壁に寄りかかってゼェハァと乱れた息を整える。 ある程度落ち着いてきたところでキョロキョロと辺りを見回した。 誰もいない。 はあ、と一つ息を吐いて行儀が悪いと知りながらも床に腰を下ろした。 それにしても教団の廊下は長いものである。 この廊下を全力疾走してきたのだ、息も切れるはずだ。 その上自分は任務から帰ってきたばかりの身。 疲れ切った体を酷使して走ったのだ。 本当ならば帰還したらすぐにシャワーを浴びて眠りに就く予定だったのにとんでもない。 休むどころか引き続き運動中だ。 それもこれも全部…!


ー!どこですー!?」
「ギャア!」


聞こえた声に思わず反射的に立ち上がれば、自分を呼ぶ声が近付いてくるのがわかる。 逃げ切ったと思っていたのに何としぶといのだろう。 これ以上全力疾走したら本当に倒れてしまいそうだ。 それ程に疲れはピークに達していた。 おのれ、アレン・ウォーカー…!!! 何故だか知らないが顔を合わせる度に彼は私の傍に近寄ってくるのだ。 否、近寄ってくるなんてレベルではない。 会う度どころかいつでもどこでもできる限り、私に引っ付いて来るのだ。 あれはもうストーカーレベルだと思う…確実に友達の域を越えている。 追い掛けられるとつい反射的に逃げてしまい、もちろんそうするとアレンは追いかけてくるわけで。 日々追いかけっこのようなことが続いている。 正直、勘弁して欲しい。 今後も続くようならきっと身が持たないだろう。 そんなことを思い一人頭を抱えていると、いつのまにか傍に立っていた影。


「見つけましたよ、
「げ…っ!来ないで!!!」
「もう、どうして逃げるんです?そんなに照れることないのに」
「照れてない!!!」


必死に全力否定をしても当のアレンはあっけらかんと笑っているだけだ。 疲れ切った体を無理やり動かして、アレンから逃げるために再び地を蹴る。 『待って下さいよ、〜?!』 なんて声が後ろから聞こえ…いや、何も聞こえなかったけれど(そういうことにしておこう)、 私は自分の部屋を目指してアレンの元から逃げ去った。











自分の部屋に着くなり、バタンとドアを閉めて鍵を掛ける。 これでもうヤツは私に近付けまい! ああ、やっと終わった。逃げ切った…! アレンから逃げ切った自分に心の中で拍手して、部屋の中へと足を踏み入れる。 疲れた! 私は伸びをしてから思い切りベッドにダイブした―――― 否、するつもりだったのにそこには既に先客がいた。


遅いです、僕もう待ちくたびれちゃいましたよー」
「ア、ア、ア、アレン、何でここに…!」
「何でって、女のが男の僕の体力に敵うと思ってるんですか?」
「そっ、それはそうだけど…私の部屋までの廊下にはいなかったのに…!一体どこを通って来たの!?」
の部屋への近道なんて、いくらでも知ってますよ」


満面の笑みを浮かべてアレンはとんでもないことを口にした。 ち、近道とは一体…? 広い教団ともなれば私の知らない通路がまだあるのかもしれない。 そう思うことにしよう。


「あーもう!何でもいいから早く出てって!!!」
「どうしてです?」
「どうしてってそんなの、アレンがいたら休めないでしょ!私は一刻も早くゆっくり休みたいの!眠りたいの!」
「別に僕と一緒に休めば問題無いでしょう?」
「どこが?!問題アリでしょ、大アリでしょ!?」


そう突っ込む私に一見人の良さそうな笑みを浮かべつつも、一向に部屋から出ていく様子を見せないアレン。 だ、ダメだこの人…話が通じない…! 盛大な溜息をついて頭を抱える。 どうしよう、アレンが出ていかないなら私自身が出ていくしかないじゃない。 そうだ、リナリーにベッドを借りよう。 彼女には今日は任務は無いはずだから、きっと教団内のどこかにいるはずだ。 リナリーを探して頼もう、そうしよう。


、ほら、疲れてるなら早く僕と一緒に休みましょう」
「いいえ、結構です」
「え、あ、ちょっとどこ行くんです?!」


リナリーを探すため私はアレンの言葉を軽く流し、彼に背を向けてから先程入ってきたばかりのドアへと歩みを進める。 アレンはてっきり私が観念して自分とベッドに横になると思っていたのだろう。 私の行動に驚いてベッドから腰を下ろし、後を付けてきた。


「ちょ、ちょっと何でついてくるの!?」
が僕を置いていこうとするからですよ」
「だってアレンが部屋にいると休めないから…」
「だから別に遠慮しなくてもいいってさっきから言って―――」
「はいはい、そうですねー」


呆れかえった私はアレンの言葉を途中で遮り、顔を見ることもせずに彼を軽くあしらえば、 背後から黒いオーラを感じて寒気を感じた。 あれ、もしかして状況悪化した? 恐る恐る振り返ると。


「そうですか、また僕から逃げる気ですか。いいですよ、がそうするなら僕はどこまでも貴女を追いかけるまでです」


怖い程に満面の笑みを浮かべたアレンは私にそう告げる。 そうなってしまえば私がすべきことなど一つしかない。ああ、私はいつになったら休めるのだろう。


脱走エブリデイ
(だから追いかけて来ないでってば!!!)(だったらいい加減観念して僕のものになって下さい)(絶対嫌!)


御題配布元 / 美しい猫が終焉を告げる、
(20080429)
(20210418)修正

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