×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



闇川がピアスを外すようになってから数日が経った。最初は単純に気分で付けていないのかと思ったが、連日だとそんな考えも消えてくる。おそらくけじめをつけたのだろう。正しい道に戻ろうとしているに違いない。決闘庵に戻ってきてからの闇川は修行に精を出していた。彼が纏っていた薄暗い霧のようなものもなくなって、今では晴れ晴れとした表情をしている。闇川が闇に囚われて帰って来た時にはどうしていいのかわからなかったが、考えを改めてくれて本当によかった。正しい道へ導いてくれた遊馬には本当に感謝している。
私は家政婦として闇川と同期に決闘庵に住むようになった。年も近かったので打ち解けるのが早かったことを覚えている。同じ屋根の下に住み、仲の良い私達は家族のようだった。だから闇川のことは何でも理解しているつもりだった。けれど私には変わっていく闇川を止めることが出来なかった。無力な自分を嘆いたりもしたが、私が嘆いたところで闇川が戻ってくるわけではない。すぐに何事もなかったように過ごしたが、まるで穴が空いたみたいに冷たい風が心を駆けていくような感覚を覚えて、私の中の闇川の存在が想像していた以上に大きかったことに気付かされた。それが恋愛感情だったのかはわからない。けれど、私は確かに闇川のことが好きだった。

突っ掛けを履いて庭に出れば、闇川が箒で落ち葉を集めていた。しゃんと伸びた背筋は男らしく綺麗だ。忍び寄ってその背中を叩けば、振り向いた闇川は元から私に気付いていたのか少しだけ口角を上げていた。

「どうした名前」

随分と柔らかな声だ。むず痒くなって目線を顔から耳に移す。やはりピアスはしていない。

「闇川、ピアスってもう付けないの?」
「ピアス?ああ、もう付けないだろうな。何故だ?」

苦い顔をして笑う闇川のピアスホールを眺める。まだ小さな穴から向こう側が見えるが、これもいつか塞がってしまうのだと考えると何となく寂しいような感じがした。

「いらないなら私にくれないかなって思って」

すると闇川は驚いた顔をして私の両肩をがっしりと掴んだ。

「名前がするのか?」
「え、だめ?」
「だめだ!やめておけ!」

まるで懇願するような物言いだったので笑いを堪えられなくなって噴き出してしまう。ハッとした闇川は私から手を離すと大袈裟に咳払いをした。闇川にとってピアスはそんなに重要なものだったのだろうか。あんなに小さなものでこんなにも真面目になる闇川が面白すぎて笑いが止まらない。ばつが悪い顔をして腕を組む闇川の肩をバシバシと叩く。

「名前!いつまでも笑うな」
「ごめんごめん。じゃあしないからピアスだけちょうだい」
「持っていても仕方ないだろう」
「それでも欲しいんだよ」

私は単に闇川の私物がほしいのかもしれない。いつか離れてしまっても寂しくないように。なんてセンチメンタルなことを考えていると、闇川は私に箒を預けて自室の方へ向かった。代わりに落ち葉を集めていると、すぐに闇川が帰って来た。そして右手の拳を突き付けられる。手のひらを出せば、闇川が拳を開いた。小さなピアスが転がってくる。

「ありがとう」
「ああ」

受け取ったピアスを握り締めて笑えば、闇川も微笑んだ。子供のように純粋できらきらして見えるのは私の錯覚だろうか。

「名前……」
「なに?」
「もう一度頑張ろうと思う。だからだな、その…、しっかり見ていてくれ」

闇川は私の手から箒を奪うと背中を向けてしまった。慌ただしく箒を動かす闇川の耳は赤くなっている。そんな闇川を茶化す気にはなれない。私の方もおそらく、闇川に負けないくらいに顔が赤いのだ。闇川に対する感情の正体がわかったような気がして、私は消え入りそうな声で「うん」と返事をすると逃げるようにその場を後にした。




リクエストの闇川夢です。今回はヘタレ川じゃなくしてみたんですが、なんだか女々しいような闇川さんになってしまいました。
改めまして相互ありがとうございます!飯田さんと相互できるだなんて(夢サイトなだけに)夢のようです。飯田さんが描かれる闇川に憧れておりまして、そんな方に闇川のお話をお送りして大丈夫なの!?とアワアワしております。気に入っていただけたら嬉しいです…!
どうぞこれからもよろしくお願いします!

130217 朝霧より

back