石田ヤマト
「ヤマトってポッキーゲームやったことある?」
自室でくつろぎながら雑誌を読んでいたヤマトは、
自分の近くでテレビを見ながらお菓子を食べていたからの問いに、読んでいた雑誌から顔を上げた。
「ポッキーゲーム?何だよ急に」
そう言ってからヤマトがの手元に目をやれば、
今まさに話題に上ったばかりのチョコ菓子に彼女が齧り付くところだった。
「そう言えばもう11月だし、ちょうど去年の今頃サークルでポッキーゲームやったなーって思って」
テレビ画面を見つめたままさらりとそう言い放ったの言葉に、ヤマトは呆気に取られてしまう。
「え…や、やったのか?」
「うん、サークルの面子とね、トランプで負けちゃってその罰ゲームで」
「罰ゲームって…まさかとは思うけど…男相手じゃないよな?」
いやいやそんなわけがあるはずはないとヤマトは心の中で必死に否定しながらも、
の彼氏として真実を確かめなければならないという使命感に駆られ、恐る恐る彼女に問い掛ける。
「え?男相手だけど?」
「はあ???!!!」
ようやくテレビから視線を外しヤマトを見つめてそう言い放ったの瞳は、さも当たり前だと言いたげだった。
驚きのあまり大声を上げた彼の様子に、彼女は目を丸くする。
「だって同性同士でやるのおかしいでしょ」
「いやいや!異性とやる方がおかしいだろ?!」
「えー…ポッキーゲームってそもそもそういうものだと思うんだけど…」
「いや待て、それは俺も分かってはいるけど論点はそこじゃないだろ…」
ポッキーゲームというものは、異性と行なうからこそ盛り上がるゲームであることをもちろんヤマトは知っている。
だが問題はそこではない。
問題は彼氏持ちの女が彼氏以外の男とポッキーゲームをするということである。
そのことに気が付いていないにヤマトは心の底から絶句した。
『俺は一体お前の何なんだ?!』と叫びたい気持ちを押さえつつ、彼は必死で平静を装う。
「じゃ、じゃあ百歩譲ってそこは良いとして、まさかとは思うがさすがに最後までは…してないよな?」
「最後までって…チューのこと?」
返答を待つヤマトの喉がごくりとなる。
「さすがに最後まではしてないよ〜、だって彼氏がいるのにそんなことするわけ無いでしょ」
「そそそそそ、そうだよな…!なら良いんだ!それなら…いいんだ…」
「っていうか最後までやるも何も、途中で相手の後輩の男の子が真っ赤になっちゃって」
「…」
「だからどっちにしろ、やりたくても最後まで出来る状態じゃなかったんだよね」
彼氏の存在はしっかり頭にあったらしいの言葉にヤマトが安堵したのも束の間、
とんでもない言葉がヤマトの耳に飛び込んできて、彼はしばし考え込んだ。
「…うん?ちょっと待て、は最後までやりたかったのか…?」
「やりたかったわけじゃないけど、ただの罰ゲームだし、もしそうなっても面白かったかなって思いはしたかな」
「え、お、おい、、ちょっと待て、待て待て待て、待てよ」
「真っ赤になっちゃって可愛かったからもうちょっとからかいたかったんだけどねー」
そう言ってまたテレビに向き直ってしまったの残念そうな表情に、ヤマトは開いた口がふさがらない。
たまたま相手が純粋な後輩の男だったがゆえにキスまで到達しなかったとはいえ、
もしゲームの相手が年上の肉食男子だったとしたら、彼女は完全に食われていたのではなかろうか。
自分の心配や焦りのことなど気付いてもいなさそうな彼女の無防備さに、
ヤマトは大きく頭を抱えたのだった。
(20201111)