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暗い部屋で何かが動いた。ベッドで寝ていた私は薄目を開けてその何かを確認する。ぼやけた視界の中に映り込んだものは黒い服だった。寝起きの頭でもすぐに理解できた。私の部屋に来る黒い服を着た人間などたった一人しかいないのだ。私はこの部屋に軟禁されているのだから。
名前を呼ぼうとしたのだが、掠れてしまって上手く声が出ない。もどかしさを感じたが、彼は私が起きたことを確認したようで、ひやりと冷たい声色で私の名を呼んだ。

「名前、起きたのか」

亮は暗闇の中でも私のことがよく見えるらしかった。確かにあんな薄暗いところでデュエルをしていたら、暗闇にも慣れるだろう。

「亮……」

やっとのことで呼んだ名前はあまりにもか細かった。亮はベッドに座ると私の手首を撫で、脈を押さえる。最近意味もなくこうされる。亮がおかしくなってしまってから、彼が何を考えているのかわからない。いや、元から亮のことを理解していなかったのかもしれない。
亮は私の手首を再び撫でると、その手を首筋に滑らせた。冷たく乾いた手だ。身体が温まっていたせいで一段と冷たく感じる。

「名前」

返事をする前に亮の手が私の喉を掴む。突然の圧迫に驚いたが、亮がこうするのは初めてではなかったので、私は心のどこかでは落ち着いていた。それに、亮は渾身の力を込めているわけでもない。殺そうとしているわけではないのだ。亮は私の生を確かめている。脈を触ったり、私の首を絞めたりするのは、私が生きているか確認するためではないかと思う。亮はヘルカイザーになってから、痛みばかりを求めている。痛覚によって生を感じているのであれば、私にも同じことをして、私が生きていると感じたいのかもしれない。すっかり歪んでしまったな、と思う。そして私はその歪みに染められている。
亮は力を抜くと、すっと手を引いた。じわりとした痛みが残る。ゆっくりと呼吸をしていると、亮が立ち上がってコートを脱ぎ始めた。ぱさりと床に落ちる。

「亮、キスして」

発した言葉にはあまり感情が乗らなかった。私の中で亮に対する想いは溢れているというのに何故だろう。亮はベッドに腕を付くと触れるだけのキスをしてくれた。最初のキスだけはあの頃の亮と変わらない。違うのは二回目のキスからだ。亮は一度唇を離すと、貪るようなキスをした。以前はもっと優しかった。激しさに目が眩む。まるで毒を盛られているみたいだ。でも決して嫌ではない。どんな亮でも亮だ。私は亮を愛している。

「どうした」

キスが止むと、亮は私を見下ろしてそう言った。わけがわからず亮を見つめる。

「何が?」
「笑っている」
「ほんとに?」
「ああ」

自分でも気付かないうちに私は笑っていたらしい。触れてみると確かに口角が上がっていた。

「幸せなのかもね」

そう言うと亮は瞳を見開いた。幸せという言葉を久しく遣っていなかった私自身も驚いていた。軟禁されて、首を絞められる生活が幸せだなんてどうかしている。毒が全身に回って麻痺しているのかもしれない。それでも構わない。亮が私を愛し、私が亮を愛していれば、それだけで幸せなのだ。




『毒愛狂花』というタイトルから真っ先に思い浮かんだイメージをそのまま書いてみました。イメージして思い浮かんだ女の子は、狂っている愛情を、一周回って正しい愛情ととらえているのを理解している子、といった感じです。ややこしいですね…。
本当はもうちょっと裏寄りな雰囲気にしてみたかったのですが怖じ気づいてしまいました。
ひかりさん、素敵なタイトルありがとうございました!


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