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夜のファミレスで向かいに座る名字を見る。夕食の時間を少し外した店内の人はまばらで、俺たち以外の会話はほとんど聞こえてこない。名字は入店した時からずっと緊張した面持ちをしていて、沈黙させまいと学校のことやボーダーのこと、はたまた自分のことを一生懸命話す姿に、思わずほくそ笑む。
名字が俺と二人でしたいと言った食事はそろそろ終わろうとしていた。名字は用意していた話のネタも既に尽きたようで、次はどうしようかと思考を巡らせている姿は実に高校生らしく、微笑ましい。
こうして俺を誘ってきた理由はわかっていたが、あえて気付かないフリをしていることに、どうやら名字は気付いていない。自分のことで精一杯で、俺が何を食べたかさえ覚えていないに違いない。このまま右往左往している姿を見ているのも悪くないが、そろそろ助け舟を出してやる。

「そういえば、名字は今日どうして俺だけメシに誘ってくれたんだ? 他にも来られそうな奴がいっぱいいただろ」

頬杖をついて名字を見ると、焦ったような顔をした後、がくりと肩を落とした。予想と少しズレた反応をされたので、軌道修正しなければならない。

「ご迷惑でしたか……?」

こちらの質問の真意を理解できず、しょぼくれる姿が犬のようで、「いや、色々話せて楽しかったよ」と言ってやると、途端に表情を明るくさせた。喜怒哀楽が目まぐるしい。

「えっと、東さんのこと尊敬してるので、戦術とか色々聞きたくて」
「そんなのボーダーでいくらでも教えてやるぞ」
「あ、えっと……」
「俺はてっきり別の意味でもあるのかと思ってたが、勘違いだったみたいで悪かったな」

コーヒーに口をつけ、名字を一瞥する。あまりにもわかりやすい表情をして、無意識なのかセーラー服のスカーフをいじり始めた。前々から焦ると手遊びをする癖があるが、こうすることで落ち着きを取り戻そうとしているのだろう。赤いカーディガンが霞むほどに頬を染めた名字は、唇を震わせて、俯きながら俺に尋ねた。

「勘違いじゃないと言ったら、ご迷惑でしょうか……?」

今にも泣き出しそうな顔で言う名字に、俺は否定の言葉を投げる。名字はおずおずと顔を上げて、「信じられない」と独り言を呟いた。

「でもな名字、俺はお前が思ってるような奴じゃないぞ。失望するなら早いほうがいい」
「そんな! そんなことないです」
「……出ようか」

テーブルの上のレシートを掴んで席を立つと、名字が慌てて鞄から財布を出そうとした。それを手で制して支払いを済ませている間、名字は頬を赤らめて借りてきた猫のように佇んでいた。
ファミレスを出るとすかさず律儀にお礼を言われ、「年上だからな」と返す。しかし今名字が聞きたいのはこんな言葉ではないだろう。気が気でない様子だが、どう切り出していいのかわからず困惑している。導いてやるのはこちらの役割だ。

「正直、名字の気持ちは結構前からわかってた」
「はい……」
「悪い気はしないよ。むしろ可愛いと思ったくらいだ」
「だったら……!」
「でもな、俺が名字に対してそう思うってことは、わかるだろ?」

その気があると前々から自覚はしていた。だからといって行動に移そうと思ったことはないし、恋愛感情とは別な気がしていたので手を出した経験もない。しかしこうして実際に好意を寄せられれば悪い気はしない。むしろこのまま丸め込んでしまいたい気もする。
だがそうはせず、忠告をした。名字の純情が手遅れになる前に、逃げ道を用意してやる。なにより、幻想を抱かれたまま関係が進み、後から裏切られたと思われたくなかった。それと同時に、このくらいの年頃だったら、突き放せば追い掛けてくるだろうという目論見もある。

「世間的にも今の俺と名字が並んでるだけでアウトだろ」

胸元の黒いスカーフを手に取り、撫でるようにするりと滑らせるようにして離す。名字はそれだけで泣き出しそうになっていて、俺はその表情に欲情していた。

「名字はボーダー住まいだったよな。送るよ」

名字の家族は近界民の手によって亡くなり、今はボーダーの宿舎で生活している。未成年との交際に親の同意が必要だとして、名字の場合は身元引き受け人に対して同意を求めればいいのだろうか。誰がその役割を担っているのかなど、彼女のそういった部分については何も知らない。不謹慎で最低だが、その方が都合が良いのも事実だ。
基地に向けて歩き出そうとすると、つんと上着を引っ張られた。肩越しに振り返ると、胸元を抑えて意を決した表情の名字が、熱い視線で俺を捉えていた。想定内の行動に口角が上がるのを感じる。

「帰りたくないです……」

俺の上着を強く握った手を取る。その手は冷えて小刻みに震えていて、名字がどんな気持ちでいるのかが痛い程にわかった。そんな彼女を少し弄んでやりたくなり、手首を撫でるようにして、カーディガンの袖口を捲り上げる。そして持ち上げて手首の脈付近に口付けた。名字は突然のことに驚いて腕を引っ込めようとしたが、生身で俺の力に勝るわけがない。手首に唇を付けたまま、名字を見遣る。

「わかってて言ってるんだよな。これから俺にどうされるのか」

手を離してやると、名字は俺が触れた部分を反対の手で抱え込むようにして、口をはくはくとさせた。ここまでされて理解出来ないわけがない。だが驚愕のあまり言葉すら出てこないらしい。代わりに小さく一度、こくりと頷いた。あまりにも思い描いていた展開通りになり、名字の将来が多少心配ではある。だが俺は決して良い大人ではないので、わざわざ指摘はしない。

「行こうか」

背中を押すように触れると、名字は大人しく従った。柔らかいカーディガンの奥から、壊れそうなほどに脈打つ鼓動が伝わってくる。
名字は歩みを進める度、自分がどうされてしまうのかを想像しているに違いない。思い詰めたような顔をして、先程からだんまりだ。より緊張させようと、名字の汗が滲んだ手を取った。突然のことにパッと顔を上げて俺のことを見る名字の瞳は潤んでいて、街灯の光に照らされ光っていた。目が合って微笑むと、名字はまつ毛を伏せ、空いた手でスカーフを握り締めた。会話が混じることなくしばらく歩くと、目的地に着いた。

「え……」

ネオンが輝くその建物に、いよいよ名字は怖気付いた。困惑から、俺にぴったりとくっついて、震えながら見上げてくる。

「あの、ここって……」
「驚いたか? 初めてだもんな」
「えっと、あの、東さんの家とかじゃ……」
「俺のアパート、ボーダーの奴が何人か住んでるんだ。さすがに見られるわけにはいかないだろ?」

嘘も方便。判断力を失っている名字は、俺のアパートに入る姿よりも、制服姿のままホテルに入るのを見られる方が危険だと気付けない。「そう、ですよね……」と己を納得させるように呟いている。

「やめるか?」

俺がそう言えば否定することは分かりきっていた。しかし選択させることが最も重要なことで、それは保身のためでもあり、名字の為でもあった。

「やめないです……」

怖がりながら俺の腕にしがみ付く。出来るだけ安心させようと頭を撫でてやり、自動ドアを潜った。
エントランスには幸いなことに他の客はいなかった。受付も人がいないタイプのホテルを選んだため、名字を見られずにすむ。部屋の写真が映されたパネルを見て、迷わず空いている部屋の宿泊ボタンを押した。
異空間に迷い込んだような名字は、俺から離れず、興味深そうに辺りを見回している。初々しい姿がまた良い。

「こっちだぞ」

エントランスから移動してエレベーターを待っていると、自動ドアが開いて誰かが入って来た。名字がびくりと震える。俺は名字を隠すようにして立ち、すぐさま到着したエレベーターに押し込んだ。
エレベーター内も無言のままだが、相変わらず名字は緊張で震えていた。名字は誰とも付き合ったことがないと話していたので、今日が初体験になる。どうしてやろうか、と思考を巡らせながらエレベーターを降り、番号が点滅している部屋に入った。
中はそれなりに広く、ごく普通のインテリアで名字はほっとしたようだった。大方もっと下品でいかにもな部屋を想像していたのだろう。所在なさげに立っているので、ソファーに荷物を置くように指示すると、機械のようにぎこちない動きで従った。

「あの、東さん……」
「何か飲むか?」

冷蔵庫を開くと、水が二本入っていた。備え付けの緑茶のティーパックやインスタントコーヒーを指差したが、名字は首を振った。ソファーに腰掛けると、それを見た名字が真似をして控え目に隣に座る。スカートを握り締めて吃る名字をじっと見る。

「あの、私、はじ、初めてで……」
「知ってるよ」
「だから、その……」
「不安だろ。でも今日は俺からは手を出さないから安心していいぞ」
「え?」

狼狽した表情で俺を見る名字の瞳がぐらぐらと揺らいでいる。手を出されると散々意識させられた後に、何もしないと言われたら誰でもそうなるだろう。逡巡し、決意してここまで来たのに報われないなんてと、名字は涙を浮かべ始めた。

「なんで……」
「今の名字は嫌なことがあっても受け入れるだろ。傷付けたくないんだよ」

最もらしいことを言えば、名字は首を振り、「嫌なことなんでないです」と零れ落ちる涙を拭った。俺は名字の頭を撫で手を首の後ろに持っていき、目線を合わせた。ぴたりと名字の動きが止まる。

「俺からは手を出さないが、名字が望むなら出来る限り応えるよ」

これでどう出るかによって、今夜のことが全て決まる。名字が願望を言えなければ、このまま交互に風呂に入って寝るだけだ。
名字は自分を落ち着かせようと、すんと鼻を啜って呼吸を整えた。そして、切なげにこう言った。

「抱きしめてください……」

言葉を聞き終わる前に、すぐさま抱き締めた。口に出せばすぐに叶うという印象を与えて、要求を引き出しやすくするためだった。腕の中に閉じ込められた名字は、俺の背中に腕を回して必死に抱き付いている。服の上からだというのに、ひどく熱い名字の身体。愛おしくなって、つい後頭部を撫でてしまうと、名字の腕に力が篭った。

「東さん……」
「うん?」
「な、名前で呼んでほしいです」
「名前」
「っ!」

二つ目の要求はあまりにも簡単なものだった。しかしよほど嬉しかったのか、満足そうに笑っているのが伝わってくる。

「他には? もうないか?」

耳元で囁くと、名前の腕の力が弱まった。考える素振りをして、ふいに顔を上げる。熱に浮かされたような顔で俺を見つめ、半開きになった唇から小さく「キスして……」と聞こえてきた。
俺は名前の頬を両手で包み込み、掬いあげるようにした。俺の手の中にすっぽり収まる小さな顔に近付き、唇を交える。緊張して硬くなっている口元をほぐす様に触れ合わせると、息を止めていた名前の口が開いた。すかさず捻じ込んで口内を荒らしていく。何が起きているのか把握し切れていない名前は、たどたどしく、されるがままになっていた。
深く長いキスを終わらせると、名字が崩れる様に俺にもたれかかってきた。受け止めて背中を撫でる。肩で息をする名前は、必死に俺の服を握り締める。

「私の全部、東さんにあげます。だから、だから、して……」
「……わかった。ベッド行こうか」

口元を押さえて頷いた名前は、よろよろと覚束ない足取りで、俺に言われるがままベッドサイドに座った。名前の前にしゃがんで、膝に唇を落とす。そして足を少し開かせて、内腿から奥へと手を滑らせた。びくりと震えて、足を閉じられる。

「名前?」
「東さん……」
「してほしいんだろ? だったらどうすればいいかわかるな?」

名前の足が粟立つ。名前は口元を手で隠したまま、そっと足を開いてプリーツスカートの上側を捲り上げた。羞恥に震える名前の重心を少し後ろに倒させると、恥部から水音がした。まだ触ってすらいないにも関わらず、もう随分濡れて透けてしまっている。スカートの中に侵入して、下着の上から舌を這わせる。

「あっ!」

突然の刺激に名前が仰け反った。また足を閉じようとしたため、手で強制的に開かせる。下着から浮き出ている陰核を舐ると、びくびく震えながら俺の頭に手をついてきた。構わず続ける。

「やっ、だめっ、あん、東さん……!」
「だめならやめるか?」
「違っ、ん、やめないで、あぅっ」

下着をずらして直接舐めると、名前はびくりと腰を浮かせた。可哀想なほどに濡れた下着を脱がし、両足をベッドに上げて開かせる。誰にも見せたことがない陰部は唾液と名前のものが混じり、薄らと光っている。

「恥ずかしいです……」
「かわいいな」
「あ……」

押し倒し、ベッドの中心に移動させ覆いかぶさる。未だ不安げな名前に笑い掛けると、少しだけ微笑みを返された。
小刻みに溢れる名前の吐息すら奪う様にして口付けながら胸に触れる。セーラー服の上にカーディガンを着ているため、柔らかな感触はほとんどない。触られているということを実感させるために強めに撫で上げると、顔の横にあった名前の手がぎゅっと結ばれた。
舌を吸い、手を服の中に忍び込ませる。滑らかな名前の腹から背中に手を回し、下着のホックを外した。緩くなった下着の下から名前の胸を包み込む様に優しく揉みしだく。恥ずかしがって顔を背けたので、更に制服をたくし上げて胸を露わにさせると、名前はぱっと胸を手で隠した。

「名前?」
「小さいから……」
「大きさは関係ないだろ」
「でも……」
「見せてくれないのか?」

そう言うと、名前はそろりと手をどけて、きつく目をつむった。つんとした先端を口に含んで刺激する。そうしていく度に名前の呼吸が荒くなって、恥ずかしさの余り顔を腕で覆ってしまった。スカートの中に手を伸ばし、濡れそぼった割れ目に指を滑らせて、中指の先をゆっくりと差し込む。

「痛かったら言ってくれ」

押し進めて反応を窺う。抜き差ししても痛がる素振りはない。薬指を濡らして、二本目を押し込むと、名前は顔を歪ませた。

「力抜けるか?」

頷いて深く呼吸をする。名前の中は溶けそうな程に熱く、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる。

「痛いか?」
「だ、大丈夫です。変な感覚で……」

瞳を潤ませながら言う名前の目蓋に唇を寄せると、嬉しそうな顔をした。堪らなくなって深く口付けながら、中を慣らしていく。おそらくスカートは洗わないといけないだろう、などと頭の片隅で考えながら、ざらついた上側へ指を折り曲げたが、特別な反応はない。まだ最初だからな、と己に言い聞かせる。口を離すついでに、名前がどこまで俺を受け入れるのかが知りたくなった。

「口開けて」

言われるがまま開いた口に、数センチ上から唾液を垂らす。すると名前はとろけた表情のまま、何の疑問も持たずに舌で受けてそれを飲み込んだ。迫り上がるような興奮を抑えられず、ベッドのカウンターにある避妊具に手を伸ばす。名前はいよいよその時が来たのだと悟って、足を震えさせた。

「怖い?」

膨張した自身のものを取り出し、避妊具を装着する。名前は気にしていないふりをしているが、これから自分の中に入ってくる俺のものに意識を研ぎ澄ませていた。

「怖いけど、東さんが好きだから……」

思い返してみると、はっきり好きだと言われたのはこれが最初だった。口角が上がる。先端を名前の股に滑らせて濡らし、宛てがう。わずかに先が入って、温かさが浸透してくる。

「俺も好きだよ」

押し返してくる襞を裂く様にぐっと腰を入れて、名前の純潔を散らした。痛みがあるのだろうが、名前は無理して笑って、俺の首に手を回してくる。

「好きだ」

もう一度言うと、名前は小さく「嬉しい」と呟いて、俺に全てを預けた。
これから俺の手によって形を変えていく名前が楽しみなような、いたいけな姿のまま性癖を歪ませることに罪悪感を覚えるような、二律背反を抱えたまま名前の中に埋もれていく。


20210326

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