突然の知らせに、皆が沸き立った。 皆と言っても丸っきり全員ではない。ヴァリアー幹部だけの話である。


「パーティとかいつ振り?王子すげー楽しみなんだけど」


普段は長い前髪に隠された瞳が言葉通り嬉しそうに細められたのが垣間見えて、 はそうだねと微笑んだ。


「幹部全員出席ってことはボスも行くんかな、珍しくね?」
「ボンゴレ本部の行事だから、綱吉からボスへ要請が来てれば行くだろうね」
「荒れそうだなー、もちろんも行くんだろ?」
「うん、本部に帰れるの久しぶりだし、皆にも会いたいし」
「ふーん、『皆』ね」


楽しそうなその声色と悪戯っぽく歪んだベルの口元から、彼の言葉の含むところを感じ取る。


「『皆』にも会いたいかもしんねーけど、一番会いたいのはアイツだろ」


新しいおもちゃを見付けた子供のように楽しげに、ベルがしししと笑って歯を見せる。 瞳は隠れていて見えないのに、まるで全てを見透かされているような物言いに思わず頬が少しだけ熱くなった。


「…わかってるならいちいち指摘しないでよね」
「だって面白れーじゃん、イイもん見れるかもしんないし」
「見世物じゃないんだけど」
「怒んなって」


この我儘で身勝手そうな男には、ヴァリアーで仕事をするようになった当初、心底手を焼かされた。 初めて彼の姿を見かけた時はお互いにまだ10代で幼かった上に、 自分はこの世界とは全くの無縁だった。 この男が友人である獄寺に襲いかかるその姿に恐れ慄いた記憶があるが、 あれから随分と時が経ち、ある日突然今のこの環境に置かれるようになってから いざ彼と一緒に仕事をするようになってみると、基本的には気の悪い人間ではないことがわかった。 暗殺者に良いも悪いも無いと言われればその通りではあるが。 目を合わせただけで刺殺されるのではないかと最初の頃は距離を置いていたこともあったが、 一緒に仕事をするようになり口を利く機会も増えれば、 元々年が近いこともあってあっという間に距離が縮まった。 友人と言うよりは彼の母親役をやらされることもしばしばである。


「向こうも全員出席すんのかな」
「ヴァリアー幹部を全員呼ぶとなれば向こうは当然そうだろうし、本人たちもそうしたいんじゃないかな」
「そうしたい、って?」
「まあ隼人はあれだけど、綱吉とか武なんかはヴァリアーの皆に会いたがってると思うよ」
「しししっ、本当に物好きだよな、あいつら」
「ベルだって久しぶりに皆に会いたいでしょ?」


10代目守護者達とヴァリアー幹部達が敵として戦ったのはもう随分と昔の話だ。 ヴァリアーは未だに10代目ではなく、9代目直属の部隊という肩書であるし、 穏健派の一部を除いてそれを認める者は少ないが、今では時に助け合い、共に笑い合う仲である。 自分は彼等の仲を取り持つ存在としてその役割を任されてはいるが、 今となっては自分など居らずとも彼等はもう立派なファミリーだった。


「会いたいかは別として、好きなだけ酒が飲めるし暴れ放題だろうからそれはマジで楽しみだな」
「最初から暴れるつもり満々なのやめてよね、屋敷が壊れる」
「いししししし、聞こえねー」


愛用のナイフを壁の的に命中させながら、 心底楽しみだというように踏ん反り返ったソファの上でベルは笑った。 確実に何か悪いことを考えているだろうその表情に思わず頭を抱える。 残念なことに、本部で暴れてやろうなどと物騒なことを考えているのは、恐らくベルだけではないだろう。 元より血の気の多いヴァリアーの人間が挙って集まるとなると、 好き勝手飲み食いし散々騒いだ揚句、屋敷を一つ破壊することなど朝飯前である。


〜!どこなの〜!?」


血の気の多い仲間達が本部の友人達と揉め事を起こしませんように、 心の底からがそう願っていると何処かから彼女を呼ぶ声が聞こえた。 この声とこの口調は紛れも無くルッスーリアだろう。


、オカマが呼んでるぜ」


何かあったのだろうかと思い座っていたソファから身を起こすと、 談話室のドアが開かれてルッスーリアが部屋に入って来る。 自分の姿を見つけるなり足早に近付いて来たその姿は、とても機嫌が良さそうに見えた。


ったらこんなところにいたのね!ねえ、もう聞いた?再来週本部でパーティらしいわよ」
「うん、さっきボスから聞いたよ、幹部全員出席だって」
「そうなのよ!!!全員だなんて珍しいから今からすっごく楽しみよねえ!!!」


ベルと同じようにルッスーリアもとても楽しみにしているようだった。 それはそうだ。最近特に仕事が忙しく、幹部の皆が顔を合わせることも稀で、 各々が屋敷に帰って来てはすぐにまた次の任務に向かう日々が続いていた。 誰しもパーティの「パ」の字を聞いただけで騒ぎ立つに違いない。 自分の隣では『うっさ、オカマ声でか過ぎ』『あらベルちゃん、いたのね』 などと言葉が交わされている。


「ところで、何を着ていくかもう決まったの?」
「ううん、ついさっきその件を聞いたばかりだからまだだけど、時間も無いし手持ちの中から適当に選ぼうかなって」
「なんですって!!??そんなの駄目よ!!!」


突然ルッスーリアが大声を出し身を乗り出してきたので、驚いてしまい思わず身を引いた。 『だから急に大声出すなよ、なんでこんなにオカマってうるせーの?』 とベルも眉を顰めている。


「あら、ベルちゃんごめんなさいね、でもね、!久しぶりの本部でしょう!?」
「う、うん…」
「久しぶりに、、、会えるんでしょう?!」


目を輝かせ私の顔を覗き込んで来るルッスーリアの言いたいことはわかっていた。 彼の考えていることは間違いなくベルと同じだろう。 私が本部に帰る時、何を一番楽しみにしているかなど、とうに彼らにはバレている。 仲間内には周知の事実だとは言え、ここまで自分の心の中を見透かされているのは気恥ずかしかった。


「適当なんて絶対ダメ!アタシが見繕ってあげるから任せなさい!」


キラキラと目を輝かせて『腕が鳴るわぁ〜!』と浮足立っているルッスーリアの楽しげなこと。 彼のそんな様子は、彼を眺めながら鬱陶しそうに壁にナイフを投げ付けているベルとは可笑しな程に対照的だった。


(20200921)



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