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天気の良い昼下がりほど、何もしたくなくなる。ソファに横になり、適当にスマートフォンをいじってみたり、それを止めて少し目を瞑ってみる。そのうちにふわりと意識が身体から離れ、数十秒ほど眠ってしまう。それを何度も繰り返しているうちに、空白の時間が過ぎていく。
そんな風にまどろんでいると、ふいに口元が柔らかいもので包まれた。目を開けなくてもわかる、これは私のお気に入りのブランケットだ。素肌に触れる裏起毛が心地好くて、昼寝が好きな私にぴったりだとおもって買ったのだ。むふふ、と笑いながらブランケットに埋もれると、頭上で声がした。

「わり、起こしたか?」

私にブランケットをかけてくれた諏訪さんが、静かなトーンでそう言った。少しだけ目を開け、首を振ると、諏訪さんは「ならいいけどよ」と言って、私が寝転んでいるソファを背もたれにし、床に座った。諏訪さんは文庫本を手に取ると、タバコを咥え、ぺらぺらとページを繰る。諏訪さんは私が眠っている間、本を読んでいたらしい。途中まで読んでいたところを探しあて、再び文字の羅列をなぞり始めた。

諏訪さんは普段、人に囲まれてわいわいするのが好きな人だけれど、こうして一人で本に没頭する時間も持っている。本を読むのは少し意外だけれど、エンターテイメントばかり読むのは諏訪さんらしい。言葉の言い回しが巧みなのも、本を読むからなのだろう。私が読むものといえば、SNSで拡散される雑学や、今誰かの身に起きた、私にとってはどうでもいい文章ばかりだ。文字数の少なさから、暇つぶしには丁度いい。それでも、それすらも次第に読む気がなくなって、結局寝てしまう。
諏訪さんと一緒にいる時が、いつもそうなわけではない。お喋りだってするし、テレビ番組や映画のDVDを見たりもする。ただ、時々今日みたいに、同じ空間にいるのに、個人のやりたいことをやる。私はそういう日が結構好きだ。
諏訪さんの無骨な手が、ページの端にかかる。視線を落とした静かな表情は、こういう時にしか見ることができない。ブランケット越しに見つめていると、諏訪さんが私の方を見た。

「なんだ、腹減ったか?」
「諏訪さん、私子供じゃないんですよ」
「じゃあお前に買っておいた菓子はいらねえな」
「やだ、食べます」

したり顔の諏訪さんは、よっこらせ、と立ち上がると、戸棚からお菓子を出してきた。諏訪さんが選ぶお菓子は、大抵スナック菓子だ。男、って感じがする。諏訪さんは菓子の袋を豪快に開けると、「ほらよ」と私の口に押し込んだ。さくさくと噛み砕いていると、諏訪さんはキッチンへ赴き、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ごくごくと飲み始めた。

「こんな真っ昼間から……。諏訪さんってオッサンですよね」
「うるせえ。いんだよ、たまには」

諏訪さんの言う『たまには』は、昼にビールを飲むことであって、ビールを飲むことそれ自体ではない。

「お前だって休みの昼間だってのに、ずっと寝てるじゃねえか」
「……いいんですよ、たまには」
「お?」

真似をして言うと、諏訪さんはにやにやしながら揚げ足をとろうとしてきたので、私はそれを横目で受け流しながらお菓子をつまんだ。


20190526

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