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十代が日本に帰って来ていると聞いた頃には、私はプロデュエリストの道を諦めてカードの流通関係の会社に勤めていた。時々子供達にデュエルを教えたり、テレビで活躍するかつての仲間の活躍を観たりして、みんな頑張っているんだなぁと他人事のように思い浮かべながら、自分の選択した人生にどこか後ろめたさを感じ、昔のきらきらと輝いていた少女だった自分の影を追いかけそうになっていた。その一歩を踏み出そうとしていた時、十代が帰って来た。翔くんが電話をくれたのだった。電話越しに翔くんは「名前さんは兄貴に会った方がいいッスよ」と、落ち着いた、寂しさを混ぜた声で言った。私は「そうだね」と笑って返した。電話を終えて私はしばらくぼんやりし、長年開くことのなかった卒業アルバムを開いたのだった。



二日後に開かれる同窓会に向けて洋服を新調しようと思い立ち、金曜日のショッピングモールを歩く。仕事帰りのため夕方になってしまったが、この時間になると皆一通り買い物を終えたようで、出口に向かって歩く人が多い。私は流れに逆らいながら奥へと進んでいく。ふと、前から女子高生が二人、雑貨店の袋を提げて談笑しながら歩いてきた。その表情は先のことなど全く気にしていない、今が楽しくて仕方がないといったもので、私は無性に恥ずかしくなった。あの輝きを私はいつなくしてしまったのだろう。少なくともデュエルアカデミアにいた頃には持っていた。あの島での生活は楽しいことばかりではなかったが、それでも充実していて、前を向いて歩けていた。なにより、十代がいてくれたことが大きかった。十代はアカデミアで一番光っていて、皆がその光に導かれていた。だが、十代の光は年を重ねるごとに落ち着いた輝きを放ち、皆が各自自分の道を自分で照らし始めたというのに、私は今でも十代の輝きを追っている。
十代は卒業と共に旅に出た。十代が小さな国でじっとしていられる人間でないことはわかっていたのに、私は私の前からいなくなった十代を恨めしいと思ったものだ。今でも、そう思っている。
私は歩みを止め、来た道を引き返した。新しい服を買う気分ではない。明日買おう。そして新しい服を着て、過去の自分を埋めようと思った。そうすることで胸に残る寂しさを紛らわせようとした。十代との楽しかった日々を二日後に、あの頃は楽しかったねと笑って言うために。

「名前?」

流れに沿って歩く私の対面から、私の名を呼ぶ声がした。顔を上げれば、そこにはあの頃と全く変わらない様子の十代が、オシリスレッドの制服を着て立っていたのだった。私は懐かしさと同時に安堵していた。その感覚は上っていた階段が崩れていくようなものだった。

「まだ新しい服、買ってないのに……」
「やっぱ名前か。久しぶり」
「久しぶり」
「何だよ変な顔して」

十代がからからと笑う。あの頃と変わっていない。それなのに、やはり同じではないのだ。制服を着ていたって、私の名を呼ぶ声が変わらなくたって、彼が遊城十代であったとしても、私が会いたい十代ではないのだ。なにより、私が取り戻したいあの頃の自分はどうやったって手に入らない。

「いい加減制服着るのやめたら?コスプレだよ」
「だから買いに来たんじゃん。そうだ名前、一緒に服選んでくれよ。俺センスないからさ」

諦めたように笑う十代は、私の隣に並ぶと辺りを見回した。この辺りは女性物の洋服屋が多い。

「行くか」

十代が歩き出したので、私もつられて歩いた。また、私は十代に導かれている。十代はこのショッピングモールに詳しくないのだろう。男性服は今通った道を左に曲がったところに集まっているのだ。私は道を間違えたことをしばらくしてから十代に伝えた。

「十代、そっちじゃない」
「え?もっと早く言えって」
「ごめん」
「別にいいけど。なんか名前変わったな」
「そうかな」
「跳ねっ返りがなくなった」

謎の評価に首を傾げたが、確かに私は変わったのかもしれない。卒業した時、十代がいてくれたら、私はまだ跳ねっ返りのある人間だったのだろうか。

「十代は……」

十代が私を見る。変わってない。しかし、変わってないと認めたくはなかった。なぜなら、私はあの頃の十代が好きだったのだ。今の十代はもう違う。世界の様々なものをその瞳で見てきて、沢山の人とデュエルをしてきた。十代は成長したのだ。私ももう一人で未来を選んでいける。それでも会いたいと思った。きらきら光って眩しいくらいの十代に。


恵利さんからいただいた『つまりわたしは、あのときのあなたとわたしに会いたいだけなのだ。もうあなたじゃない、あなたではない者にさ』というタイトルから、現在の生き方に納得していないが受け入れている女の子を想像しました。そして過去に十代に好意を寄せていて、自分を引っ張っていってほしかったという願望があった、と話を膨らませてこのような話を書かせていただきました。十代は成長が著しいキャラクターなので、『あのとき』がどの期の十代なのかを考えましたが、誰もが憧れる十代は一期〜二期辺りなのかなと思います。
恵利さん、素敵なタイトルをありがとうございました!


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