開いた窓から穏やかな風が舞いこんで、 目の前に座る彼女の髪をなびかせた。 彼女の髪の香りが僕の鼻腔をくすぐる。 仮にも今は授業中だというのに、良い香りだ、なんて思ってしまう僕は変態だろうか。 退屈な授業だから仕方ないだろうと、都合の良いように理由を付けて自分を正当化する。 授業が退屈なのだ。 ただひたすらに黒板を白いチョークで埋めていく教師にはうんざりしてしまう。 暇潰しにクルクルとシャーペンを回してみる。 頬杖をついてそれを繰り返した。


「(暇だなあ・・・)」


ましてや昼食後の授業である。 お決まりの眠気が襲ってきて、今にも瞼を下ろしてしまいそうだった。 自分の好きな授業ならば、まだきっと集中力も続いていただろうし、 睡魔に襲われることもなかっただろう。 しかしながらこの授業は苦手科目である上に今日は特に退屈で、いつにも増して眠気が強かった。


「(気を抜いたら寝ちゃいそうだよ)」


心の中でそんなことを思いながら、何度目かの欠伸を噛み殺した。 授業中にクラスメイトの様子を観察できるのは、 後ろの席の特権である。 幸運にも僕は窓際の一番後ろという特等席に座っていた。 その特権を使って、僕はちらりと教室中を見渡した。 睡魔に負けて完全に机に伏してしまっている人や、 現実と夢のはざまを行ったり来たりしている人も見受けられる。 眠いのは皆同じらしい。 教室内のその雰囲気に 思わず笑ってしまいそうになるのを堪えて、僕は再び黒板に目を移した。 相変わらず黒板を埋めることに必死になっている担当教師は、そこに健在していた。 ふう、と誰にも聞こえないように小さく息をついて僕は窓の外に目をやる。 校庭では体育の授業をやっているらしく、 楽しそうにサッカーをしている男子達の姿が見えた。


「(体育か…いいな、)」


ふと前に座る彼女に視線を戻した時、 その彼女であるさんも、先程の僕と同じように窓の外を見つめていることに気が付いた。 彼女は校庭の様子を見ていたわけではなく、空を見上げているようだった。 その視線を追って、僕も空を見上げる。 窓から見上げた空は澄んだ青色で、雲一つない快晴だった。 こんな日に外でスポーツをすれば、どれほど気持ちが良いだろうか。 再び前に座るさんに視線を戻せば、彼女はまだ空を見上げていた。 もしかしたら空が好きなのかもしれない、 視界を埋め尽くしているであろう青色を彼女は眩しそうに見つめていた。


「(…うわ、っと)」


さんのその表情に見とれていた時、 穏やかな風が再び僕の頬を撫で上げた。 同じようにさんの方にも風は舞い込んできたようで、 彼女の髪がふわりと揺れる。 気付けばこの授業中、僕が考えているのは彼女のことばかりだった。 授業中に僕は一体何を考えているのだろうか。 不謹慎な自分に一つ苦笑を零して顔を上げた時、 空を見上げていたはずのさんが僕の視線に気付いたらしく、顔を半分僕の方に向けて口を開いた。


「暇、だね」


驚いている僕と目が合うと、さんは小さく笑った。 一瞬呆気にとられた僕が慌てて「そうだね」と笑顔を返せば、 彼女はもう一度微笑んでから前に向き直った。彼女の笑顔が僕の胸を高鳴らせる。 前から笑顔の素敵な人だとは思っていたけれど、 その笑顔を間近で見たのは今が初めてだった。 胸の高鳴りを隠しきれないまま教室内の時計を見やれば、 まもなく授業終了のチャイムが鳴り響きそうだった。 暇だ、退屈だと思っていたはずの一時間が今となってはあっという間に感じられる。 ずっと彼女のことばかり考えていたことはもう否めなかった。 この授業が終わったら彼女に話しかけて見ようか、 僕がそんなことを思ったのはこれが恋の始まりというやつなのかもしれない、そう思ったからだ。


キラキラデイズ
(キラキラ輝く未来でありますように)


御題配布元様 : 宇宙のはじっこ
(20080601)
(20200928)修正

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