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この世界に来てから数日経ったが、初めて見るモンばっかりで毎日が新しい。特に学校なんてやつは宝箱みたいなもんで、意味もなく廊下を歩くのもわりと好きだし、かわいこちゃんを発掘するのも楽しかった。バリアン世界からの使途としての目的を忘れたわけじゃない。だけどオレにとってはあんまり興味があることじゃなかった。今のオレが興味を持っていることはデュエルと筋トレ、それとあともう一つある。
放課後の人気がなくなった廊下は昼間が嘘のように静まり返っていた。窓から校庭を見れば部活なんかをやっていて騒がしいが、校舎には誰もいないんじゃないかと思うくらいだ。ギラグの話だとどっかの教室でやるような部活もあるらしい。オレはまだ見たことがないから嘘だと思っている。誰かいないかと探していると、教室から紙を捲ったような音がした。何気なく覗いてみると、そこには名前がいた。心臓を叩かれたような気がした。名前は遊馬たちとよく一緒にいる女の子で、オレのもう一つの興味があるものだ。よろけた拍子に開いたドアにぶつかった。名前は驚いたような顔をして振り向くと、オレを見て花のように微笑んだ。

「アリトくん」
「よぉ!何してんだ?」
「プリント閉じてるの。先生に捕まっちゃって」

困った顔をした名前の前にある机にはプリントが並べられている。イマイチ何をしているのかわからず、「へぇ」っと声が出た。

「手伝ってやるよ」
「本当?嬉しい!さっきまで先生もいたんだけど会議があるからって行っちゃったの」

名前が本当に嬉しそうな顔をするから照れ臭くなって髪を掻く。ガタガタと音を立てて椅子を半回転させ、向かい合うようにして座る。名前の持っている変な形の道具をまじまじと見ていると、それに気付いたのかオレに手渡した。

「ホッチキスで綴じてもらってもいい?」
「あー、いいんだけどオレ使ったことねぇんだ。使い方教えてくんね?」
「そうなの?珍しいね」

ホッチキスの使い方を教えてもらいながら、名前の顔を盗み見する。それだけでオレの顔は微かに火照った。くそ、ダメだ。やっぱり可愛い。名前はおとなしくてヤマトナデシコってやつだ。オレとは正反対の性格をしている。いつからなのかわからないが、オレは名前のことを好きになった。一目惚れなんかじゃなく、じわじわと身体に沁みていくみたいにだ。そのせいなのか、オレは名前に好きだと言えなくなっていた。オレはこんなに女々しいやつじゃないはずだが、名前を前にするとそういった言葉が出てこなくなる。

「アリトくんって…」
「えっ?」

名前の呟きで戻ってきたオレはすっとんきょうな声を出してしまった。名前は大して気にしていないようだ。

「アリトくんの腕って逞しいんだ」
「腕?」

名前の視線はオレの腕に釘付けだ。つられてオレも自分の腕を見る。確かに鍛えているから逞しく見えるかもしれない。女の子が言う逞しいは誉め言葉だよな!

「アリトくんって結構ガッシリしてるし。指もほら」

そう言うと名前はオレの手の第一関節あたりを取って胸の前に持ってきた。オレの浅黒い肌と名前の白い肌の差がやけに目立つ。いや、そんなことよりも名前がオレの手に触っていることが問題だ。

「私なんかの指と全然…アリトくん?」
「ハッ!お、おう!まあオレはほら、鍛えてるしな!」
「そうなんだ。男の子なんだなぁ…」

手がオレのものから離れる。名前は自分の手をきゅっと握ると瞳を細めて溜め息混じりに笑った。ぶわっとオレの中の何かが広がっていく。日が暮れかかっているせいか、オレンジ色に照っている教室にいる名前は艶っぽい。なんつー時間だ。人間はこの時間帯になると皆こうなるのか?ムダにドキドキして落ち着かなくなる。ヤバイ、まともに顔見れねぇ!挙動不審なオレを気にしていないのか名前は作業に戻っている。オレはというと緊張からかさっきからホッチキスの狙いがズレて仕方がない。

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