任務の帰り道だった。
思っていたよりアクマの追跡が執拗だった所為で、
乗る予定にしていた汽車の時間が迫っている。
その汽車を逃してしまうと明日の昼まで次の便が無くなってしまうため、
探索部隊と共に大急ぎで駅へと向かっていた。
その途中のことだった。
ドガァァァァン!!!と大きな爆発音が響き、数百メートル先には煙が立ち上っているのが視界に入ってくる。
「もしかして、あれってアクマでしょうか?!」
「わかりません!ですがその可能性が高いかと!」
探索部隊の言葉を聞き、それに驚く間もなくその場へ急行する。
あの爆発の規模だと被害が大きいかもしれない。
唇を噛み締めて、アクマがいると予想されるその先に駆け出した。
間もなく辿り着いた現地には街の人々の叫び声が響いている。
アクマの居場所を探そうと辺りを見渡すが、立ち上る煙の所為でその行方が見定まらない。
やられた!
こんなことで足止めを食っている間にも、
煙の中でアクマが被害を拡大させているかもしれない。
彼等の気配を察知するのが遅過ぎた。
自分の無力さにもう一度唇を噛み締めたその時。
立ち込めていた煙が徐々に消え始め、その中に一つの形が見えてくる。
発動したイノセンスを構え、その先を見据えた。
「ふぅ、こんな街中で物騒ですね」
聞こえてきた声と共に視界に映ったのは、破壊されたアクマの残骸と白髪の少年だった。
彼の腕は人のものとは思えない程に巨大化している。
驚きあまり思わず目を見開きその場に立ち尽くして私を、こちらに背を向けていたその少年が振り返った。
「ん?あれ、貴女のその服は師匠と同じ…」
「え?」
「あ、す、すみません!貴女はもしかして黒の教団の方ですか…?」
『黒の教団』という言葉を口にした彼の頭上にはゴーレムが飛んでいる。
教団の制服は来ていないが、彼はエクソシストなのだろうか。
ゴーレムを連れているのが何よりの証拠ではあったけれど、
教団に彼のようなエクソシストの存在が思い浮かばなかった所為で
あたしは不思議に思い首を傾げた。
「貴方は…エクソシスト?」
彼と少し距離を保ったまま、私は彼にそう問いかける。
すると彼は表情を緩め、微笑んだ。
「はい、アレン・ウォーカーといいます」
「アレン…?」
「ええ、貴女は?」
「私はです、」
私が名乗れば彼は嬉しそうに『どうぞ、よろしく』と手を差し出してきた。
ぎこちなくその手を握り返せば、彼はもう一度微笑んだ。
でも彼はそれからすぐに思案顔になって首を傾げた。
「そう言えば、さんは何故ここに?」
なぜここ?
彼にそう言われて数分前までの自分の目的を思い出す。
き、汽車の時間!!!
アクマの登場のせいですっかり忘れてしまっていた。
バッと辺りを見渡せば少し離れたところで待機している探索部隊の姿が見えた。
やばい、乗り遅れる!
今日の最終列車を逃し、明日の昼までこの町で時間を潰す破目になるのはどうしても避けたかった。
早く教団に帰って自分のベッドで休むんだ!
ここ一ヶ月ほど任務続きの体を一刻も早く休めたかった。
走ればきっと汽車にはまだ間に合うだろう。
「アレンくん!ごめん、後のことは頼んでもいいかな?」
「え?あ、はい、わかりました」
「アレンくんは今、この町で任務中なんだよね?私はもう自分の任務は終わったからちょっと急いでて、今日中に教団に帰りたいからまた今度教団で会った時にゆっくり話そう!」
「あっ、でも僕まだ―――」
「ごめんね!後処理は宜しくお願いします〜!」
アレンくんがまだ何か言っていたが私の足はもう駆け出していた。
彼に後処理を任せて自分だけ帰ってしまうのはかなり酷いことだとは思ったけれど、
これが今回のこの町での彼の任務なのだろうから別に大丈夫だろう。
姿が見えないだけで近くに彼の担当の探索部隊も控えているはずだ。
「僕まだ教団には行ったことないんですけど…って、もう聞こえてないか」
何だか慌ただしい人だったなあ、苦笑するアレンの言葉を私は知る由も無かった。
*
「嘘でしょ…そんな人いないってどういうこと?」
教団に帰るなりリナリーにアレンくんのことを尋ねるも、
『誰のこと?そんな人いないわよ?』と不思議そうな言葉を返されてしまった。
いないとは一体どういうことなのか。
彼の巨大化したあの腕はどう見ても一般人の物とは思えないし、
あれはどう見てもイノセンスに違いなかった。
彼があれを使いこなしていたせいで、てっきり彼をエクソシストだと思いこんでしまったが、
もしかしたら彼はまだ教団には属していない存在だったのかもしれない。
きっとこの世界には未だ教団に発見されず、保護されていないエクソシストは多いのだろうが、
彼等の存在は貴重で、教団としても一人でも多くのエクソシストを仲間に引き入れようと必死なのだ。
だとしたら彼を見付けた私が、あの場で彼を教団に引っ張ってくるべきだったということになる。
やってしまった。
彼の力を見れば一目瞭然だったが、彼の存在は間違いなく教団に必要だった。
そんな彼を私はあの場に置き去りにしてしまったのだ。私の失態であることは間違いない。
今からあの町に戻っても彼はもういないかもしれないし、もうどこか遠くへ行ってしまったかもしれない。
貴重なエクソシストを見付けたにも関わらず、彼を見逃してしまったことはコムイさんに報告すべきだろう。
一人頭を抱えて呻き始めた私を見て、事を察したリナリーが優しく笑った。
「リナリーどうしよう、折角新しいエクソシストを見付けたのに私、彼を置き去りにして来ちゃった…」
「大丈夫よ、。あの町から教団までそんなに距離も無いし、もしかしたら此処に向かってたのかも。何日かすればひょっこり教団に現れるかもしれないわ」
*
リナリーの言葉通りそれから数日して、彼は教団に現れた。
門番の勘違いとコムイさんの所為で大変な目に合ってしまったけれど。
繋がる、日。
(アレンくん!あの町に置き去りにして本当にごめんっっっっっっ!!!!!!!)
(あはは、気にしないでください、また会えたんですから)
御題配布元様 /
美しい猫が終焉を告げる、
(20080726)
(20210418)修正