。そんなことを思いながら、二宮くんの背中に腕を回した。


20210625

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