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「聞いたで名字」
「一氏先輩」

突然現れた一氏先輩は窓の方でシンクロのような動作をしていた。細かいところまでお笑いで出来ているなぁと思いながら近寄れば、一氏先輩はプリントをずいっと私に突き出した。

「あっ!」

慌てて回収しようとしたのだが、一氏先輩はさっと手を上げてしまう。一氏先輩が持っているのは一番新しい校内新聞だった。何を言いたいのかわかってしまった私は、恥ずかしくなって両手で顔を押さえる。

「このコーナー名字なんやろ?白石から聞いたわ」
「忘れてください」
「忘れられへんわ!初めて見た時夢に出たで!」

夢に出たなんて考えただけでも恐ろしい。私は私の絵がひどいということを自負している。こんなものが夢に出たなんて色々な意味で泣いてしまいそうだ。

「あれはあかん。せやから俺が教えたる!」
「え?」
「ええな?」
「あの…」
「今日放課後教室におるんやで」

一氏先輩はそう言うと私の返事も聞かずに行ってしまった。確かに私の絵はひどい。ひどいけど、絵が上手になってしまったらこの新聞のコーナーの意味がなくなってしまわないだろうか。それに今から練習しても手遅れのような気がする。

「名前?どないしたんや」
「あ、財前くん」

今教室に入ってきた財前くんが不思議そうな顔をして私を見ていた。

「なんか、一氏先輩が絵を教えてくれるって」
「そうしとき。お前の絵へったくそやから」

しれっと言われてしまった私は言い返すこともできなかった。



「せーやーかーら!ちゃんと見て描け言うたやんか!」
「み、見てますよ!」

一氏先輩の教え方はスパルタだった。絵が上手な一氏先輩と私の残念な絵が並んでいてひどい有り様の机の上は、正直言ってもう見たくもない。

「これのどこか鳥やねん!トンボのが近いで!」
「形状はなんとなく似てます…」
「黙っとれ!」

言い訳もすべて一喝されてしまう。そもそも、私は別に絵が上手にならなくても構わないのだ。どうして一氏先輩はこんなに厳しくしてまで絵を上達させようとするんだろう。

「一氏先輩、もう諦めましょう?こればっかりはもう無理ですよ」
「弱音吐いたらあかん。絶対に俺が上達させたる」

一氏先輩はやけに真面目な顔をしている。これはそんなに真面目になるようなことじゃない。結局絵の練習は夕方まで続いたが、少しも上達したようには見えなかった。


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