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サザナーラは本当に美しい星だった。水の中に住むことができない私たちにとって、この星が特別なものになることは間違いなかった。ここは水族館の比ではないのだ。生活をするための土地。そのためにあるこの景色が、私の心を捉えないわけがなかった。

「名前様」
「え、ああ。イシガシさん」
「どうかなさいましたか。顔色が悪いですね」
「ちょっと酔ってしまったみたいで」

力なく笑うと、イシガシさんは無表情のまま「ではあちらのベンチでご休憩されてはいかがでしょう」と案内してくれた。私の背中にそっと当てられた手はひんやりしている。
ベンチに座ると、イシガシさんは私の隣に立った。何を考えているのかわからないけど、気を遣ってくれているのは確かだ。

「あの、イシガシさんも座っては…?」
「いえ、大丈夫です」
「お願いします……」
「……では失礼します」

イシガシさんは音もなく腰を下ろす。そういった所作も、イシガシさんの魅力だとおもう。

「名前様」
「あ、様なんてつけないでください。私、選手じゃないんですから。ただのマネージャーに様なんて変ですよ」
「あなたが気にするのなら。では名前さん」

中性的な顔立ちのイシガシさんの、緑の目が私を見ている。

「何に酔ったのですか?」
「えっと、水の動き…っていうか。私、水族館とか好きなんですけど、ガラスを通した歪みが苦手で」
「そうでしたか。配慮できず申し訳ありません」
「ですから、そんなこと気にしなくていいんですよ」

私は、イシガシさんの機械のような対応が嫌だった。だから私は、イシガシさんの行動全てを否定してしまう。自分のことしか考えてなくて、嫌になる。でも、イシガシさんが私のことを名前さん、と呼んでくれるだけで、私は嬉しくなってしまう。

「あ、水族館って知ってましたか?」
「ええ」
「そう、ですか」
「名前さん、あなたは他の方々と少し違いますね」
「え?」
「主張をしていないように見えますが、しっかりとぶれない自分がある。謙虚でいて、少し我が儘です」
「ご、ごめんなさい」
「お気を悪くさせたのであれば謝ります。私が言いたかったのは、」

嫌われてしまったのではないかと恐れていると、イシガシさんはちらりと私の方を見て、目を伏せた。そのイシガシさんらしくない動作に驚いていると、イシガシさんは顔を上げて、かすかに微笑んだ。

「そんな名前さんが、好きだという意味です」

どっ、と迫る何かがあった。これは、自惚れてしまってもいいのだろうか。指を折り畳んで口元を隠す。少し照れたようなイシガシさんの顔が私の目に映って、どうにかなってしまいそうだった。

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