PRIMADONNA*3

〜?着替え終わった?」


あっという間にパーティの当日になってしまった。 がルッスーリアの用意してくれたドレスを身にまとい 背中のファスナーを上げようとしていたところで、呼び声と共に彼女の部屋のドアがノックされる。 掛けられた声に部屋への入室を許可すれば、 ドア越しにルッスーリアが部屋を覗き込み、ドレス姿のを見付けるなり満足げに微笑んだ。


「やっぱりすっごく似合ってるわね!私が身立てただけあるわ!」
「ありがとうルッスーリア、でもちょっと露出が多過ぎるような…」
「んまあ、何言ってるの!いつもあんな重っ苦しいコート羽織ってるんだからたまにはいいじゃない!」
「そ、そうかな…?」
「そうよ!とっても素敵!私でさえドキドキしちゃうもの!彼もイチコロよ!」


得意げに小指を立てひたすらに自分を褒めちぎってくれるルッスーリアの言葉に、 は背中を押される気分だった。 普段は女の欠片もない仕事をしているのだ、彼の言うとおりこういう格好もたまにはいいかもしれない。 が背中に手を伸ばしドレスのホックを留めようとしてもたついていると、 それに気付いたルッスーリアがさっと背後にまわり、慣れた手付きで手伝ってくれた。


「ありがとう、なかなか留まらないから助かったよ」
「いいのよ、私に出来ることならなんでも言ってちょうだい!」
「ルッスーリアはいつも頼りになるね」
「うふふ!にそう言ってもらえて嬉しいわ!」


思わず2人で笑みを交わし合う。 こういう時彼の恋愛対象が女性で無いことが非常に勿体ないと思ってしまう。 彼のように優しくて気遣いの出来る人が自分の恋人だったら、女性は皆きっと幸せだろう。 さて続きの準備を進めようと動き出すと、こちらの様子を窺うようにルッスーリアが切り出した。


「ねえ、髪とメイクはどうするの?」
「一応考えてはあるから、これから自分でやろうと思ってたの」
「ねえそれ…良かったら私にやらせてくれない?」
「えっ」
「ドレスも私が選んだわけだし、実はそのドレスにぴったりのヘアとメイクも考えてあるのよ!」


再び小指を立てて得意げに微笑んだルッスーリアのもう片方の手元には、 ヘアメイク道具が一式抱えられている。 最初から全て自分でやるつもりで部屋に来てくれたのだろうと思うと、は胸が熱くなった。 本部からヴァリアーに異動して以来、彼にはお世話になってばかりである。 優しい彼のことだ、男ばかりの環境に女が入ることの居心地の悪さを考えてのことだろう。 最初の頃は申し訳ないから自分には構わないでくれとやんわりお断りすることが多かったが、 『私がやりたいだけだからは気にしなくていいのよ!』 と笑って何かにつけて助けてくれる彼には、今まで何度救われたことか。 ある時彼に、気を遣われて断られるより、自分の気持ちを受け止めてくれた方が嬉しいと言われて以来、 その好意はいつも有り難く受け取ることにしていた。 今回もきっと遠慮などせず、素直にお願いした方が彼も喜ぶのだろう。


「じゃあ、せっかくだからお願いしようかな?」
「もちろんよ!この世で一番のお姫様にしてあげるから任せてちょうだい!」
「ふふ、ありがとう、楽しみ」


ルッスーリアに誘導されるまま、化粧台に移れば美容師さながらの手付きで彼が髪に手を入れ、 ブラシが優しく肌を撫でる感覚に目を瞑る。 るんるんと楽しそうに作業を進めていく彼と会話を楽しみつつも、 まるで彼好みに自分が作り替えられていくかのような気分に少しだけ胸がむず痒くなった。












「う゛お゛ぉおい、遅えぞぉぉぉ 」


ヴァリアー邸のロビーにスクアーロの低い唸りが響く。 言わずもがな彼の言葉が指し示しているのはルッスーリアとのことだった。 外には本部へ向かうための車がもう随分と前から停まっていたし、 2人以外の幹部の男連中は皆揃っている。 正面玄関の壁に寄り掛かったまま目を閉じ 2人が現れるのを待つザンザスの姿に、自分のボスを気遣ったスクアーロは一つ嘆きを零したのだ。


「気持ちはわかっけど女の支度は時間が掛かるって言うし、それだけ気合い入れてるってことじゃね?楽しみじゃん」
「んなことは百も承知だぁぁぁ、だがそれにしても遅ぇだろぉぉぉ!!」
「スクアーロ隊長ー、女性にそんなこと言うなんて野暮じゃないですかー?余裕ない男は嫌われますよー」
「なっ、うるせぇぞぉぉぉ!余計なお世話だぁぁぁ!!!」


ザンザスに気を遣ったらしい発言も虚しく、すかさずフランが小馬鹿にしたような野次を飛ばす。 ベルは自分の横で始まった言い合いを横目に、レヴィが俺が様子を見て来ると足を進めたのを見て取り 『もうそろそろ来るんじゃね?』と声を掛ければ、彼の足が止まる。 スクアーロもレヴィもボスのご機嫌取りに必死らしい。 そんな彼等にベルが辟易していると、ようやく二つの足音が近付いてくるのが聞こえた。 『皆〜!お待たせ〜!!!』と叫んだのはルッスーリアだ。 はどこだと皆がそちらに目をやれば体格の良い彼の後ろから姿を見えた彼女の姿に、 騒いでいた男達が一気に口を噤んだ。


「皆さん、お待たせしてごめんなさい」


申し訳なさそうに眉尻を下げて謝るの着飾った姿を見詰めたまま、皆が黙り込む。 何も言葉を発しない彼等の姿に、は自分が身支度に時間が掛かってしまい 彼等を待たせたことで、彼等が怒っているのだと勘違いし慌て出す。 『あの、えっと、本当にごめんなさい』と繰り返す彼女の姿を見たルッスーリアは、彼女の肩に優しく手を置いた。


「うふふ!皆予想どおりの反応ね!違うのよ、皆怒ってるんじゃなくてアナタに見惚れてるのよ!」
「えっ…!?」
「ねえボス、今日のどうかしら?」


未だに壁に寄り掛かったまま腕組をしているザンザスに、ルッスーリアは機嫌良くそう問い掛けた。 掛けられた声に応えるようにザンザスがに視線をやれば、 自分の遅刻のせいでボスの機嫌も損ねたと思いこんでいるのか、不安げに揺れる瞳と目が合う。 いくら短気で怒りっぽいことで有名な彼も、腐ってもイタリア男である。 女性に対しての礼儀や気遣いに関しては心得ているのだ。 不安そうなを安心させるように小さく笑みを零してからザンザスは口を開いた。


「悪くねェ」
「…!!!あ、ありがとうございます…!」


満足げに口角を上げたザンザスの表情にが頬を染めれば、ベルがひゅう!と口笛を吹いてはやし立てた。 『行くぞ』と皆に声を掛け、コートを翻し一番に車へ向かったザンザスの背中をレヴィが追う。 先程までは散々喚いていたはずのスクアーロも、と目が合うなり目尻を下げ、 『隊長行きますよー』と急かすフランの後を追って屋敷を後にする。 ルッスーリア、、ベルの3人だけがその場に残されていた。


「しししっ、さーて、俺らも行きますか」
「ねえベルちゃん、折角だからのことエスコートしてあげたらどうかしら?」
「は?何で俺が」
「もぉ〜仲良しのよしみじゃないの、があんまり綺麗だからって照れないの!」
「照れてね―し、っつーかそんなのアイツにバレてみ?折角これからパーティで暴れようと思ってんのにその前に死ぬのヤダし」
「あー確かに…それもそうね、じゃあ私がその役貰っちゃおうかしら〜!」


そう言うなり身を正しているルッスーリアを傍に 『決まってんじゃん、似合ってるぜ』とベルがを賛美すれば、 彼女は照れくさそうに『ありがとう』と言って頬を緩めた。 そんな彼女の様子にいつも通りしししっと歯を見せると、身を翻しベルも車へと向かっていく。 残されたに2人のやり取りを見守っていたルッスーリアが手を差し伸べた。


「さ、私達も出発よ!お手をどうぞ、お姫様!」


サングラスの奥で優しく細められた瞳に笑みを返してから、は差し出された手に自分のそれを重ねた。


(20201003)



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