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新鮮なトマトをたっぷり使ったパスタの香りと、鼻につく絵の具独特のにおいにギアッチョは苛々していた。テーブルに頬杖をついたギアッチョは足をだんだんと踏み鳴らしていたが、ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。

「くせぇ!いつも外でやれって言ってんだろーが!そこにいるのはわかってんだよぉお名前!」

ギアッチョが勢いよく立ち上がり人差し指を指すが、その指先は途端に別の方向を向いてしまう。名前はそんなギアッチョを横目で一瞥したが、また筆を動かす。

「クソクソッ!意識できねぇ!スタンド能力使いやがって!」
「うるせーぞギアッチョ。ったくしょうがねーなぁー」

キッチンでパスタを作っているホルマジオが肩越しに振り返った。テーブルから少し離れた壁際に名前はいる。確かにいるはずなのだが、一秒以上彼女を意識することができない。それが名前のスタンド能力だった。自分を他人に意識させない。よってスムーズに暗殺をこなす。だが名前はこの能力を誰にも邪魔されたくない時にまで使うのだった。

「俺やっぱりこのにおいだめだ」
「吐くなよイルーゾォ」
「食事前に吐くとか言うなメローネ」

絵の具のにおいにグロッキー状態のイルーゾォは食事ができたら呼んでくれと言い残して鏡の中へ逃げた。少し残念そうなメローネの頭をプロシュートが引っ叩く。

「だがギアッチョの言い分も一理ある。名前、部屋でやったらどうだ?」

ギアッチョの対面に座ってノートパソコンとにらめっこしていたリゾットがちらりと名前を窺った。

「部屋狭い」
「リーダーの言葉には返事するんですね名前さん…」

ペッシの言う通り、この状態の名前が返事をするのはリゾットくらいだ。次に可能性があるのはプロシュートだが、滅多に返事をしない。ギアッチョは窓という窓を全て解放してホルマジオの隣に並んだ。その様子を見てメローネは大笑いする。

「ギアッチョの奴!パスタで相殺しようとしてる!」
「うるせー!」
「お前がな」

隣で騒がれたホルマジオは耳を塞いで溜め息を吐いた。

「おらギアッチョ、できたから皿持ってこい」
「チッ」
「お前らも手伝え」
「行けペッシ」
「へい兄貴!」

ペッシを使役して自分は椅子に座るプロシュート。メローネは鏡の中のイルーゾォに話し掛けている。

「名前、お前も一度中断しろ」
「うーん」

間延びした返事と共にスタンド能力が解除された。今日初めて姿を確認するため名前に視線が集まる。名前は薄汚れたぶかぶかのワイシャツにシワだらけのスカート、片方だけ履かれた靴下といった格好をしている。それを見たプロシュートは大きな目を更に大きくした。

「名前、仮にもバンビーナだろ。お前その格好……あり得ねぇ」
「プロシュートは私が何着てもそう言うし」
「あ、それオレが捨てたはずのワイシャツだ」
「イルーゾォが捨てた後に拾った」
「ねぇ名前、流石に片方だけ靴下履くのはなしだろ」
「その服のセンスのメローネに言われたくない」

怠そうな名前は表情を一切変えずに受け答えしていく。リゾットの隣に座ればパスタの皿を運んでいたギアッチョが名前を鋭く睨み付けた。しかし名前は全く気にしていない。

「あの絵はいつ完成するんだ」
「もうちょい。何で?」
「額縁が必要だろう。ソルベとジェラートに絵に合う額縁を買うよう頼んでおくが」
「え?別にいいよ。もう飾る壁も額縁買う金もないし」

アジトには数枚ほど名前の絵が飾られている。中にはいい値段の額縁が使用されているものもあるが、名前の言う通り暗殺チームには余分な金がない。痛いところを突かれたリゾットは微かに表情を険しくした。

「まあ頑張って働こう」
「言っておくが、一番働いていないのはお前だ」
「そうだっけ?」

しらばっくれる様子ですら怠そうだ。名前のデフォルトがこうであるのは昔からなので暗殺チーム一同は名前をきびきび動かすことを諦めている。名前は大きな欠伸をすると、鈍い動作でパスタを口に運んだ。


『TNSの「アンニュイ少女」がジョジョの世界にいてスタンド使いで暗チメンバーだったら、という話』

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