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ベクター様は戯れが好きな方だということを知ったのは、私がベクター様の身の回りのお世話をさせていただくようになってから間もなくのことだった。ベクター様は駆け引きが上手で、私はいつもベクター様の思うがままに動かされてしまっている。まさに手のひらの上で転がされているのだ。いくら私が自分の意思を保とうとしても無駄だった。さすがこの国を統治する王だ。ベクター様は虐殺を好む非道な方だが、私は何故だか嫌いになれなかった。確かにいつ殺されてしまうかわからないため、お世話をさせていただいている時には恐怖を覚えることもある。しかし、ベクター様は私のことを気に入ってくださっているらしい。私のお仕事を首になった女性は数多くいる。それこそ言葉通りの意味でだ。大抵三日と持たないらしいが、私はもう三ヶ月ほどが経った。それを誇りに思っていいのかはわからないが、私はベクター様のお側にいられるだけで十分だった。

「名前」
「なんですかベクター様」
「黙ってこっち来い」

使い終わった食器を片付けていると、ベクター様が無表情で私を手招きした。運ぼうとしていた食器を机上に置き、ベクター様が座っている玉座へ近付けば、ベクター様の逞しい腕が私の腰をとらえた。されるがままに引き寄せられ、ベクター様にもたれ掛かる形になる。自分の頬が紅潮するのがわかった。すぐ近くにあるベクター様のアメジストのような瞳が楽しそうに歪んでいる。手をついたベクター様の胸は温かく、心音が手のひらを通じて伝わってくる。

「あの、ベクター様」
「あー?」

恥ずかしくて顔を背ければ、腰を抱く手とは反対の手が私の顎を掴んだ。そして無理矢理顔が向かい合う。それでも目を反らせば、ベクター様は愉快そうに喉の奥で笑った。

「どうした名前チャン」
「離してください…」
「照れてんのかぁ?」
「……そうです」

いつもは濁った返事をするのだが、今日だけは本音を言ってみる。するとベクター様は意外そうに少しだけ目を見開き、満足そうに笑った。

「名前、今日はやけにいい子だな。ほしいモンでもあんのか?」
「そういうわけではありません」

ベクター様は機嫌がいいようで、顎を掴んでいた手を私の頬に滑らせた。その手付きが驚くほどに優しく、この方は本当にベクター様なのだろうかと思ってしまう。そして、このような一面を私以外の誰かに見せたことはあるのだろうかと、身分違いも甚だしい疑問を覚えた。ベクター様にほしいものがあるのかと聞かれ、そういうわけではないと答えたが、欲を言ってしまえばベクター様のお気持ちがほしい。そんなことを考えていると、ベクター様の手が私の後頭部に回った。そして力強く押され、唇が重なる。すぐに離れたが、わずかな距離に心臓が飛び出してしまいそうだった。

「ベクター様、なにを…」
「名前」
「は、い」
「お前だけは生かしておいてやるよ」

ぼんやりとしていて言葉の意味が咀嚼できなかったが、次第に意味を理解していく。ベクター様は家臣であろうが簡単に殺してしまうような方だ。そのベクター様が私を生かすと言った。これは特別を与えられたということではないだろうか。
ベクター様の心音は正しく響いている。私の早鐘がベクター様に伝わってしまわないよう、私はベクター様の胸についていた手をそっと下ろした。



杏奈さんへ相互記念です。
大変お待たせしました…!
今後ともよろしくお願いします。
朝霧

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