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「おい名前。テメーさっきからどこに刺してきてんだ」

心底呆れた様子で言うカゲに、これは一種の実験なのだ、と訴える。
感情受信体質というサイドエフェクトは難儀なもので、カゲの意思とは関係なく、他人の感情を刺激で受け取ってしまう。負の感情ほど不快に感じると言うけれど、正の感情が快感かと言われたら絶対にそうではない。結局どちらも刺さっているのだから、好意の感情がくすぐったく刺さるとか、そういうものではないのだと思う、知らないけど。
だからこその実験だ。先程から意味もなくムラムラしてしまっているこの感情を、カゲの股間に向けて良い感じに刺していけば、なんか上手いことにならないものかと思っている。そんなようなことを力説すると、カゲは侮蔑とも取れる表情で「バカだろ」と吐き捨てるように言った。

「強弱つけたら刺激がいい感じになったりしないかな? 痛気持ちいいみたいな」
「しねーよ、エロ女」
「否定はしない。今非常にムラムラしているので」
「だからそこに刺すのやめろ!」
「シたいんだもん……」

こうしてお願いをすれば、ご機嫌斜めの時以外は大抵してくれる。誘うのはいつも私からで、カゲから誘われたことはほぼない。それどころか、記憶にないかもしれない。カゲはセックスがあまり好きではないのだろう。それでもしてくれるからカゲは優しい。乗り気でない時は笑ってしまうくらい雑な時もあるけど、たまに壊れ物でも扱うかのように優しくしてくれる時もある。カゲの気分次第なので運によるが。
カゲは舌打ちをすると、「ちょっと待ってろ」と言って一度部屋を出た。何だろうと思っているとすぐに戻って来て、その手にはスポーツタオルが握られていた。

「何それ」
「ツラ貸せ」
「へ?」

頭をぐいっと近づけたカゲは、あろうことかタオルで私の目を塞いで、きつく縛り上げた。これは俗に言う目隠しプレイというやつだろうか。

「カゲ、こういうプレイ好きだったの……?」
「ちげーよ! テメーがくだらねーことしねえようにだなあ」

カゲは行為中、また意図的に股間に感情を刺されると思ったらしい。その通りなので、カゲは私のことをよく理解している。
セックスする時、カゲは自分の服を脱がないことが多いので、今日は無理矢理にでも脱がせて股間やら乳首やらで実験をしたいと思っていたが、先手を打たれてしまった。

「あれ、でも待って。カゲのサイドエフェクトって視線に左右されるっけ?」
「場所わかんなきゃ特定の部位に刺せねえだろ」
「でもこんなタオル自分ですぐ取れちゃうよ」
「それ取ったら今日はもうしねえ」
「……カゲって本当に私のことよくわかってるね」

そんなことを言われたら、取れるわけがない。

「おら、上がれ」

手探りでベッドの輪郭を確認して、落ちないよう慎重に上がり横たわる。カゲもベッドに上がった気配がしたと思えば、早速私に跨って来た。
姿が見えないので、カゲがどんな手順でしようとしてくれているのか全くわからない。少し緊張してしまうが、最初はキスしてくれるだろうと踏んで待っていると、いきなり服をたくし上げられた。今日は雑な日かもしれないが、私には秘密兵器がある。

「おい、ブラのホックどこだ」
「フロント。今日のやつ高いから雑に扱わないでね」
「ったく、めんどくせえな。注文が多いんだよテメーは」

カゲは以前、ブラジャーだけで三万するものを雑に扱いレースを破いたことがあるので、高い下着という言葉に弱い。実際に今日はその時と同じブランドのものなので、トラウマが蘇ったのだろう。
カゲの指が谷間に触れた。そこに触れられるとわかっていたはずなのに驚いてしまう。ブラジャーのホックが外されて、胸が解放される。やけに空気に晒されている感覚がして、肌が粟立った。ブラを気遣ってか、タオルがズレないように衣服を取り払われて、カゲの気配を見失う。こういう時カゲのサイドエフェクトがあれば、どこから攻められるのかがわかるのだろうが、わからないからこその高揚感なんてものはカゲには一生無縁なのだろう。
カゲが動いたような気がした途端、首筋に彼のわさわさした髪がかかった。胸をべろりと舐められて、咄嗟に声が出る。

「すげー興奮してんじゃねえか。相変わらず変態だな」
「やだ、読み取らないでよ」
「したくてしてんじゃねーよ」
「そりゃそう、んっ」

乳首を摘まれて、言葉を遮られる。目が見えないだけで、こんなにもされるがままだなんて思わなかった。そしてそんな興奮が、丸ごとカゲに伝わっているのが恥ずかしくて、気持ちがいい。
カゲの手が私の身体から離れた。もしかして放置されてしまうのかと案じていると、衣擦れの音がした。

「もしかしてカゲ、服脱いでる?」
「悪ぃか」
「え! だっていつも脱がないじゃん。カゲの裸見たのなんて随分前だよ」

どうしてこんな日に限って。いや、こんな日だからこそ脱いだのか。
カゲは気休め程度だが、サイドエフェクトの関係で肌の露出が少ない。顔ですらマスクで覆われている。だから素肌を見る機会はとても貴重なのだ。
カゲの裸を思い出そうとしていると、「やめろ」と言われて口を塞がれた。私とカゲの胸がぴったりとくっつき、さらさらして気持ちがいい。
人間は一つの感覚を失うと別の感覚が研ぎ澄まされるなんて話を聞いたことがあるが、どうやら本当のようだった。唇も舌も、柔らかく、温かくてぼんやりしてしまう。

「はっ、んう」

ゆっくりと脇腹から胸にかけて撫で上げられて、唇の隙間から声が漏れる。今日のカゲは珍しいくらいに丁寧な日だ。カゲの凶悪顔を見ていないと採算が取れないくらいには。
私の輪郭を知らしめるように這うカゲの手は、少し冷たいせいで余計に意識が持っていかれる。ぞくぞくが止まらなくて、感度が普段よりも格段に上がっているのがわかった。

「ちょっと、今日やばいかも……」
「知ってる」
「んっ……。どうしよう、ほんとにやばい」
「いい加減黙ってろ」

まだ行為の序盤だというのに、息が上がり過ぎて、軽く触られるだけで身体が跳ねる。そんな私を見て、カゲはどんな表情をしているのだろう。笑っているのか、呆れているのか。この状況をカゲも楽しんでいるだろうか。

「あんっ、はあ、はあ……」

カゲの手が私の乳首に触れるか触れないかの瀬戸際を撫でた。それだけで感じてしまうだなんて、今日の私は絶対におかしい。頭上でカゲが鼻で笑ったのが聞こえた。きゅん、と子宮が疼く。

「名前、足開け」

素直に従う。早く触ってほしい気もするし、どうなってしまうのか怖い自分もいる。この感情もカゲにはお見通しだ。
スカートと下着を脱がされ、靴下だけになってしまった。側から見たらとても滑稽な姿だろう。
私の下半身が十分に濡れているのが自分でもわかるし、先程から陰核が充血してじんじんしている。カゲの親指が私から滲み出た液体を掬い取って、ぬるついた指で陰核を撫でられた。

「ひぅっ」

小鳥の頭でも撫でているかのような手つきに、自分の意思とは関係なく腰が動き回ってしまう。

「あっ、あー、それイヤ、あんっ」

カゲは何も言わず、ゆっくりと愛撫を続けた。いつもは押し潰されるようにされて激しいのに、今日は浅い快感がゆっくりと永遠に続くような感じがして、逆に苦しい。

「カゲ、カゲ、もうイきたい。変になっちゃう」
「っとに注文多いな」
「ひっ、あっ、あ゛っ、あー」

足を思い切り開かせられて、指がねじ込まれる。ぐちゃぐちゃと掻き回されて、カゲの舌が陰核を撫で回したと同時に達してしまった。余韻で腰がびくびくと痙攣する。

「あんま喘ぐな。下に聞こえる」
「ごめ……」

下の階のお好み焼き屋は、そろそろ昼の営業が終わる頃だ。さすがに聞こえていないとは思うが、万が一を考えると声は控えた方がいい。口に腕でフタをして呼吸を整えていると、突然カゲのものを突っ込まれた。

「んぐっ、んんっ! か、カゲ、ゴムした?」
「ったりめえだろ」
「気づかなかっ、んっ、あ゛っ」

肉がぶつかり合う音と、水音が混ざり合う。激しく揺さぶられて、声が大きくならないように必死に抑え込むが、快感を逃さないと頭がおかしくなりそうだった。枕を握り締めて、歯を食いしばる。

「すげえな今日。そんなにイイかよ」

気を抜いたら声が出てしまいそうだったので、こくこくと頷く。カゲの言うすごいとは、私の今の痴態のことだろうか。それとも感情の方だろうか。正直どっちも大変な自覚がある。カゲの動きを止めるように彼のお腹に手を突くと、「んだよ」とぶっきらぼうに言われた。

「カゲは?」
「あ?」
「カゲは気持ちいい? 顔見えないから、んっ、わかんない。カゲは私のこと、全部わかってるでしょ。だからカゲは、今の私にもわかるようにして」

先程からカゲは私の状況について色々と教えてくれるが、カゲそのものについては何も言ってくれない。私だってもっとカゲのことを知りたいし、何を考えているのか読み取りたい。
すると、カゲは私の目を覆っていたタオルを解いた。金色の鋭い瞳をすがめて、口をへの字に曲げているカゲがそこにいた。それは一体どんな感情なのだろう。不機嫌そうにも、照れているようにも見える。久しぶりに見たカゲの素肌と表情に釘付けになっていると、カゲは舌打ちをして私に被さり、触れるだけのキスをした。

「カゲ?」
「そもそも勘違いしてんだよお前は。いつもどストレートな感情刺しやがって。抑えてるこっちの身になりやがれ」
「どういう……」
「もう喋んな」
「んっ」

手首をベッドに縫い付けられて、深く口付けられながらカゲの動きが再開した。激しく突き上げられて、腰が浮いてくる。普段はカゲの動きに合わせて私も動くが、今日はもうついていけないので、代わりに膣を締めるとカゲが震えた。軋むベッドのせいで、下の階にセックスしているのがバレているのではないかと思ったが、今日はもうバレてしまってもいい。こんなに長くキスしながら動いてくれることなんて、今後しばらくないだろうから。

「ん、んんっ、はあ、ん゛っー」

手を押さえつけられ、口を塞がれたまま絶頂を迎えた。それをカゲはわかっているはずなのに、動きを止めてくれない。逃げられないよう、跳ねる身体に体重をかけられ、快感と酸欠で訳がわからなくなってしまう。苦しいのに気持ちいい。視界がチカチカしてくる。

「名前」

カゲは息を切らして、私の名を呼んだ。それすらも快感に変わる。声が出ないよう手で口を覆って何度も頷くと、カゲは「はっ」と笑った。手首が解放されたので、カゲの首にしがみ付く。カゲも私の背中に腕を回して、きつく抱き締めた。どうやらカゲも限界が近いようで、吐息が肩口にかかった。

「出すぞ」

ラストスパートの荒い律動にこちらもまた迫り上がるものがあり、二人で果てた。二人一緒にだなんてフィクションだと思っていたのに、なんだか気持ちが通じたようで満たされる。射精中のカゲは息を詰まらせながらちらりと私を見たが、すぐに逸らされた。多分今カゲは一番の快感を迎えていて、頭の中が真っ白なのだろう。でもその時に一度でも私を見てくれたことが嬉しくて、カゲはなんだかんだでちゃんと私のことが好きなのだな、と感じた。


20210412
うらがみ様リクエスト作品

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