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横たわる私を見下ろしながら、犬飼くんが自分のワイシャツのボタンを外していく。急ぐわけでもなく、ただ静かに外されていくボタンと、これから私に触れるであろう指先に視線がいく。彼はワイシャツから袖をそっと抜くと、ベッドの下に落とした。そして私に覆い被さると、私の頭の横に肘をつき、唇が重なった。眠りにつく直前の微睡に似た、心地好い感覚がする。ふ、と犬飼くんが顔を上げた。いつも何かしらの微笑を湛えている彼の表情から、そういったものが抜け落ちて、一瞬誰だかわからなくなる。先程まで楽しくおしゃべりしていたはずなのに。犬飼くんは私との行為中、一言も言葉を発さないのは何故なのだろう。
開かれた私のワイシャツの中に顔を埋める犬飼くんの髪が首筋に触れてくすぐったい。触れられている胸の感触よりも、こっちの方が気になってしまう。髪を撫でつけるようにすると、犬飼くんが上目で私を一瞥した。
胸の先端の縁をなぞられて、時々掠める。しかし私は感覚が鈍いのだろう。先端を擦られるだけでは、ただ触れられているということしかわからない。潰されて、ようやく何かを思うことがある。不感症なわけではないが、いつも尽くしてくれる犬飼くんには申し訳なく思う。
犬飼くんは私の胸元から顔を上げると、口付けながら私の腹に手を滑らせた。そのままチャックを外して緩くなったスカートの中に忍び込まれる。下着の上から形を確かめるように触られて、息が上がる。目線が触れ合えば、犬飼くんが優しく笑った。本当は、その表情のまま、何でもいいから語りかけてきてほしい。しかし犬飼くんはまた元の表情に戻ると、無言で私の秘部を下着の上から撫でる。水音がして、羞恥からなのか、身体の芯に稲妻のようなものが駆け抜けた。

「あ……」

下着の上から突起を軽く引っ掻かれて、声が漏れてしまった。こんなにも静かな部屋で、犬飼くんが聞き漏らすわけがない。犬飼くんは少し目を細めて、一定のリズムでそれを繰り返した。

「んぅ……はぁ」

私だけが善がっているのが恥ずかしくて、手の甲で口を押さえて堪えようとしたが、ぐずぐずと突起に停滞し続ける快感に成す術がない。喉や鼻から吐息が抜ける。すぐに酸素が足りなくなり、口を離すとそのタイミングでスピードを早められた。

「あっ、んんっ、ん」

内腿が痙攣してくる。とにかく恥ずかしくて、手で顔を隠すように覆ったが、犬飼くんの空いている方の手で払い除けられてしまう。どうしようもならない私を、彼がどことなく嬉しそうな顔でじっと見ていた。

「見ない、でっ、あ、あっ、や」

目を開けていられなくなる。そうすると、余計に快感が意識されて、どんどん上り詰めていく。

「んん!」

ぎゅう、と枕を掴みながら果てた。腰がびくびくと震える。犬飼くんはそんな私の頭を撫でると、下着に手をかけた。腰が浮いていたので、呆気なく剥ぎ取られてしまう。犬飼くんは指先で私の陰部から溢れた液を掬い取ると、それを馴染ませるように擦り付けた。ちゅく、という音と共に、指が沈み込む。わざとなのか、そういうものなのかはわからないが、私が今どうなってしまっているのかを知らしめるような水音に、また昂ってきてしまう。
私の中を慣らし終わった犬飼くんは、濡れてしまった指をティッシュで拭うと、私の頭の上に置いてあった避妊具に手を伸ばした。ベルトを外す音がする。犬飼くんはスラックスを全て脱がずに中途半端に下ろして、下着からそれを露わにした。避妊具を装着するところをまじまじと見られるのは気まずいかもしれないと思って、目を逸らす。装着している音を聞きながら、なんとなく足を閉じると、すぐに開かされた。
身体に割って入ってきた犬飼くんは、私の頭を抱えるようにして密着すると、穴を探し当てるように往復させて、沈めた。すぐ近くにいる犬飼くんから吐息が漏れる。抱きつくと、ゆるゆると腰を動かしながら唇を寄せられた。私も求めるように犬飼くんを迎え入れる。次第に腰の動きが早くなっていって、詰まるような声を漏らしてしまった。犬飼くんとの行為は気持ちが良い。しかし私は、これもまた自分のせいなのだろうが、中で絶頂を迎えた経験がまだない。
身を起こした犬飼くんに両腕を引かれ、起き上がる。上に跨るような体勢になり、そのまま突かれる。苦しくて犬飼くんの頭を抱きしめたら、彼は再び私の胸に吸い付いた。頭の片隅で器用だなと考えていたら、犬飼くんが後ろに倒れて私の手を絡め取った。会話はないけれど、どうすればいいのかは手に取るようにわかる。自ら腰を動かしてみるが、反応をほとんど得られない上に、自分が気持ちいいのかすらわからないので、果たして合っているのかといつも疑問に思う。疲れてきてしまい、犬飼くんに目線で訴える。

「んあ、あっ」

繋いでいた手が離れて、腰を掴まれた。すると激しく突き上げられて、私は堪らずくずおれる。重力に身を任せた私の小さな胸が、ふるふると揺れていて恥ずかしい。耐えていると、犬飼くんはまた私を押し倒して最初の体勢に戻し、私の両足を曲げて抱えた。深いところに当たって、呻き声に似たものが出た。苦手な感覚だ。力を逃がそうと身をよじるが、足を固定されてしまっているので出来ない。我慢強さには自信がある方だが、これだけは怖くてだめだ。

「こわい、やだ……」

静止を促すと、すんなりと聞き入れられた。私の初めてを犬飼くんに捧げる直前、犬飼くんは「嫌なことがあったら伝えてね」と言ってくれた。それを今でも忠実に守ってくれている。
私の足を解放し、ゆっくりと動かしながら犬飼くんが倒れてくる。しがみつくと、犬飼くんの動きが早くなった。息も荒い。足を犬飼くんの胴に巻きつけると、乱暴に口付けされて、動きを停止した。中で犬飼くんの脈拍をわずかに感じて、全力疾走した後のように肩で息をする彼の頭を撫でる。息を整えて私の中から己を引き抜いた犬飼くんにティッシュを渡すと、ようやく「ありがとう」と口を開いた。
それぞれ後処理をして、服を掻き集める。犬飼くんはすでにワイシャツを着終えて、私の横に倒れ込み、もたもた着替えいる私を楽しそうに見ている。いつもこの後しばらく会話もないまま惚けたように横になっているのだが、私はついに、犬飼くんに問いを投げてみようという気になった。

「犬飼くんって、最中にどんなこと考えてる?」
「え?」

犬飼くんが目を丸くした。しかしいつものニヤけた表情に戻る。

「名前ちゃんかわいいなって思ってるよ」
「そういうのじゃなくて……」
「あれ、違った?」
「犬飼くん、どうして何も喋らないんだろうってずっと思ってて」

すると彼は、少し照れたようで、「ええ……」と眉を下げて顔に手を当てた。思わぬ反応にこちらが困惑する。しかし犬飼くんはすぐに笑顔になると、私のめくれたスカートを戻しながら続けた。

「最中にベラベラ喋るの嫌かなって」
「そんなことない、と思う……」
「あ、そう」
「犬飼くん?」

犬飼くんはこんなにも嘘が下手だっただろうか。私の視線を受け続けた彼は、降参だとばかりに片手をあげ、枕に顔を埋めた。

「いやもう、普通に余裕ないだけ。頭の中では名前ちゃんに色々言ってるつもりだから」

あの犬飼くんが恥ずかしがっている。見たことない姿にときめいてしまう。

「意外……」
「名前ちゃんは俺を何だと思ってるの。俺も普通の男の子なんだけどな」
「ふふ、うん」
「なに、言葉責めみたいなのされたかった?」

顔を上げた犬飼くんは、不敵な笑みを浮かべて私に問う。

「ちょっとされてみたいかも」
「えっ」

犬飼くんにだけ本心を話させるのはよくないと思って素直に頷くと、驚いた顔をされてしまった。そして犬飼くんは脱力して長いため息を枕に浸透させると、頭を抱えた。

「名前ちゃんってもっとエッチに淡白なのかと思ってた」
「そんなことないよ」
「そうなんだ。それは嬉しい。でも名前ちゃん気持ちいいの苦手だよね」
「なんか怖くて。ごめんね」
「その怖いを乗り越えた先に色々あると思うんだけどなあ。無理はさせないけどね」

犬飼くんに招かれて、真横に身体を横たえると、腕枕をしてくれた。犬飼くんの肩口に頭を乗せて見つめ合う。

「俺もずっと気になってたこと聞いていい?」
「うん」
「何で未だに名前で呼んでくれないの?」
「え……」

今度は私が動揺する番だった。腕枕をされている手で頭を抱えられてしまい、顔を背けることが出来ない。

「名前で呼んでほしいって何回か言ってるよね」
「それは……」
「理由ある?」
「……ある」
「教えて」

口元は弧を描いているのに、どこか寂しそうな瞳に嘘を吐けない。顔を手で隠しながら「バカにしない?」と確認すると、「多分ね」と返された。

「あの……よくフィクションとか、でも実際にあることだとは思うんだけど」
「うん」
「その、例えばの話だよ。例えば、結婚したとして」

例えばを強調して言ったが、犬飼くんは黙り込んでしまった。しどろもどろになりながら言う。

「同じ名字になったのに相手のこと名字で呼んで、そっちももう◯◯でしょ、みたいなやり取りに、憧れてる……」

尻すぼみになってしまったが、この距離ならばばっちり聞こえている。反応がないので、指先からちらりと様子を窺うと、目を丸くした犬飼くんがいた。顔に熱が集まる。

「忘れて……」
「ちょっと待って、忘れるのは無理でしょ」

顔を隠している手を握り込まれて、視界が晴れる。先程とは打って変わって、嬉々とした表情の犬飼くんがいた。

「名前ちゃん、すごい俺のこと好きじゃん」
「そうだよ……」
「やばい、ニヤける」
「犬飼くんはいつもニヤけてるよ」
「かわいいね。そんなこと思ってたんだ。名前ちゃんってイマイチ考えが読めないから」

顔を見られないように犬飼くんの胸に額をくっつけると、抱きしめられた。犬飼くんも私と同じように、相手が何を考えているのかわかっていなかったらしい。いつも悟ってくれているような素振りなので、自分が感情が表に出にくい人間だということを知らなかった。

「でも時々名前で呼んでくれたら嬉しいな」
「……澄晴くん、好きだよ」
「あ、嬉しい。俺も好きだよ。俺も今度から名前ちゃんの感じてる声もっと聞きたいとか、おっぱい揺れててかわいいって言うから」
「う、うん……?」

何か違う気もするけど、実際にその時になったら嬉しいものなのだろうか。冗談なのか本気なのかの区別もつかないけれど。
髪を撫でられ、眠くなる。犬飼くんの家族が帰ってくるかもしれないから、眠るわけにはいかないのに。

「今日みんな帰り遅いから、ゆっくりしていいよ」

私の考えを読んだかのように言われて、ふつりと糸が切れたように眠気に身を任せた。髪を梳かれる度に意識が遠くなっていき、私はそっと目を閉じる。


20210320

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