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学校までのルートはすっかり身体に染み付いている。もう何ヵ月も同じ道を通っているのだから当然のことだ。あくびを噛み殺したり、ぼんやりしながら見慣れた景色をずんずん歩いていく。
今日の私は日直だった。日直には花瓶の水を変えたり、職員室に行って日誌をもらってくるなど簡単な仕事がある。いつもと同じ時間に家を出ても十分間に合うが、私はなんとなくいつもより早く学校に行こうという気持ちになった。それに、一緒の当番の遊馬くんは間違いなく寝坊してくるはずだ。私はそれを咎めようとは思わないし、日直の仕事くらい私一人でできるからいいのだけれど、毎日のように遅刻していて、焦らないのかな、とおもう。私はたった一回の遅刻ですら怖いのだ。怒られることが怖いのではなく、決まりを破ってしまうことがとても怖い。多分私は極度の心配性で、いい意味でも悪い意味でも真面目なのだとおもう。
ぼんやりしたまま、いつもの道を歩き、住宅街を抜けたところで曲がり角から人が歩いてきた。特別珍しいことではないが、その人は何かを探しているようで、忙しなくきょろきょろしている。気になったものの、話し掛ける勇気がない私は黙って擦れ違おうとしたのだが、なんと目が合ってしまった。すると、その人は少し戸惑った後、私に近づいてきて、言った。

「すまないが、この辺りでブレスレットのようなものを見掛けなかったか?」

探し物をしているわりには落ち着いた声だ。見掛けよりずっと大人びている。

「見てないです」
「そうか、ありがとう」

その人は微笑むと、ブレスレットを探すために地面を見下ろした。ブレスレット、そんなに大事なものなのだろうか。なんだか放っておけなくて、私は思い切って声を出した。

「あの、よかったら一緒に探しましょうか?」

すると、その人はひどく驚いた顔をして私を見た。勢いで言った言葉だったので、急に恥ずかしくなる。

「いいのか?」
「はい。あ、学校あるから、それまでになってしまうんですけど」
「ありがとう、助かる。私はドルベだ。君は?」
「名前です」
「名前」

ドルベさんが私の名前を呟く。そして、どこか安心したように笑った。それがなんだか可愛くて、私も思わず笑ってしまう。

「ブレスレットって、本当にこの辺りで落としたんですか?」
「ああ、間違いない」
「大切なものなんですね」
「……ああ」
「じゃあ私、あっちの方を探します」
「頼む」

ドルベさんの会釈を見て、ブレスレットを探し始める。なんだかおかしなことになってしまった。いつもの私らしくない。日直の仕事も、少し遅れてしまいそうだ。それでも、ドルベさんの力になりたいとおもった。それに、このまま学校に行ったとしても、結果がわからないままでいたくない。
私は道の端にあるプランターの隙間を見たり、木に引っ掛かっていないかを確認する。そういえば、ドルベさんはどの道から来たのだろう。来た道を辿れば確率がぐっと上がるのではないか。ドルベさんに聞こうと振り返ったが、この通りにドルベさんの姿はない。一本隣の道に入ったのかもしれないとおもった私は、きょろきょろしながら角を曲がる。曲がった先ではフェンスに蔦が絡まった、丸い赤や紫、青の朝顔が咲いていた。普段からこの辺りを歩いているはずなのに、違う道に入っただけで全く知らないものがある。私は何故だかびっくりしてしまって、朝顔の鮮やかな色を見ていた。

「名前?」
「あ、ドルベさん」

ドルベさんはやはりこの道にいた。ドルベさんは不思議そうな顔で私を見ている。

「どうかしたのか?」
「朝顔が、きれいだなって」
「朝顔?」

指を差すと、ドルベさんは「ああ」と言って、私と同じように朝顔を見つめた。

「朝顔というのか」
「知りませんでしたか?」

ドルベさんが頷く。朝顔の名前を知らない人に初めて出会った。メジャーな花だと思っていたし、ドルベさんは博識そうだなと勝手におもっていたので、少しギャップがある。

「確かにきれいだ」
「ですね」

もっと近くで見ようと朝顔に歩み寄る。すると、フェンスの下に何かが落ちていた。まさかとおもい、それを拾い上げると、ドルベさんが声を上げた。

「バリアラピス!」
「え?」
「あ、いや……。私が探していたものだ」
「本当に?」
「ああ!名前、助かった。ありがとう」

ブレスレットを手渡すと、安堵したのか、気の抜けた顔のドルベさんと目が合った。ドルベさんがはにかむ。それにつられて私も笑った。

「無事に見つかって本当によかったです。じゃあ私はこれで」
「名前」

学校へ向かおうとした私をドルベさんが呼び止めた。

「いつか必ずお礼をする。それまで待っていてくれ」
「お礼なんて、そんな」
「また会おう、名前」

私の返事も聞かずに、ドルベさんが隣の道に駆けていく。すぐにそれを追ったのだけれど、ドルベさんの姿はもうなかった。仕方がないので学校へのルートに戻る。

「朝顔、きれいだったな」

いつになるかわからないけれど、またドルベさんに会える日が来る。そうしたら、また一緒に朝顔を見たい。
学校の方から予鈴が聴こえてくる。意外と時間が経っていたみたいだった。いつもの私だったら全速力で学校に向かうはずなのに、私はやけにのんびりと歩いている。日直の仕事もやってないけど、遊馬くんの急ぐ足音が背後から聞こえるけど、私はとても穏やかな気持ちだった。



『朝顔の咲く道』から、なんだか優しい感じと、ほのぼのした雰囲気を感じたので、全体的に柔らかい感じにしようと思ってこの話を書きました。
どじっ子ドルベさんです。かっこいいドルベさんが書けなくてごめんね…。
素敵なタイトルありがとうございました!
いんこちゃん、これからもよろしくお願いします!


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