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この街の中央は光に溢れていて夜中でも眩しいくらいに明るい。いつからか俺はこの光から避けるように暗い道を歩くようになっていた。いや、違う。俺は追いやられた。光が当たる道から、その影へ。そして俺は吸い寄せられるようにその場に納まった。えらく静かな場所だった。居心地がよすぎたせいで俺は気づかなかった、真っ直ぐに落ちているという事実に。人の道から、世界の水平な境界から、俺は真っ逆さまに堕ちていた。それでも俺は生きていけると思った。どんな場所でも、堕ち続けていても、俺自身が生きているという実感があれば事実は何も変わらない。そして、俺には帰る場所があった。どこに行っても帰りを待ってくれる、唯一の肉親の璃緒と、どんな俺でも許してくれる名前という存在がいたから、どこでも生きていこうと思えた。

「シャーク」
「……なんだよ急に」

病院の帰り道、名前が突然俺のことをシャークと呼んだ。名前はどちらかと言うと俺がシャークと呼ばれていることを好んでいない。遊馬が俺をシャークと呼ぶ度に、わざと凌牙と名前を呼んでくるような奴だ。それがどうしてだか、今日は俺をシャークと呼びやがる。名前の顔を見ると、「呼んでやったぞ」というような顔をしていた。

「おい名前、どうかしたのか?」
「なんで?」
「お前は俺をシャークって呼ばねぇだろ」
「確かにそうだけどさぁ」

名前は妙なリズムで歩きながら続ける。

「凌牙もシャークも凌牙じゃん?」
「は?」
「だから、結局一緒なんだなって思ったわけで」

こいつが何を言いたいのかさっぱりだ。名前は普段こんな風に目的がわからないような会話はしない。むしろ結果から話してあとから過程を話すような奴で、ストレートすぎる物言いに驚く奴もいる。だが俺は名前のこういう性格が嫌いじゃない。本人には絶対に言わないが、このストレートさに救われたことが何度かあった。

「私ね、シャークっていうのはなんて言うか、不良としての凌牙の愛称って気がしてたんだよね」
「そうかよ」
「凌牙は根は不良じゃないし、いい人だし」
「……そうかよ」

誰にでも思ったことをはっきり言うのは、やめろと言ってやりたくなる。

「でも最近の凌牙、周りにいい子が集まって来てる。シャークって呼ばれてても」

名前は早足で俺の前を歩くと、突然半回転して俺と向き合った。自然と足が止まる。

「どんな凌牙でもシャークでも、全部神代凌牙だね!」

そう言った名前は歯を剥いて笑った。女なんだからそんなに顔をくしゃっとさせて笑うなと、そう言ってやりたかったが、うまく言葉が出てこない。

「バカだな、名前」

代わりに出てきたのはいつもの俺の言葉だった。名前はそれにも関わらず満足そうに笑っている。俺は安堵していた。名前はWとのデュエルの後で堕ちた俺に変わらない態度で接し、何度もウザい、邪魔だと罵って追い払おうとしてもずっと傍にいた。じわじわと堕ちる俺を受け止めてくれている。だから、俺はこうして俺として生きていける。



「名前……」

ふと、以前名前とした会話を思い出した。こんな時に思い出したくなかった。俺は神代凌牙が持っていたもの全てを捨てたつもりでいたが、この会話だけはやけに胸に居座る。

「ナッシュ、行きましょう」
「ああ」

メラグとドルベが階段を下る。俺はしばらくその場を動くことができなかったが、メラグが振り返り、促されてようやく一歩を踏み出した。
俺は人間の境界からも堕ちて、バリアン世界にいる。俺が人間ではないとわかってから、一度も名前と会っていない。会いたくないと思った。今会えば、俺は名前に許されたいと思ってしまう気がした。俺が神代凌牙でもシャークでもなく、ナッシュでも、名前はあの時と同じように歯を剥いて笑うんじゃないかと、期待するのが怖かった。



「緩やかにおちていく」というタイトルから、凌牙がシャークに、そしてナッシュになっていく段階を想像しました。Wに負けて不良となったシャークは劇的に変わってしまったような気がしていましたが、緩やかにという文字から、堕ちていくスピードを緩めるおおらかな子をヒロインにしました。個人的に「おちていく」という平仮名表記が優しくてとても好きです…!
佐伯さん、素敵なタイトルをありがとうございました!


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