Ep.02
Ep.02
「ディーノさん?」
声と共にその場に姿を現したのはだった。 彼女が現れたのは使用人達の仕事場からで、 まさかこんなところでを見付けると思っていなかったディーノは思わず目を丸くした。
「…?」
「おかえりなさい。思ったより早かったんですね、てっきり帰りは遅くなるのかと…今日は会えないかと思ってました」
「お、おう、予定より早く仕事が終わったんだ」
「そうなんですね、それは良かった」
そう言って微笑むのいつも通りの姿に焦りや心配が消え、ディーノが安堵したのも束の間、 彼はの腕の中に積み上がったタオルの山に視線を合わせた。
「、お前それ…」
「え?あ、タオルのことですか?」
「こんなところで何してる」
本人はただ純粋に質問を投げ掛けただけのつもりかもしれない。 それでもここは客人であるお前のいるべき場所ではないと、少しばかり責めるような色を含んだディーノの言葉には苦笑した。 彼が自分の思いつきに反対するだろうことはとて最初から十分に想像出来ていたからだ。
「使用人の皆さんのお手伝いをしようかと」
「ちょっと待て、どうしてお前がそんなことをしてるんだ、使用人達に頼まれたのか?」
あからさまに不満そうに眉を寄せたディーノには再び苦笑いを浮かべる。
「まさか、違います、やることが無くてあまりにも暇過ぎたので何か仕事が欲しくて」
「だからって…雑用なんてやらなくていい、お前は客人なんだぞ?」
「屋敷内にいれば何でも私の好きなことをしていいって言ったの、ディーノさんですよ?」
顔を顰めるディーノを落ちつけようとが決定打を投げ付ければ、 彼は渋い表情になってしまう。
「そ、それは、そうだが…」
「これは私がやりたくて好きでやってることなんです、それでも駄目ですか?」
優しいディーノのことだ、自分の意思を尊重してくれるだろうことを知っていたはトドメとばかりに、 ディーノに追いうちを掛けた。
「わ、わかった、がどうしてもやりたいって言うならやっていい」
「ふふ、ありがとうございます」
「でも全部が全部許せるわけじゃねえからな、だから汚れ仕事は絶対やるなよ?」
「わかってますよ、使用人の皆さんにもそれは断られてますから、お手伝いも邪魔にならない様に程ほどにします」
自分から承諾を得られたことが余程嬉しいのか、優しく笑みを浮かべるの姿にディーノはつい絆されてしまう。 こちらの都合で彼女を自分の屋敷に軟禁しているのだ、彼女に望みがあるならば、 例え許し難いと思うことでも自分は少し譲歩すべきなのだろう。 まったく仕方ねえなと困ったようにディーノが頬を掻いていると、突然何かを思いついたようにが声を出した。
「あ、ディーノさん」
「どうした?」
「そういえば、暇過ぎたので厨房をお借りしてお菓子を焼いたんですけど、良かったら食べませんか?」
タオルの山を抱えたまま、投げかけられた提案にディーノが固まってしまう。 恐る恐る自分の表情を窺うにディーノは一つ息を吐く。
「お前なあ、いくら暇だからってそこまで俺達のこと気遣わなくて良いんだぞ」
「ふふ、向こうでもいつもやってることなので気にしないでください、それともディーノさんって甘いもの苦手でしたっけ?」
「いや、そんなことはねえけど…」
「じゃあ是非食べて貰えたら嬉しいです、部下の皆さんの分もあるので」
『あ、でも人数多いから足りるかな…』と呟いたの横顔はディーノが思っていたよりも楽しげだ。 それを見たディーノは自分の胸が温かくなるのを感じた。 そしてかねてより思っていたことが彼の頭を過ぎる。 彼女は本当にこの世界には似つかわしくない存在だと。 でもだからこそ彼女の存在はこの世界に生きる男たちの癒しになっているのだろう。 ボンゴレの男達が彼女の存在を大切にするのは、きっと彼女の人柄ゆえだ。 長い付き合いだけがそうさせるのではない。 彼女の優しさが、彼女の気遣いが、この黒い世界に入らざるを得なかった若い彼らを支えているに違いない。 ディーノは自分には無い存在を傍に置く、自分の弟子とも言える彼等が羨ましくなった。 自分にも支えてくれる部下達が大勢いるのは事実で、女に困ったこともない。 あらゆる欲は満たされ、何不自由のない生活を送っているはずなのに、 自分の心が一番に欲しているだろう何かが欠けている。 の笑顔を見ているとディーノはそう感じずにはいられなかった。
「ディーノさん?」
「え?あ、なんだ?」
「ボーっとされてましたけど、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ、ちょっと考え事してただけだからな」
「なら良いんですけど…じゃあ後で執務室にお持ちしますね」
「おう、楽しみにしてる」
ディーノがそう返せばは嬉しそうな表情を浮かべて、先程のメイドと連れ立ち厨房の方へと歩いて行った。 ディーノは彼女達の背を見送りながら、 一瞬でもボンゴレの男達を羨ましいと思ってしまった自分の考えを振り払う。 自分に何が欠けているかなどわかっている。 それを探し求めた結果が今回のこれなのだ。 これ以上彼女に迷惑を掛けることも、困らせてしまうことも避けるべきだ。 欠けたピースを埋めるべく自分が欲しているそれを、に求めてはいけない。 そんなことは許されない。雲雀にも釘を刺されたのだから。 ディーノは既に回り始めそうになっている自分の胸の歯車に必死に歯止めを掛けながら、 探していたの無事を伝えに行くべく今度はロマーリオの姿を探しに向かったのだった。
(20210423)
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