さっきからWが私の隣で何かを喚いている。しかし私は手元の本を読むことで忙しい。私はこういった一人の時間を大切にしているのに、Wときたら私に構ってほしくて仕方がないらしい。
「名前!いい加減にしろ!」
「何するの」
Wが私の手から本を奪い去った。久しぶりにWの顔を見る。口調は強いけれど、その顔は少し悲しそうだった。
「W……」
「何だ」
「今、犬みたいな顔してる」
するとWはおもしろいくらいに顔を赤くして、犬歯剥き出しで怒りを露にした。
「お前はいつも俺を馬鹿にしやがって…!」
「でもそんな私が好きなんでしょ?」
「……ああ」
むすっとした表情で本を返される。続きが気になったが、再び読もうとは思わない。
Wは私の長い黒髪を撫でると、大きくため息を吐き、足を組んだ。
「この俺がこんなに愛してんのに名前、お前はそのありがたさが全くわかってねえ」
「本当にそう思ってる?」
「ああ?」
「私けっこう、Wが私のことを好きでいてくれていること、嬉しいけど」
Wは目を丸くしていた。私も、自分にしては珍しいことを言ったと思う。
「どうした」
「別に」
気恥ずかしくなって目を反らすと、Wが笑い出した。調子に乗らないように肘で小突いたが逆効果だったらしい。
「名前、もっと素直になれよ」
「私はいつも素直だけど」
「ほう?」
Wはにやにやと笑みを浮かべている。こんなことで上機嫌になるなんて単純すぎる。でもたまには、Wに良い思いをさせるのも悪くない。
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