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寝室に戻るとベッドに名前の姿がなかった。どこへ行ったのだろうかと辺りを見回せば、テラスのカーテンがふわりと揺れている。静かに近付けば、月光を浴びる名前の後ろ姿が目に入った。

「名前、眠らないのか?」

名前が振り返る。その表情には喜びが満ち溢れていた。それもそうだろう、私達の結婚式を明日に控えているのだから。

「ああ、クリス。ごめんなさい、なんだか眠れなくて」

目を伏せた名前が恥じらう。その様子は美しく、私の心がふっとほどける心地がした。私は名前の隣に並ぶと、額にキスをする。「どうしたの」と笑う名前があまりにも愛しい。

「ようやくだ」
「ようやく、ね」

名前のしなやかな指がテラスの柵に触れた。その手に私の手を重ねる。名前は私にそっと体重を預けると、ぽつりと話し始める。

「随分と長かったような気がする。今思うとそこまで月日は経っていないのに、不思議ね」
「ああ」

私と名前は研究室で出会った。初めて会った時、名前は所在なさげに研究室の隅で資料の整理をしていた。気付けば私はその姿をじっと見つめていた。

「初めて会った時、クリスが何て声をかけてくれたか覚えている?」
「もちろん。『そんなところにいないで、こっちで作業をするといい』だったかな」
「そう、私びっくりしたの。クリスったら、わざわざ部屋の中央に連れて行くから」

あれは、名前のために言った言葉ではない。私がいる場所から名前が見えやすいよう移動させたのだと言ったら名前はどんな顔をするだろうか。

「クリス?」
「どうした?」
「笑っているから」
「何でもない」

名前は「そう?」と小首を傾げると、遠くの景色を見据えた。
私達はこれまで、ずっと幸福だったわけではない。それぞれの事情で離れ離れになったこともある。それどころか、音信不通になっていた。しかし、今こうして名前と寄り添い、星を見ている。

「私、クリスに出会えてよかった」
「私もだ、名前」

自然に唇が重なる。お互いに顔を見合わせ、微笑む。

「愛している」
「私もよ、クリス」

名前の肩を抱き、部屋へ戻る。ベッドにもぐりこんだ名前の髪を梳りながら、私はこの上もない幸福を噛み締めた。

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