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 例を挙げるとするならば、服を着たまま顎下まである泥水の中を掻き分け歩くような、鳩尾の下を延々に強く押され続けているような不快感。眼球の奥で、無限に広がっていく空間と、反して自分が小さくなっていくような、落下に似た感覚。思い切り走り出したいのに、小刻みに膝上まである何かに阻害され、転ばないようにするだけのもどかしさ。
 これは一部に過ぎないが、そんな思いをしているのは俺だけではなく、あの場に集まっていた人間全てそうに違いなかった。何でもないような顔をして向き合って座り、じっと盤面を見つめているだけの少年少女の内側は、ただ凪いでいて、吹き荒んでいて、孤独に震えて矛盾だらけだった。
 長年かけて頭に叩き込んできた定跡や、先人が辿り着いたシステム、改良され続けていくワクチン。終わりのない情報をひたすら咀嚼し続けていく。
 終わりなどそもそも存在していない。終わらせないためにずっと息を殺して、相手の動きを封じていくための機会を窺う。その静かな指先は、時々光って眩しく見える時がある。攻めに転じる時や、勝敗の決定打となる一手を指した時の相手の表情を凍り付かせる温度のない指。そんな指先を俺は持っていた、中学の半ばまでは。
 十三歳で研修会のB2クラスに上がった。プロ棋士になる手段は複数があるが、研修会から奨励会に編入して勝ち上がるのが最もメジャーな方法だ。奨励会に入るためには十五歳までにA2クラスに上がる必要がある。研修会とは二十歳以下の人間が所属しているプロ棋士の養成機関で、将棋を習い事で終わらせる気のない人間が互いに心を打ち砕き合っていた。
 プロ棋士を目指している人間は誕生日を嫌う。年齢制限という壁があるからだ。かく言う俺もその中の一人で、十五歳まであと二年しかないというのに、B1になかなか上がれず、一進一退を繰り返していた。その歳を過ぎてもA2になれない場合、より難しいSに十八歳までに上がることが出来れば奨励会に編入出来るが、多くの人間はそこまで上り詰める前に、己の棋力に見切りをつけて場を去るのが常だった。また、奨励会に編入出来たとしても、二六歳までに四段に上がれなければ強制的に退会となり、プロ棋士の道は閉ざされる。ニ六歳で何者にもなれなかった後の人生を想像するだけで恐ろしい。そういった意味でも、自分の才能を信じ続けるのは強靭なメンタルが不可欠だった。
 自分の夢を叶えるために、一体何人の心を殺してきたのかわからない。
 将棋は全てが自己完結している孤独な競技だ。勝てば自分のおかげで、負けたら自分のせい。他人を責める必要がないから気が楽だと言われるかもしれないが、何年も自分一人を責め続けるには限界がある。反対に勝利した時の喜びは全て自分に返ってくるため、自信に繋げることができた。ぴんと張った糸が唯一緩む瞬間で、全てが報われたような気になる。しかしそれも一瞬で過ぎ去り、また沈黙の苦痛が続く。
 一日中、限られた時間の中で呼吸も忘れ、陸地を目指して荒れた海を進む小舟のようにがむしゃらだった。しかし俺の最後の日はあっけなく訪れた。
 相手は小学生。発達しきっていない手で鳴らされるパチ、パチという音は、俺が積み上げてきたものを着々と崩していった。
 俺は十四歳で、未だB2にいた。どれだけ手を尽くしても勝ち続けられない。追い詰められ、逃げるか、殺される前に攻めるかの瀬戸際で、何か手はないかと長考したが、時間も切れた。
 駒を進める。すぐに返される。駒を進める。角を取られる。どんどん崩壊していく盤面を前に、為す術がなくなる。

「負けました」

 その敗北宣言は、将棋の世界で生きていきたいという夢を終わらせる、ひどく短い言葉だった。これまで俺が息の根を止めてきた亡霊たちは、俺を巻き込んで目の前の小学生に取り憑いたに違いなかった。
 赤の他人に夢を託す気などさらさらない。だが同時に、頼むから俺のようになるな、という祈りにも似た思いを抱いた。



「こっち全部片付いたで。マリオ、他に反応あるか?」

 大型トリオン兵が家を巻き込みながら倒れていくのを横目で見ながら、耳に手を当てて通信を図る。向こうで隊長の閃空孤月で真っ二つにされた敵の姿も目視で確認出来た。

『終わったみたいや。今そっちに……が……とる』
「なんや、また通信障害かい。マリオ、聞こえるか?」

 通信を試みたが、ブツブツと途切れて何と言っているのか聞き取れない。討伐の方が付いた後だったからよかったものの、このところボーダーの通信機器や本部の調子がおかしい。異常が出た初日は本部内のモニターが表示されなくなったり、数秒間の停電などがあった。

「お疲れさん。なんやマリオちゃんのかわいい声が聞こえないやん」
「そうスね。本部に連絡も出来ひんみたいです」

 屋根の上を渡って隣に下りてきたイコさんが孤月を鞘に納める。それに続いて海、少し遅れて隠岐と合流した。全員無傷だ。
 これまで一人で戦ってきたせいもあってか、チームで戦うというのは奥深くて面白い。自分以外の駒を動かし、相手を削っていくのは思い通りにいかないことも多くやりがいがある。自分の能力だけでなく、チームとしてどんな動きが出来るか、相手を詰ませるための臨機応変な作戦をその場で考えるのは好きだ。
 息苦しかった中学生時代の経験が、まさか人や街を守るために使われるとは思ってもいなかったが、ようやく俺は報われたのだと素直に感じている。海は違うが、関西からスカウトされて来て集まったチームメンバーの隊長の名が『生駒』だったのも運命的な何かを感じたが、本人に言うと勘違いされそうなので伝えたことはない。

「トリガーに異常がないだけでもよかったですよ。これが壊れたら戦えんですし」
「本部はまだ原因調査中って言っとるけど、明らかに何か起こっとるな」
「そういえば話変わりますけど水上先輩、名字先輩と連絡取れました!? やっぱフラれたんですかね」
「お前はまたいらんことを……」
「名字ちゃんかわいいからな。ちょい難しそうな子やけど。頭いい同士お似合いやと思ってたけどなあ」
「イコさん、決め付けはあかんですよ」
「そやな、堪忍してや水上」

 イコさんが舌を出しておどけた。好き勝手言われているが、面倒なので聞き流す。しかし海の言う通り、この数日名前と連絡が取れていない。それはボーダーで通信障害が起きた日と一致している。それだけで、今ボーダーに何が起こっているのかが大体予測出来た。

 名前はホワイトハッカーという奴で、鬼怒田さんの下で雇われている非正規社員だった。初めはハッカーと聞いて犯罪者を想像したが、話によるとサイバー犯罪を犯すような奴らはクラッカーと呼ぶらしく、ハッカーとは別物なのだと力説された。
 同い年で手に職をつけるのは並大抵の努力ではない。名前は頭が良かったが、ネクタイが好きではないという理由でこちらの高校を選んだという。自頭は良いが、少し変わっているというのが名前の第一印象で、それが面白い子やな、と思った。名前も俺の何を気に入ったのか懐いてくれて、いつの間にか深い仲になっていた。
 名前は時々授業をサボり、屋上に続く階段でパソコンを弄っては、学年主任に見つかり説教されていた。テストも適当で、答えがわかっているのにわざと間違えてみせたり、全く関係ない、誰も理解できない数式を書いて教師を困惑させたりするのを楽しんでいた。反して選択授業の美術には真面目に取り組んでいた。絵の具が手につく度に席を立って洗うほど汚れに関して敏感なのに、何故美術にしたのかを聞けば、「ままならないところがいい」と笑った。しかしセンスが全くなく、周りから画伯と呼ばれていて、そこが名前の憎めないところでもあった。
 そして高二の秋、名前は三門市立第一高等学校を中退した。特に相談もなかったが、そう判断したのも名前らしいと思ったので追求するつもりもなかった。そういった距離感が名前は好きだったようだ。
 一応高校の卒業資格は取っておくようで、通信制高校に切り替えた名前は、今でもたまに学校に通っている。体育の授業が面倒だとぼやいていたのも記憶に新しい。
 そんな名前と連絡が取れないのは初めてのことだ。今までは常に何かしらの端末を側に置いているので、どんなタイミングでも即レスだった。ボーダー内に住んでいて、外出をしている様子もないが、部屋にもいない。普通の状況ならば失踪を疑ったかもしれないが、今のボーダーの状況を考えるに、名前は仕事中なのだということがわかる。
 全員で本部に戻って作戦室に行くと、パソコンと睨み合っていたマリオが顔を上げた。はあ、と安心したような顔をする。

「お疲れさん。途中通信出来なくなって焦ったわ。無事で何よりやな」
「まだ障害続いとるんか?」
「いや、今見たら直ったみたいやで。ホンマ何なんやろ。勘弁してほしいわ」

 常にパソコンと向かい合って隊員を支援しているオペレーターだからこそ、今回のことは堪えているようだ。
 ボーダーはその仕組みからネットワークが必要不可欠のため、強固なセキュリティを誇っているはずだが、それを脅かす何かが水面下で起こっている。
 イコさんが任務を終えた報告を通信でしようとした時だった。作戦室に来客を告げるブザーが鳴る。隠岐が「自分出ますわ」と言って扉を開けると、そこには深妙な面持ちの忍田本部長が立っていた。思わぬ人物に海が「え!」と驚いている。

「突然すまない。任務ご苦労だった」
「お疲れさまです」
「単刀直入に言うが、少しの時間水上隊員を借り受けたい」
「俺ですか? ええですけど」
「ありがとう。付いて来てくれ」

 お前何かしたんか、という隊員の目線に、何もしとらんわ、と訴えて忍田本部長の後に続く。忍田本部長は足早にどこかへ向かう廊下で、「さて」と切り出した。

「大方検討がついているだろうが、我々ボーダーのネットワークは今、他方向からサイバー攻撃を受けている」
「やっぱそうですか」
「鬼怒田開発室長の指揮の元、名字くんが先頭に立ってエンジニアと共に戦ってくれているのだが……」
「あんまり良い状況やないんですか?」
「いや、名字くんの働きによって、サーバを取り返すことができた。情報も奪われていないようだ。だが……」

 言い淀む忍田本部長の口ぶりに、一抹の不安を抱く。呼ばれたものの、俺はネットのセキュリティに関してはど素人だ。つまり、俺にしてほしいのは、名前に関する何かなのだろう。

「名前、何かありました?」

 訊くと、忍田本部長は丁寧に言葉を選び、名前の今の状況を教えてくれた。
 名前はもう四日、まともに眠っていない。初日は侵入者に食い尽くされたファイアーウォールを直す作業に取り掛かり、同時にボーダー内の情報を吸い取られないよう防衛にあたっていたという。海外のサーバを経由した侵入者は、ボーダーが抱えている機密事項の技術や情報を盗み取ることが目的のようだ、と忍田本部長は語った。
 トリオンの存在すら公表されていない世の中だ。ボーダーの情報が表に出たら、良からぬことが起こるのは目に見えている。最悪トリオン技術を使用した戦争が世界で起こる可能性もある。そうしたことがないよう情報操作や、記憶封印措置などが行われているのだ。
 現状、近界民は三門市にしか現れないとされているが、誰も知らないところでゲートが海外に開かれていても何らおかしくはない。不正アクセス者が何のためにボーダーの情報を得ようとしているのかはわからないが、強固なセキュリティを突破してきたということは、相手も興味本位なわけではないのだろう。

「悔しいが、敵の実態が見えない以上、我々にできることは少ない。今は沢村くんが名字くんについて身辺のサポートをしてくれているのだが、先程名字くんが、君を呼んでほしいと言ってきた」
「名前が……」
「隊員同士の関係にわざわざ口を挟むつもりはないが、君が側にいることで名字くんの力になれるようだな」

 忍田本部長が微笑ましい、とでも言うように俺を見た。気恥ずかしくなるが、名前が俺を求めてくるくらい、事態はひっ迫しているのも実感した。
 ボーダーのセキュリティを司るコンピューター室の前で、忍田本部長が立ち止まる。

「最後に名字くんからの伝言なのだが……」
「伝言?」
「こんな姿を見せてすまない、と」

 扉が開くと、鬼怒田さんの怒号にも似た指示が飛び交っていた。その声は掠れていて、疲労が窺える。室内には十数名のエンジニアがパソコンと向かい合っていて、奥で仮眠をしているのか、倒れているのかわからない職員が数名いたが、その中に名前の姿はなかった。

「名字くんはあそこだ」

 部屋の一角、記憶よりも痩せた名前が背中を丸めて、床に置いたノートパソコンに一心不乱に何かを書き込んでいる姿があった。椅子に座っていられないのだろう。いつ倒れてもおかしくない程青白い顔に、冷や汗をかいている。息も上がっていて苦しそうだ。
 声を掛けようとした次の瞬間、名前は近くに置いていたバケツを引き寄せ、嘔吐した。すぐに沢村さんが名前の背をさすり、口を水でゆすがせる。顔を上げた名前は涙目になりながらも、また画面へと向き直った。想像していたよりも悪い状況に、拳を握る。それでも俺の頭は冷静だった。

「トリオン体やないんですか?」
「二日目まではそうだった。今はトリオンが切れて、休養もとっていないため名字くんのトリオンは回復していない」

 胃の中が空なのだろう。名前が吐いたものは胃液のみのようだった。吐くほどの疲労。それでも時間が惜しいのか、手は動いたままなのが痛々しい。
 名前は人よりも綺麗好きで、風呂も好きだったが、髪を見るにそんな時間すら取れていないのだろう。精神的苦痛も受けながら四日間、ずっとあそこで戦っていたのかと思うと、知らずに過ごしていた自分が情けなくなる。

「水上くん、来たのね」

 汚れたバケツを持った沢村さんがこちらに近づいてきた。外に片付けに行くところらしい。

「お疲れさんです」
「ありがとう。早速で悪いんだけど、あそこのケトルに白湯が入ってるから、置いてあるラムネを溶かして名字さんに飲ませてくれる?」
「はい」

 壁際に置かれたテーブルの上には名前のために用意されたであろう塩、インスタントのすまし汁、腐りかけのバナナなどの飲食物が置かれている。人肌ぐらいに冷めた白湯を紙コップに注ぎ、沢村さんが言うラムネを探した。

「ラムネて、ブドウ糖やん……」

 ブドウ糖は唯一脳のエネルギーとなる成分で、砂糖と違い吸収率が段違いに良い。頭を使う競技をしていたからこそ、この必要性がわかる。名前はもう疲労で固形物を摂取出来ないのだろう。身体よりも頭を働かせるためにこの手段を取っているのだろうか。
 ブドウ糖を紙コップに数個入れると、溶けやすく出来ているのか、サッと白湯に拡散した。

「名字、少し休まんか! もう限界だろう、こっちは何とかなっておる!」

 俺が準備をしていると、鬼怒田さんが名前に向けて声を張り上げた。名前は何も言わずに手を動かしている。

「名字!」
「早く向こうの動きを止めたい。それに今休んでも目が冴えて眠れないしその時間がもったいない。もし気絶したら十分後に起こしてください」
「お前な……っ!」

 名前が言うその感覚はほんの少しわかる。身体は疲れているのに、目は全方位に映るものに敏感になり、そわそわして眠れなかった経験が俺にもあった。
 俺は紙コップにストローを差して名前に駆け寄った。張り詰めて、触れたら途端に千切れてしまいそうな程集中している姿に、不謹慎だが見惚れてしまう。
 誰も立ち入れない領域に名前は一人でいる。一年以上付き合っていたが、こんな名前は見たことがない。何と声をかけたらいいか迷っていると、ふいに名前が「水上?」と俺の名を呼んだ。出来るだけいつも通りに、名前の好きな距離感を心掛ける。

「来たで。なんや大変なことになっとるらしいな」
「ほんとにヤバい」
「沢村さんがこれお前にて。飲めるか?」

 口元にストローを近づけると、名前はゆっくりと息を整えてからそれを飲み始めた。途中えずくが、なんとか堪える。

「汚くてごめんね」
「いや、気張ってる証拠やろ」
「助かる」
「ん」

 この姿を、誰が汚いと思うだろうか。一人パソコンに向かって、一般人には何が書いてあるのかわからない記号の羅列を読み、書き込んでいくその姿を。見ると、指先は真っ赤になって、右手中指の爪の脇から血が滲んでいた。キーボードにも血が付いている。指の血ではない。何だ、と思っていたら、ボタボタと名前の膝に赤い雫が落ちた。

「名前、鼻血出とる」

 慌てて近くにあったティッシュで鼻を抑えてやる。しかし名前は気にもせずにコードを書き込む手を止めない。鼻を抑えたまま、周りの血を拭う。少ししたら止まったので、手を離す。

「ありがとう」
「おん」
「今、敵を返り討ちにするためのソフトを作ってる。これが出来たら敵の攻撃の弾道を解析して経由してる踏み台を全部クラッキングして、逆探知して警察に突き出す、予定。上層部の判断による」
「小難しいこと言われてもわからん。つまり、もうすぐ終わるってことやな?」
「そう。もう好きにさせない」
「俺、なんも出来ひんな」
「そんなことない……」

 名前の目は未だ俺を一度も映していないが、名前は続ける。

「周りの景色が見えなくて、自分がどうなってるのかわからなくてすごく怖かった。でも水上の声と気配がして、安心した。まだ頑張れるって思ったよ」
「めちゃ褒めるやん」
「分野は違うけど水上も一人で戦ってきた人だから。だから好きになった」
「……人おるぞ」
「構わない」

 口元に笑みを讃えて、名前はようやく俺を見た。すぐに逸らされてしまったが、名残惜しいなどとは微塵も思わなかった。
 忙しなく動く名前の指が、モニターの光にぼんやりと照らされて光っているように見える。姿のない敵の息の根を止めるための、か細いたった十本の指。俺がかつて持っていた光を、名前は持ち続けている。
 名前はこの年までずっとこうして一人で、ゴミだらけの膨大な情報の海を読み解き、砂漠の中から小さな石を見つけ出すようにして日々を生きてきたのか。そしてそれはこれからも変わらない。血が出ても、嘔吐しても手を止めることはない。

「(カッコよすぎるやろ)」

 美しいものとは、こういうものを言うのだろう。生涯口に出して言うことはないとしても、今の名前の姿は俺の記憶に永久に残り続ける。この瞬間が終わるまで、名前のことを眺めていたい。形にして残しておきたいとさえ思う。
 名前は血走った目で、モニターに食いついている。俺が入って来た時よりも元気になっているように見えるのは、名前が言うように俺のお陰ではない。最後の最後で舞い上がるような高揚感は、勝負の終わりを意味している。それで名前は逸っているに違いない。外野からの応援などもう関係ないだろうが、名前の精神力だけ切れないようにと、側で見守る。名前は少し微笑んで、目に見えない現実の海を掻き分け泳いでいく。


20210320

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