Ep.02
Ep.02
「ディーノさん?」
パーティ会場に着いたディーノの背に掛けられた声に彼が振り向くと、 そこには見知った姿が2つ並んでいた。
「うん?おい、ツナじゃねーか!恭弥も!」
自分と同じく正装に身を包んだ親しい弟分達の姿を前に喜びのあまりディーノが声を上げれば、 綱吉は微笑み、雲雀はそのテンションに対して鬱陶しいと言わんばかりに少し眉を寄せた。
「ディーノさんも来てたんですね」
「ああ、今日のパーティーはどうしても外せなくてな!にしてもお前らまで呼ばれてたとは驚いたぜ、それにパーティー嫌いの恭弥までいるとはな」
ディーノがそう言ってからかう様に雲雀に笑みを投げ掛ければ、雲雀は『煩いな、仕方なく来ただけだよ』と呟いた。
「今日は他に付き添ってくれる守護者が誰もいなくて、仕方なく雲雀さんに付いて来て貰ったんです」
「はは、だろうな、とはいえ折角のパーティーなんだから少しぐらい楽しそうにしたらどうだ?」
「楽しそうにしたらも何もこっちは仕事で嫌々来てるんだ、余計なお世話だよ」
呆れが含まれたディーノの言葉に心底うんざりしたように返答する雲雀に対して、綱吉は苦笑を浮かべるしかなかった。
「まあまあそう言うな、今日は俺だけじゃなくてお前らも会いたいだろう人間が一緒にいるから、きっと恭弥の機嫌も少しは良くなると思うぜ?」
「会いたい人間?何の話?」
ディーノのその言葉に雲雀は先程よいり怪訝そうに眉を寄せ、彼の隣に立つ綱吉は一体誰のことだと不思議そうに首を傾げる。 2人のその様子を予想通りだと悪戯っぽく笑ったディーノは、次の瞬間、少し離れた場所でこちらに背を向けていたその人物の名を呼んだ。
「!」
ディーノの口から出たその人物の名に彼女を良く知る2人が目を丸くすると同時に、 そこにいた黒髪の華奢な肩が振り向いた。
「?」
「…ワオ」
振り向いたが綱吉と雲雀を視界に捉えるより先に彼女の着飾った姿を見た2人が思わず声を上げたのは、 そこにあったのが彼等がよく知る普段の彼女の姿とは随分と違っていたからだ。
「ディーノさん?どうかしました?」
「ほら見てくれ、綱吉と恭弥に会ったんだ」
「え?えっ、嘘!!!何で2人がここに?!」
「俺はボスとしてどうしてもこのパーティーに参加しなきゃいけなくて、雲雀さんはその付き添い」
「そうなんだ!驚いたけどまさかここで2人に会えるとは思ってなかったから…久しぶりに会えて嬉しい!」
言葉通り嬉しそうに笑みを零したの明るい元気そうな表情を見るなり、 彼女のキャバッローネでの生活を心配していた綱吉もつられる様に安堵の笑みを零した。 久しぶりの再会への喜びを分かち合う様に言葉を交わす綱吉との様子を見ていたディーノは、 初めは彼等を微笑ましい目で温かく見守っていたが、 次第に自分の中の感情が変化していく違和感を感じていた。 慣れない環境で上手くやるのはかなりの緊張と心労だろうが、はキャバッローネでそれをやり切っている。 とは言えやはり時には自分や自分の部下達に向ける笑顔に疲れや無理が見えていることに、ディーノは気が付いていた。 だからこそ彼女自身のホームの人間達と久しぶりに再会した彼女が、 心底嬉しそうに付き合いの長い綱吉と笑い合い、雲雀に微笑み掛けているのを目にすると、 今という少しの時間だけでも彼女の張り詰めた緊張が和らいだことを心から良かったと思うと同時に、 それを妬ましく思ってしまうのだ。 相反する感情の狭間でディーノは揺れていた。 負の感情である後者をなんとか払いのけようとしたはずのディーノは無意識に次の行動を取ってしまう。 自分の隣に立つの腰にまるで自分は真に彼女の恋人だと言わんばかりに手を添えたのだ。 自分の元に引き寄せるように無意識に添えられたディーノの手に彼女本人は気が付かなかったが、 彼女の代わりにそれに気付いた人物がいた。 先程から必要以上には言葉を発さず、一見興味が無さそうに見えて実は綱吉やの会話をしっかり聞いている人物。 無意識にそうしていたディーノ本人よりもはっきりとそれに気が付いたのは雲雀だった。 いつのまにディーノとは簡単に体に触れても良い距離感になっているのか、 雲雀が気になったのはそこだった。 彼女がボンゴレ邸を離れる時にディーノ本人に差したはずの釘が何の役割も果たしていなかったどころか、 事は自分が予期していたような良くない方向に進み始めている気がして、 雲雀は面白くないと言わんばかりに一人静かに口角を下げた。
「じゃあ俺は少し挨拶回りしてくるから、終わるまで引き続きはツナ達と楽しんでてくれるか?すぐ戻るから」
「はい、わかりました。ここで2人と待ってますね」
「おう、じゃあまたあとでな」
の腰元から離した手を軽く上げ自分達に背を向けたディーノの姿を見送りながら、と綱吉は再び顔を見合わせた。
「それにしてもびっくりした、いくらパーティーだとは言えがそんなにも露出の多い格好をするとは思わなかったよ、今までしたことないよな?」
「まあね、今日はちょっと重要な任務があって張り切らざるを得なかったっていうか」
「重要な任務?」
「うん、例のほら、ディーノさんのお相手の方もこのパーティーに来るらしくてそれで会って欲しいって言われて」
「あーなるほどなー…それで今日はいつになく珍しい格好してるのか」
腑に落ちた様に頷いた綱吉の様子に思わずは苦笑を浮かべた。
「珍しい珍しいって、確かにそうだけど私だってたまにはこういう格好してもいいでしょ?」
「べ、別に駄目だとは言ってないよ」
「そんなに驚かれると似合わないからやめとけって言われてる気がしてならないんだけど…?」
「なっ!い、今までそんな姿見たことなかったから驚いただけで綺麗だと思ってるし、十分似合ってるよ!」
「あはは、綱吉はフォローが必死過ぎて怪しいなあ」
「折角褒めてるのに何で疑うかな…ちゃんと似合ってるって!雲雀さんもそう思いますよね?」
普段肌の露出が少ない彼女が着飾るのは珍しく驚きを隠せないのは事実だったが、 今日のの姿を見て綱吉が彼女を綺麗だと思ったのは本当のことだった。 結局幼馴染と言う付き合いの長さから、互いに気恥ずかしくて素直に賛辞を伝えられなければ、受け止められもしないだけだ。 とはいえ自分以外の人間、今日ここにいるのは雲雀しかいなかったが、 普段から素直に人を褒めることが出来ない彼もさすがに今回ばかりは不器用なりに彼女の女性らしい姿を褒め、 自分と同じ感想を述べてくれると綱吉は思っていた。 だが次の瞬間、雲雀の口から紡ぎ出された言葉に絶句することになる。
「君らしくない」
まるで雷が落ちたかのように場に沈黙が下りた。 雲雀のその言葉を聞くなりを気遣った綱吉が反射的に彼女の様子を窺うべくそちらへ視線を移すと、 自分と同じように言葉ないが沈黙の後、小さく唇を噛んだのを綱吉は見逃さなかった。 慌ててフォローに入る。
「ちょっと雲雀さん!そんな言い方しなくても…!」
「どうしてだい?本当のことじゃないか」
「確かにいつもとは随分雰囲気が違いますけど社交の場ですし、だってたまにはこういう格好をするときもありますよ!」
「僕は別に今日の姿が似合わないとは言ってないよ、彼女らしくないって言っただけだ」
そう言い放ってからふいと顔を反らした雲雀の様子に綱吉が焦っていると、 そこでようやく黙り込んでいたが口を開いた。
「そ、そうですよね、やっぱり私なんかがこんな格好したらおかしいですよね」
「!だからおかしくなんかないって、俺は十分似合ってると思うし綺麗だよ!」
「ありがとう綱吉、でも改めて雲雀さんにそう指摘されるとそうだろうなって実感出来たし別にいいの」
気恥しそうにそれでいて悲しそうに眉を下げるが『やっぱり少し背伸びし過ぎだよね』と零しても、 雲雀は謝るでもなく彼女にちらりと目線を投げ掛けただけだった。 そんな彼に綱吉が怒りの視線をぶつけても雲雀はそれに気付かないふりをしていた。
「ところでそんなことより!ボンゴレの皆は元気にしてる?」
何事も無かったようにいつも通りに振る舞い始めたの様子を見て、 さすがの雲雀も少しばかり胸が痛んだが、自分の言った言葉を撤回するつもりはなかった。 自分の言葉で彼女を傷付けたいわけではなかったが、彼の中には言葉では何とも形容しがたい感情が渦巻いていたのだ。 思っていたよりのボンゴレへの帰りが遅いことへの心配やそのことに対する怒り、 今日目の当たりにしてしまった以前より親密そうなディーノとの距離感、 全てが自分が望んでいなかったことなのに、さも当たり前のようにそれを自分の目の前で繰り広げられてしまうと、 機嫌の悪さや本来の口の悪さを隠すことは難しかった。 ボンゴレの一員としてあらゆるパーティーに参加する彼女の着飾った姿は今まで何度も目にしている。 とはいえ普段からそこまで飾り気のない彼女はパーティでもそれほど目立つ格好をすることなど無かった。 必要以上に着飾らなくとも彼女が持ち合わせている本来の美しさは、 たとえそれがシンプルな装いの中でもいつも存分に発揮されていることは、 ボンゴレの人間にしてみれば周知の事実だったし、それが彼女と言う人間だと雲雀は信じていたのだ。 休日の度に趣味なのだとボンゴレ邸の花壇に花を植えたり、楽しそうに土まみれになっている彼女を見て、 血生臭い日常の中でも普通でいたい、自分らしくいたいという彼女の姿を微笑ましく、そして愛らしく思っていた。 だが今回いつになく華美で露出の多い、いつもとは正反対の彼女の着飾った姿を見てしまうと、 今までのナチュラルだった彼女を変えてしまった原因そのものと、 彼女自身の確固たるそのスタンスを容易に崩してしまった彼女の意思の変化への怒りは抑えられなかった。 言うまでも無く前者はディーノへの怒り、後者はに対する怒りだ。 自分の知っているが彼女ではなくなってしまうような感覚が雲雀を蝕んでいく。 偽物の関係だとはいえ婚約者として少しでもディーノに相応しくなりたいという、 健気に努力した彼女の気持ちを踏みにじる『君らしくない』と言う言葉も、 自分達のもとから離れてディーノに近付こうとする彼女を、君の居場所はそこではないと戒めるつもりでつい厳しく接してしまっただけだった。 今日の彼女の着飾った姿はすれ違う男が皆振り向くほどのものだというのにそれを素直に伝えることができない。 伝えれば彼女が間違いなく喜ぶのはわかっているのに、 それを自信にしてがディーノの傍に居続けることになってしまったらどうしようもない。 少しばかりキツイことを言っても彼女が自分達の元に戻ってくるならば自分はいくらでも嫌われ役になってやると、 自分の目の前でキャバッローネ邸での近況と最近のボンゴレファミリーの様子を語り合う綱吉とを見守りながら、 雲雀はそう考えていたのだった。
(2021.07.02)
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