PRIMADONNA*2

今、彼と対峙しているのは自分の執務室であった。 このあと自分が口を開けば、彼がどんな顔をするかなど最初からわかっている。 それでもこれは必ず彼に伝えなければならないことで、 彼が断わろうが断るまいが、なんとしても彼を参加させなければならなかった。 再来週予定されているパーティのことである。 これは歴としたボンゴレの記念行事なのだ。 守護者達全員の顔を見せることで、10代目としての威厳を示すことができファミリーの面目も立つという。 名誉や地位など正直自分にとってはどうでも良いのが本音であるが、 世間体としてはそうもいかず、必ずそうするようにとリボーンにも釘を差されていた。


「全員出席って、一体どういうこと?」


自分のデスクから見上げた視線の先に予想通り眉を顰めた雲雀の顔を見付けて、綱吉は小さくため息を吐いた。


「すみません、最初は俺もその必要はないと思っていたんですが」
「ならどうして」
「ボンゴレの歴史ある記念行事なので、守護者達には全員出席してもらうべきだと指摘されてしまって」
「この前、僕は出ないと伝えたはずだけど?」
「それはそうなんですが…リボーンからも皆出るに決まってると怒られまして」
「…そんなの知らないよ」


腕を組み、心底気に入らないという表情で雲雀は綱吉を見下ろしている。 何年経っても相変わらずの気迫に思わず怯みそうになるが、綱吉にとってもここで雲雀に負けるわけにはいなかった。


「こればかりはボスとしての命令なので…お願いします」
「…」
「雲雀さん、聞いてますか?」
「はあ……まあ気が向いたら出てあげるよ」


雲雀はそう言い捨てると背を返し、部屋を出て行ここうとする。 気が向いたら、など嘘に決まっていた。 ボス命令を執行すると一見了承したように振舞っておきながら、仕事に関してはきっちりこなす雲雀も 集まりごとに関してはことごとく逃げてしまう。 今日このまま逃げられてしまっては、 パーティー当日まで事あるごとにかわされ、逃げ続けられるだろうことは目に見えている。 「雲雀さんちょっと待って下さい!」そう声を掛けても彼の足は止まらない。 普段ならは一度彼に拒否されてしまうと、それ相応の交換条件を出さなければ受け入れられては貰えない。 だが今回ばかりは交換条件どころか強制などしなくとも、 彼がパーティーに参加してくれるであろう必殺技があった。 最初からその切り札を使うつもりで今日は雲雀を呼び付けていたのだ。


「実は今回、ヴァリアーにも声を掛けていて」


雲雀の背に向かってそう声を掛ければ、 今にも外へ出ていこうとドアノブに掛かっていた手が止まる。 予想通りの反応を見て、綱吉は捲し立てるように言葉を続けた。


「ボンゴレの記念行事ですから、ヴァリアーの幹部達にも全員出席するようにと伝えてあるんです」
「…」
「元々パーティ好きの人達ですから、恐らく全員来てくれると思っています」
「…」
「だから」


その先を言わずとも自分の言いたいことを雲雀はわかっているだろう。 綱吉はそう思ったが、 ドアの前で立ち止まり確証を得るための言葉を待っているのか、 微動だにしない雲雀に対して、綱吉は止めの一言を告げた。


「だから、も来るはずです」


部屋の中は静まり返っている。 雲雀の反応を待つ間綱吉は一瞬切り札の効果を疑ったが、それは本当に一瞬だけだった。 くるりと背を返した雲雀が自分を見据えている。 そうなれば返事など聞かずともわかったようなものだ。


「…そういうことは先に言いなよ」
「はあ、すみません」


彼の恋人であるの名を出せば、雲雀が折れることなど最初からわかっていた。 ましてやいわゆる遠距離恋愛中の2人である。 機会がありさえすれば、互いに会いたいと思うことは当然であろう。 しかしながら仕事に忙殺される日々に、 恋人同士であるはずの2人が顔を合わせるどころか、連絡を取り合うことさえ出来ていないことを 綱吉は知っていた。 元より想い合っている2人を離れ離れにさせたのは自分である。 自分の幼馴染であり、ファミリーの中では誰よりも自分の良き理解者であるを、 自分の守護者としての役割を担わせながら、本部から余所へ異動させることに最初は反対した。 その余所があの物騒な暗殺部隊となれば、なおのことである。 の才能を見込んだリボーンの推薦だった。 幼い頃から臆病で苛められがちだった自分をいつも助けてくれたのは彼女で、 まさか大人になってもそんな幼馴染と共に仕事をすることになろうとは、 その上、自分さえ心から嫌だったこんな物騒な世界に彼女を引きずり込んでしまうとは、綱吉は夢にも思っていなかった。 幸か不幸か、互いに恋愛感情を持つことはなかったが、 だからこそ古くからの良き友として、互いの良き理解者として、 今まで世話になった恩を返すつもりで彼女を見守り、 彼女には幸せになって欲しいと思っている。 今回のパーティは、普段恋人としての時間を過ごせていない彼等にとって絶好の機会だろう。 例え一時だとしても、がこちらに帰ってくれば雲雀は嬉しいだろうし、 本人も雲雀に会いたがっているだろうと思ったのだ。


「では、雲雀さんも出席と言うことで良いですよね」
「…ああ」


先程までの不機嫌な様子はもう見られないとはいえ、 一見無表情のように見える雲雀の纏うオーラが、 の名前を出した途端少しだけ和らいだのが綱吉にはわかっていた。 恐らく今日からパーティ当日までの2週間、 彼の士気が高まり仕事の質もスピードも上がるだろう。 彼の場合、自分では気付いていないようだが、 嬉しいことがあり機嫌が良い時などは元より高い戦闘力がますます上がるのだ。 見るからに機嫌の良さそうな顔をして暴れ回り、任務先で部下達をも恐れ戦かせるその光景は、綱吉も何度か目にしたことがある。 ボスとしてはありがたい以外の何物でもないが、 綱吉はそこに垣間見える雲雀の人間味を仲間として、友として嬉しく思うのだった。


「ではそういうことで、よろしくお願いします」
「十分わかっているとは思うけど、必要以上に群れ合ったら咬み殺すからね」


そう言い放って雲雀は部屋から出て言ってしまった。 社交場で群れ合うななど、到底無理な話である。 しかしそんな理屈は雲雀には通用しない。 自分の守護者含め、ただでさえ血の気の多いヴァリアーの面々が一堂に会することで、 パーティがとんでもなく荒れるだろうことが暗に予測できてしまう。 当日咬み殺されるのは彼らなのか、それとも責任者である自分なのか。 綱吉は一人残された部屋で頭を抱えたのだった。


(20200926)



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