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少し前にルチアーノに言われた言葉がある。その時はあまり気にしていなかったのだが、今思うと何故ルチアーノの言葉をきちんと覚えていなかったのだろうと後悔が募った。

『本当に物覚え悪いなぁ。次僕の機嫌を損ねたら…キヒヒッ、覚えておきなよ?』

そう言ったルチアーノの表情があまりにも可愛らしい笑顔だったのも原因かもしれない。だから大したことなんかじゃなく、単に子供の駄々だと思っていた。ルチアーノは私とプラシドが一緒にいることをよく思っていないようだ。私はプラシドのことなど何とも思っていないし、それはプラシドも同じだ。それなのに過剰に反応する。その度に『プラシドと話すな』や『僕とだけいればいい』など言うので、プラシドはやけに嫌われているんだと認識していたが、どうやらそれは私の間違いだった。プラシドが嫌われているのではなく、私が異常なほどに好かれているのだ。ルチアーノは無邪気なように見えるが、時々恐ろしい一面を見せる。おそらくプラシドやホセの中で一番悪意が強い。すっかり歪んでしまっている。だから酷いことも平気でする。今だってそうだ。私の身体はゾーンに作られたから全て機械で出来ていて、滅多なことでは意識がなくなったりしないが、壊れてしまえば動かなくなる。ゾーンが直してくれるまで意識が戻ることはないのだろう。だからルチアーノは私を痛め付ける手段をとった。現在私の両足は断ち切られている。それもプラシドの剣でだ。もちろんやったのはルチアーノ。身体に合わない長さの剣を見事に使いこなして、ルチアーノは無表情で私の足を断ったのだ。

「ねぇ名前、今どんな気持ち?」
「よくはない」

私よりも背が高くなったルチアーノが、剣を肩にかけて前屈みになる。そんなルチアーノは少し楽しそうな顔をしていた。私は今、恐怖を感じている。足がないからではない。このままルチアーノが私が機能停止になるまで壊して、ゾーンのところに運んでくれなかった時のことを危惧してだ。

「そんな足じゃもうどこにも行けないよ。名前、ねぇー、何か言えばぁ」
「ルチアーノは、私にどうしてほしいの?」
「だーかーらぁ、僕は簡単なことしか言ってないじゃん。何でわかんないわけ?」
「…プラシドのこと?」
「そ。なんだわかってんじゃん」

ルチアーノは剣をくるくると回して遊んでいる。先端が私の頬に掠った。痛覚がないことが不幸中の幸いだ。

「で、名前はどうしたら僕に許してもらえると思う?」
「プラシドと接触しないようにする」
「大正解!やっぱ名前って頭いい」

ルチアーノが剣を背後に投げ捨てた。壁に剣が突き刺さる。第一ルチアーノはいつプラシドから剣を盗んで来たのだろう。無理矢理奪っていなければいいけれど。溜め息を隠しながらルチアーノを見上げれば、彼はにやにやしていた。

「どうしたの?」
「嬉しくてさ」
「嬉しい?」
「だって今僕は名前の全部を握ってるんだ。それって最っ高」

ぞわりと悪寒が背中を滑った。まさに狂気の沙汰だ。こんなにまで歪んでいるだなんて。これは絶望がもたらした結果なのだろうか。私を束縛して安堵するためにこんなことをするのかもしれない。ルチアーノは落ちていた足を二本抱えると、私の目線に合わせて屈んだ。

「約束出来るなら一緒にゾーンのところに行ってあげる」

また可愛い顔をしているが、約束出来ないと言ったら私はどうなってしまうのだろう。でも怖いことになるのでルチアーノの言う通りにしておかないと二度と目覚められなくなる。まだ繋がっている二本の腕をルチアーノへ伸ばした。

「約束するから、お願い、ゾーンのところに連れていって?」

そう言えばルチアーノは満足そうに微笑んだ。その顔が年相応なものに見えて、やっぱりルチアーノは安堵したいだけなのだろうと思った。


『ヤンデレなルチアーノ』

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