「何見てるの」
「な、なんでもないです」
「……」

私に視線をやった時の怪訝そうな表情はそのままで再び書類に目を落とす雲雀さんは今日もとてもとても格好良かった。 今はアジトで雲雀さんと2人、事務作業中。しばらく休憩無しで作業を続けていたせいか、ついに集中力が切れてしまった。そうなるとついつい仕事とは無関係な事を考えたくなるわけで、私とは違って未だ集中力の途切れない雲雀さんの綺麗な横顔を眺めたくなってしまったのだ。 大体こういう時に考えることはたわいも無いことで、内容もほぼ決まっている。 何故雲雀さんが私を隣に置いてくれるのか、そしていつからこうなったのか、そんなことばかりだった。ただ、その答えはいつもはっきりとはせず、もう随分と前の事過ぎてその時期も明確には思い出せなかった。 貴方が側にいてくれるようになって、恭さんは随分と丸くなりました、と時々草壁さんに言われることがあるけれど、その言葉を貰うととても嬉しくなると同時に時の流れの速さを感じる。私は一体どれ程の時間を彼の近くで過ごしてきたんだったか。

「ねえ、さっきからずっとぼんやりしてるようだけど…何考えてるの?気になるんだけど」
「え、っえ、わ!」

ぼんやりとそんなことを考えながら雲雀さんと同じように自分も書類に目を落としていると、知らぬ間に雲雀さんが距離を縮めていて、目線を落とした視界の端に雲雀さんのスーツが入り込んでいた。

「何考えてたか、ちゃんといいなよ」
「え、えっと、その、今日も雲雀さんが格好良いなって」

私のその一言でまた雲雀さんの眉間が寄る。 雲雀さんの右手が俯いていた私の顎を上に向かせ、自分と視線を合わせるように促す。 私に加えたその力は決して強いものではないのに、彼と視線が合うと長い付き合いを経ても未だに捕らえられたように動けなくなる。私が雲雀さんの美貌を褒めると彼は納得がいかないとばかりに呆れたようにため息をついた。どうやら彼の望んだ答えでは無かったようだ。

「なんなのそれ」
「なんなの、って事実です」
「馬鹿にしてるの?」
「ば、馬鹿になんてしてないです!雲雀さんがいつも格好良いのは本当のことで…、んひゃ!」

そこまで言ったところで雲雀さんに頬をつねられて変な声が出てしまった。

「本当のこといいなよ」
「…?」
「そういうこと考えてる時の顔してなかった」
「!?」
「そういうこと考えてる時の間抜け顔じゃ無かったって言ってるんだ」

ま、間抜け面ってひどい・・・。 雲雀さんをそういう目で見ているときのうっとりとした自分の表情が軽く想像出来て、一瞬死にたくなった。恥ずかしい、泣きそう。 ご本人に真面目な顔でそんなことを暴露されて思わず顔が熱くなった。 そもそも雲雀さんが格好良過ぎるのがいけないのに。 あまりの居た堪れなさに逃げようにも雲雀さんに捕らえられた顎はまだそのままで、必死で雲雀さんと合わせていた視線だけを泳がす。でもそれさえも長くは許してもらえなかった。


「っ、」
「僕を見て」

雲雀さんの真剣な声に恐る恐る視線を戻すとふわりと彼の柔らかな髪が自分の頬に触れた。 顎を捕まえていた手がいつの間にか自分の後頭部に回っていた。 啄むと表現するには物足りなく、かと言って噛み付いたと表現するには大袈裟過ぎるそれでいて逃さないと言わんばかりの絶妙さで雲雀さんが口付けてくる。 ああ、気付いてしまった。怒っているわけでもない、かと言って何かを疑っているわけでもない。この人は今、私と心を、気持ちを、繋げたいのだと。

「どうしても言いたくないならいいけど」
「え、っとその」

「僕は君を手放す気はないよ」

しれっとそう言い放って雲雀さんは私の側を離れ、何事も無かったかのようにいつもの綺麗な顔でまた書類に向き合った。 悔しい。 雲雀さんのその一言で、何で私が傍に置いてもらえるのかだとか、彼とどの程度の時間を共に過ごしてきたかなんて、 どうでも良くなってしまった。 私が何を考えているかなんて雲雀さんにはもうお見通しなのかもしれない。 それだけ彼が自分を気に掛けて、自分を見てくれているということなのではなかろうか。 今の雲雀さんが前と変わらず自分を必要としてくれるなら 理由やそれまでの過程なんてそこまで気にすることもないかななんて、気持ちも少し軽くなった。 思わずふふっ、と笑うとそれに気付いた雲雀さんがこちらに一瞥をくれて、気が済んだ?と言わんばかりにふんと鼻を鳴らした。

「あの、もしかして雲雀さんってエスパーか何かですか?」
「は?」
「私が何を考えてたか本当はわかってるんだろうなって」
「……君がいつもすぐ顔に出すからだよ」


あまくていとしい
(いつものアホ面とは違ったから少し心配になったなんてことは教えてあげない)


(200902)
お題配布元:永遠少年症候群

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