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「#幼馴染」のBL小説を読む
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(MV2S番外編)

肺に目一杯空気を送り、一気に放出する。名前が吹いたホイッスルはコート全面に響き渡り、プレーする選手の動きを止めた。

「ちょっと名前、まだ前半が終わったばっかりだよ。もうバテてるの?」
「う、うるさい!」
「名前がどうしてもサッカーできないっていうから審判で妥協したのに」

サルとフェイは肩で息をする名前に呆れた眼差しを向けた。ハーフタイムなのでベンチに戻ろうとしている者達も名前を見て笑い声を上げている。

「本当にひどいわ名前。それでも元セカンドステージ・チルドレンなの?」
「メイアの言う通りだ」
「だからぁ、私は運動が性に合わないんだってば」
「主催がよく言うよ」

サルの言葉通り、フェーダの皆でサッカーをしようと提案したのは紛れもなく名前だった。
ラグナロクが終わり、セカンドステージ・チルドレンの力を手放した彼等は普通の人間として社会に溶け込んでいた。人数の多いフェーダは各自好きなように生き始め、学校に通う者や働く者など、生き方は様々だ。中には未だに警察に迷惑をかけている連中もいるのだが、以前のような激しさは失われていた。実質フェーダは解散のように思われたが、これまで生活を共にしてきた仲間がいきなり他人になれるはずもなく、いつも誰かしらが繋がっている。そんな状況で、名前が一度皆で集まってみてはどうかとサルに相談したのだ。彼等の情報伝達能力は高く、提案から実行までさほど時間はかからなかった。そして本日、こうしてサッカー大会が行われている。チームは以前のものではなく、バラバラの混同チームだ。名前はというと自分は見ているだけでいいと言った。しかし皆がそれを認めず、名前は考えた末、試合に参加はしているという理屈で審判をしているのだ。

「私、審判が走り回るなんて知らなかったよ……」
「立ってるだけだと思ったら大間違いよ」
「名前はもう少し運動したほうがいいと思うよ」
「例え運動したとしてもボク以上に上手くなることはないと思うが……。まあ頑張りたまえ」

上から目線のゼイクに、モリーは顔をしかめ、マビは苦笑いをする。名前は「当たり前でしょ!」と笑った。

「つーか、お前みてぇな奴、俺様に吹っ飛ばされて終わるな」
「うわ、ロデオひどいなぁ」
「事実じゃねぇか」

大声で笑うガロの背中を名前は思い切り叩くが、全く効果がないようだった。

「名前、練習するなら付き合ってあげるよ!」
「ありがとうローコ」
「ボールはオレが受けてやる」
「チェット…!優しさが染みる……」

名前は内心「(多分サッカーの練習はしないけど)」と申し訳なく思っていたが、厚意は受け取っておこうと口にはしなかった。

「ま、たまには外に出てみることね」
「そうだ。少しでもやってみればいい。何か変わるかもしれん」

そんな名前の思いを見透かしたニケと、大人びたことを言うホス。名前は確かにその通りだと思いつつ、自分がサッカーをしている様をうまく描けなかった。

「監督とか、どう思う?」
「バカにしてるの?」

真顔で言った名前を、サルがずばっと切り捨てる。
サルはこれまでと変わらず名前のことが好きだ。しかし、以前のように名前に甘えたりはしなくなった。名前はそれをサルの自立と受け取った。まるで自分の子供が一人立ちをする嬉しさと、少しの寂しさが混ざったもののようだとひっそりと思う。

「さ、そろそろ後半始めようか」
「もうやるの?」
「そう。ボクたちの時間はまだたくさんあるけど、今日という日はもう少ない。だから目一杯楽しまなくちゃ」

にこりとサルが笑う。サルがこんなことを言うとは思わなかった名前は、喜びがふつふつと沸き上がるのを感じていた。

「みんな!後半絶対逆転するよ!」
「おう!」

フェイ率いるチームが意気揚々とフィールドに駆けていく。

「ギリス、貴方と別れることになるなんて……」
「僕もつらいさメイア。でも僕達は離ればなれになったとしても心はいつも繋がっている。そうだろう?」
「ギリス…!」
「メイア…!」
「貴方には負けないわ!」
「望むところさ!」
「そこ、早くしなよ」

名前に促されてコートの境界線でやり取りしていたメイアとギリスが、織姫と彦星のように別れていく。
名前はコートをぐるりと見回した。皆の表情はきらきらしていて、真っ直ぐ前を見ている。憎しみはなくなっていた。名前は何故か泣き出しそうになる。しかし、それは喜びの涙だった。名前は次の試合に選手として出てみてもいいかもしれないと思いながら、大きく息を吸い込んで、高らかにホイッスルを鳴らした。



『大きく吸い込んで』というタイトルから、何か新しいことが始まる感じ、と連想して、セカンドステージ・チルドレンの子達のその後の話を書いてみました。
メインの子以外はこれまで出てきてないキャラを出してみました。かなり私の好みが出ています(笑)
9月頃から書きかけのMV2S番外編があるのですが、今回また書いて、この連載の話を書くのは楽しいなと改めて思いました。
そしてまたほほほのほさんにリクエストをいただけて嬉しいです。ありがとうございます!
また遊びに来てください!
素敵なタイトルありがとうございました!


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