「さん」
食堂で一人昼食をとっていた時、ひょっこりと自分の前に顔を出したのはウォーカーさんだった。
思わず食べ物を頬張っていた口を動かすのを止めて目を合わせれば、彼は微笑んだ。
「此処、座ってもいいですか?」
「あ、はい」
此処と彼が言ったのは私の向かいの席だった。
一人で食事をしていた上に彼の問いかけを断る理由のない私がそう返事をすると、
彼は嬉しそうに笑ってイスを引く。
だが腰を下ろすなりテーブルに頬杖をつき、ただひたすらに視線を送ってくるだけのウォーカーさんに私は首を傾げた。
「あの…何か食べないんですか?」
「ええ、食事は先程済ませたばかりなんです」
それならば何故まだ食堂にいるのだろうか。
そんな疑問が浮かんだけれど満面の笑みを浮かべる彼の表情を見たら、そんな疑問も吹っ飛んだ。
「あの、僕前から思ってたんですけど」
彼が話を切り出してきたため、フォークを進めていた私はそれを止めて、彼の話に耳を傾ける。
口の中にはまだ食べ物が残っていたので、咀嚼は続けていたけれど。
「どうしてさんは、此処にいるんですか?」
「此処って…食堂のことですか?」
やっと食べ物を飲み込み終えた口で私がそう返せば、
ウォーカーさんは一瞬呆気に取られた表情を浮かべてから、違いますよと苦笑した。
「そうではなくて、黒の教団にってことです」
その理由を聞かれたことは今までにも何度かあった。
私の様な若い女がこんなところにいるのが、皆不思議らしい。
でもそんなことを言われても自分と同じ探索部隊でなくとも、
エクソシストにだって年の頃合いも近いリナリーがいるのだから、別に不思議ではないと思うんだけどなあ。
とはいえ私には探索部隊になった列記とした理由があるから、いつもその問いに困ることは無いけれど。
「昔エクソシストに助けてもらったことがあるんです」
「昔、ですか?」
「はい、まだ幼かった頃のことです」
私と同じような理由で黒の教団に入った人は、結構いるのではなかろうか。
ありきたりな理由だと思われるかもしれないけれど、本当のことだから。
「だから助けてもらった命で役に立ちたいなと思ったんです」
私がそう言えば、ウォーカーさんはそうだったんですかと微笑んだ。
此処に入団してから知ったことだったけれど、
幼い頃の私を助けてくれたエクソシストはクロス元帥だった。
元帥の写真を見せてもらったとき、見覚えがあったためにわかったことだった。
その時一緒にいた少年のことを私はしばらく忘れていたけれど、
私が入団した数年後にウォーカーさんが入団してきて、
彼が元帥の弟子だと知ってから私は彼のことを思い出し、
更にはあの少年がウォーカーさんだったことを知った。
きっと彼自身も昔私達が過去に出会っていたことなんて、気付いていないかもしくは忘れているだろう。
私と同じように彼もまだ幼かったから。
「あ、僕この後任務があるのでそろそろ行きますね」
一人そんなことを考えていると、思い出したようにそう言ってからアレンが席を立つ。
そして彼が立ち去ろうとした時、既に背けていた背を返してからこう言った。
「今度は僕が貴方を守りますから」
彼のその言葉に私が目を瞬かせると、満足そうにウォーカーさんは笑って『それでは』と言い残して去って行ってしまった。
「……覚えてたなら、もっと早く言ってくれれば良かったのに」
こんなの不意打ちだ。てっきり気付いていないとばかり思っていた。
ウォーカーさんが私達の出会いを覚えていただけでも驚きなのに、
その上『僕が貴方を守る』なんて告白みたいな言葉を残していくなんて。
私も負けていられないかもしれない。
少しでもエクソシスト達の、ウォーカーさんの。
役に立てるように頑張ろう。
私はそう意気込んでから残っていた食事に手をつけた。
少しでもお役に立てたらと
御題配布元様 :
こちら
(20080321)
(20210418)修正