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色付いた花の中に、白いふわふわしたものを見付けた。よく見るとオレンジ色の服も見える。サルだ。わっと広がる花畑の中に、サルが寝転がっている。温かい陽気に包まれて幸せそうに目を閉じているサルにそっと近付く。そのたびに私は花を踏んでしまう。しかし以前の私だったら、ここに花があったことすら気が付かなかったんだろうなと思う。

「名前?」

ぴくりとも動かなかったサルが私の名前を呼んだ。

「気付かれたか」
「それくらいわかるよ」

セカンドステージ・チルドレンの力がなくなったって、と、そう続くのだろうが、サルはその先を言わずに、小さく笑った。私はサルに並ぶように座り込む。サルは片目を開いて私を見上げた。

「どうかした?」
「んーん、春だなって」
「そうだねぇ」

サルの間延びした声がずっと向こうまで届く。呑気な会話だな、と思って、私は笑ってしまう。

「名前、何?」
「だって昔の私達じゃ絶対にしない会話だなって」
「あはは、名前も年寄りみたいになっちゃった」
「サル!」
「冗談だよ」

私の機嫌をなだめるように、サルが膝をさすってくる。その手を払いのけて、私も花の中に身を投じた。耳元のふんわりした感触が心地好い。

「でもさぁ、やっぱりボクたちは色々とあったわけだけど、ラグナロクは楽しかったよね」
「んー……」
「名前はベンチか」
「誰のせいだと」
「ボク」

サルは私と向き合うように寝返りを打つと、憎たらしいほどにっこりした。

「やだやだ、あー嫌い。草のにおいがする」
「めんどくさい拗ね方しないでくれる」
「知ってる?そこにいるサルはいじわるなんだよ」

土の上をせかせか歩いているアリに話しかけると、サルは大袈裟にため息を吐いて「ごめんってば」と私の頭を撫でた。

「名前はラグナロクに出られなかったけどさ、何か特別なことは感じた?」
「うーん、子供だったなぁって思った」
「子供?」
「うん。私達が作りたかった新しい世界はさ、結局子供しかいない世界だったから。でもオジサンたちも頑張ってるなってちょっと思った」
「ふぅん」
「それにトウドウさんとか、たまにお菓子くれるんだよ」
「餌付けされてるじゃない」

呆れ顔で言うサルのゴーグルをぐっと下げる。

「名前はまだ子供だね」
「サルだって、こんなちっちゃい子供だよ」

指先に乗せたアリを押し付けると、サルはバカじゃないの、と言いたげな表情を浮かべた。

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