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(MV2S番外編)


名前は小さな頃から自分は将来両親に見捨てられ、孤独になるのだろうと薄々だが気が付いていた。名前の両親が彼女をセカンドステージ・チルドレンだと知ったのはごく最近のことだ。それまで名前は力のことを隠して生きてきた。普通の子供だと安心していた両親は名前を大切に育て、理解の早い、手の掛からない子供だと思っていた。蔵書が趣味の父と料理が得意な母。名前はそんな両親が好きだった。だが幸せな日々は終わりを告げた。母との買い物の帰り道、上空を飛んでいた車が故障して落ちてきたのだ。運転手は慌てていたため脱出装置を使えなかった。名前は無我夢中で超能力を使ったが、他人の命を救った代償として怪物となった。両親はこれまで騙されていたことに憤慨と恐怖を感じ、名前を施設へ入れようとしたが、彼女はその前に姿を消した。同時に父の本棚も消えた。その本棚には名前の物も含まれており、大好きなものばかりだった。それに、多少の仕返しの意味も含まれていた。本棚を異空間に押し込めて宛もなく彷徨っていると、突然目の前に少年が現れた。それがサルだ。サルは名前の壮大な力を感じ取ってやって来たらしかった。そこでサルがセカンドステージ・チルドレンを集めてフェーダという組織を作っていることを知り、名前はフェーダに加入したのだった。

名前がフェーダに入って数日が経った。メンバーはまだそれほど多くない。彼等のアジトは追いやられた人間がどうしたら住めるのだろうかと思うほど綺麗な場所だった。聞いた話によるとサルがこの建物自体を作ってしまったらしい。名前はあまり力を使っていなかったせいで、セカンドステージ・チルドレンがどこまで出来るのかを知らない。だがおそらく不可能はないのだろうと予想している。 科学が発達して便利な世の中となったが、セカンドステージ・チルドレンの力はそれ以上のように思えた。

「やあ名前、調子はどう?」

与えられた部屋にいた名前の元にサルがやって来た。名前は幼少の頃から両親に見捨てられると危惧していたため、さほど落ち込んではいない。体調も悪いわけではないので、サルに気を遣われているのだと思うと申し訳無いような気持ちになった。サルは自分の境遇については語らないが、徒党を組んだほどだ、計り知れない悲しみを抱えている。それが憎しみに変わりつつあることを出会ったばかりの名前は知らない。

「絶好調だよ。サルは?」
「まあまあかな」
「よくないの?」
「うーん。具合が悪いというよりは、あんまり眠れないんだ」

サルが眉を下げる。一見睡眠不足のようには見えない。名前は瞬間的にサルは昔から眠りが浅いのではないかと感じた。おそらく愛情不足が原因だ。幼少時に母親の愛情が足りないと眠りが浅くなったりするとテレビで観たことがあった。サルはもう思春期に差し掛かっているが、中身はまだ幼いのかもしれない。名前は器用な人間だったのでこれまで愛情を注がれてきた。だがサルはそうではない。名前はサルの元に近寄り銀色の髪を撫でた。サルが吃驚して目を見開く。

「な、なにしてるの?」
「撫でてる。嫌ならやめるけど」
「別に嫌ってわけじゃ、ないけど…」
「けど?」
「いや、なんでもない」

尻窄みの言葉と共にサルが俯く。名前からは見えないが、表情は気恥ずかしさと嬉しさを必死に押し止めようとしているものだった。暫くされるがままになっていたが、やがて名前の手が離れる。サルは困ったように笑って名前の部屋から出た。扉を閉めた瞬間、堪えていたものが溢れるようにサルの頬が紅潮した。それを隠すように手を額に当てる。名前がした行為の意味をサルは理解出来ない。だがこれまでにないほど満たされたような気がした。額に当てていた手を撫でられた場所に運ぶ。温度などないはずが、温かいような気がした。



その日の夜、サルがそろそろ寝ようとベッドに入るとドアがノックされた。完全に寝る体勢に入っていたサルは超能力で扉を開ける。ドアの前には名前がいた。手にホットミルクが淹れられたマグカップを持っている。

「名前?どうかした?」
「寝られないって言ってたから来ちゃった〜」

サルは内心「余計眠れなくなるんじゃ」と思ったが、名前はにっこりしている。名前は湯気を立てているマグカップをサルに渡すとベッドの側に椅子を引き寄せた。

「病人じゃないんだからさぁ」
「いいからいいから」

勧められるままにホットミルクを飲む。じわりと温かさが身体に沁みた。サルがミルクを飲み干すと名前がマグカップを受け取り、邪魔にならないように空中に浮かべる。

「これからサルがちゃんと寝られるようになるまで一緒にいるからね!」
「別に、そんなことしなくていいんだけど」
「仲間じゃん」
「意味わかんない」
「仲間のことは支えたいから。私にはそれくらいしか出来ないし」

サルをベッドに無理矢理押し込める。サルは不本意ながら布団に埋まった。名前は満足そうに笑うと布団の上から腹の辺りをぽんぽんと叩く。名前のやり方は少々間違っていたが、サルにとってはどうでもいいことだった。名前がいると不思議なことに安心する。身体の温かさと相俟ってすぐに微睡んできた。その日からサルは徐々に深く眠れるようになったのだが、逆に名前は起床する時間が遅くなり、寝起きが悪くなってしまったのだった。



サルが夜に来る理由、好きになった切っ掛け、夢主が朝が苦手な理由を詰め込んでみました。
サルは遺伝子がウンタラ言っていましたが、結局最初に愛情(恋愛ではない)をくれたのが夢主だったから好きになったという設定です。

『MV2Sの夢主とサルのフェーダ時代の話』


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