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ブリザードプリンス吹雪曰く、私とカイザーは両想いなのだという。一体どこからそんな情報を仕入れてきたのかは知らないが、カイザーが私のことが好きだなんて俄には信じられない。カイザーはしっかりしているけれど、あまり人間味がない人だ。デュエルを中心にして生きているような人だから、他人を性格などではなくデュエルを基準にして考えているように思える。そんなカイザーが私のことが好きなど、おそらくあり得ない。私はデュエルが強いわけではないし、性格も淡白だ。何事にも飢えていない。だから常に頂点にいる貪欲なカイザーが、私を好きになるわけがないのだ。私はというと、そんなカイザーが好きだった。他人と関わることを得意としていないカイザーを何とかしてあげたいと思っている。吹雪にいつばれてしまったのかはわからないけど、彼のことだから些細なことで察してしまったのだろう。厄介な奴だ。確かに、吹雪にそう言われて悪い気はしなかった。けれども現実を考えてしまうと何とも言えなくなってしまう。だから放っておこうと思っていた矢先のことだった。

「名前、少しいいか」

購買でドローパンを購入している時だった。カイザーが私のところへやって来たのだ。普段購買に来るような人ではないから、本当に私を探しに来たのだとわかる。カイザーはいつもと同じ無表情だが、なんとなくそわそわしているようだった。

「別にいいけどどうしたの」

ドローパンの封を切ってかじりつけば、悲運なことに具なしパンだった。嫌いじゃないがお得感がない。微妙な顔をしていたせいでわかったのか、カイザーは「ふむ」と唸るとドローパンを一つ選んで購入した。

「これと交換しよう」
「いいの?食べ掛けなんだけど」
「構わない」

はっきり言って今日のカイザーは何か妙だ。カイザーはこんなに気のきくような人間じゃない。不審に思いながらパンを差し出せば、カイザーはすぐに受け取って代わりのパンをくれた。最初に私のかじった所を食べているのが気に食わない。カイザーが選んだドローパンを食べてみると、なんとゴールデンなやつだった。ささやかな悔しさと多大な美味しさを噛み締めていると、ふいにカイザーに腕を引かれた。そのままずんずん歩いて行く。

「ちょっと、本当にどうしたの?」
「今は黙っていてくれ」

やけに静かな声だったので、私は何も言えなくなってしまった。その間ずっと吹雪の言葉が頭の中で繰り返されていた。

「(まさかね)」

カイザーに連れられるまま歩いていると、いつのまにかアカデミアの裏の方まで来ていた。その頃にはパンなどなくなってしまっていて、残った包み紙を丸めてポケットに捩じ込む。

「カイザー?」
「名前」

カイザーの足が止まる。掴まれていた腕を離され、振り返ったカイザーがじっと私を見る。

「亮と呼んでくれ」
「……急にどうしたの?」
「吹雪が言っていた。名前が俺をそう呼ぶのは差別化を図っているからだと」
「差別化?まあ、間違いじゃないような…」

実際、私がカイザーと呼ぶのは彼が至高な存在だからと、まだ私が彼のことを何とかしてあげられていないからだ。随分と長い間こう呼んできたのに、吹雪に変なことを吹き込まれただけで気にするなんておかしい。

「頼む」
「ちょっと近い」

ずいと顔を近付けてくるものだから、反射的に仰け反る。カイザーの無言の圧力に負けて「亮」と呼ぶと、カイザーは満足げに頷いた。

「なんか今日変だけど頭でも打ったの?」
「いいや。至って健康だ」

このどこかずれた切り返しは普段と変わらない。今日のカイザーはなんだか押しが強いような気がする。

「もしかしてさ、吹雪にまた何か言われた?」
「ああ。これまでと同じ態度では名前は気付かないと。だから少し強引な手段を取ろうと思うのだが」

私が言われたものとは違うことを言われたらしい。それよりも、手の内を明かしてしまっているがいいのだろうか。やっぱりカイザーはカイザーだ。デュエルの布石はその時になるまで見破られないくせに、対人関係になるとだめなのだ。

「俺はてっきり名前には伝わっているものだと思っていたが、本当にわかっていないらしいな」
「はあ」

カイザーが一歩近付く度に私の足も後退する。だが場所が悪かった。私は背中を壁に向けていたので、ついに追い込まれてしまった。カイザーが私の片手をぎゅっと握る。もう片方の手には具なしパンだ。こういうところも抜けているが嫌いではない。

「好きだ」
「え?あれ本当だったの」

カイザーに告白されたことよりも、吹雪の言葉が真実だったことに驚いた私は軽いトーンで返してしまうが、彼は全く気にしていないようだった。

「キスがしたい」
「急展開すぎるからだめ」

カイザーの行動からして、私がカイザーのことが好きなのはわかっているらしい。だからといってこれは流石にないだろう。

「だめか」
「やっぱり亮って変わってるわ」

呆れてカイザーの額にデコピンをすると、彼は少し嬉しそうに微笑した。

「名前もな」

そう言うカイザーがあまりにも普通な人間に見えてしまったので、私が何とかしてしまったのではないかと思わせる。それなら、亮と呼んでも構わないだろう。

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