「あれ、こんなとこに置いといたっけ?」


雑誌の棚を整理していた時、ふと目についたそれに思わず驚きの声を上げる。 どこかにしまい込んでしまったと思っていたが、 予想外の場所にあったことに驚きながらも、懐かしさの詰まった幼い頃のアルバムを手に取った。 表紙を捲りながら感じるアルバムのその重みが心地良い。 ずっしりと重いそれは、その重さの分だけ思い出が詰まっているように感じられた。


「なに見てんの?」
「小さい頃のアルバム、気付かなかったけどここに置いてたみたい」
「小さい頃の?」
「うん、だから懐かしくてちょっと見てみようかなと思って」
「へえ、それは俺も見たい」


背後から肩越しに手元を覗き込んでくる憲男を振り向くことはせず、声だけを彼に返せば、 興味深げな声を上げて彼は自分の隣へと腰を下ろした。


「小さい頃って、もしかして俺も写ってたりとかして」
「あ、そうかも。ちょっと待って見てみるから…えーっと」


ペラペラとページを捲り始める私の横で、 まるで餌を待つ子犬のように憲男が待ち遠しそうな表情を浮かべている。 そうかも、どころか絶対に憲男と写っている写真がこのアルバムの中にはあるはずだ。 彼とは幼馴染でいつも一緒にいたのだから彼と一緒に撮った写真が無いわけがない。 5、6ページ捲ったところで楽しそうに笑っている子供2人の写真を見つけ、思わず笑みが零れる。 幼稚園の頃のものだろうか、無邪気に笑っている自分の姿に懐かしさが込み上げた。 自分の隣に立ち、自分と同じ楽しそうな笑みを浮かべている少年は紛れもない憲男で、既に今の面影をたたえていた。


「お!これじゃね?俺チョー若いんですけど!」


飛び込む様に身を乗り出しアルバムを覗き込んできた憲男は、 私がそれを告げるより先にその写真の存在に気が付いたようで、嬉しそうに目を細めた。


「これっていつのだっけ?」
「多分幼稚園の時のじゃないかな?」
「あーそうかもしんねーなー、ちょっとこの時のこと、覚えあるな俺。これん家だよな?」
「そうそう!うちに憲男が来て、一緒におやつ食べたりしたんだよ確か!」
「それだ!そんなこともあったなー…」


懐かしそうに笑いながら写真を眺める憲男の横顔に、自分の胸が温かくなる。 幼かったこの頃は高校生になった今でも、こんな風に幼馴染同士、二人笑い合っているなんて予想もできなかったし、 先の未来のことまで考えてはいなかっただろう。 だからこそ今この瞬間、未来の今になっても未だに憲男の笑顔を傍で見ていられることは奇跡にすら感じられる。


「なんかさ、」
「うん?」
「今でもこんな風に二人一緒にいることが凄いと思わない?」


私の手の中にあったアルバムをいつのまにか自分の手に持ちページを捲っている憲男にそう尋ねれば、 その手が次のページを指先に摘まんだまま停止する。 思わず『どうしたの?』と問えば、顔を上げた憲男と目が合った。


「なんで?」
「なんで、って…なにが?」
「今俺たちがまだ一緒にいることが凄いことだって、さっき言ったじゃん。そのことだよ」
「憲男は…そうは思わないってこと?」


どうやら彼は私とは考えが違うらしい。 昔は深く考えず、幼馴染と言う関係上、好きも嫌いも関係なく、なりゆきでよく遊んでいたのが現実だ。 だが今はその当時とは違う。 お互い大人になり、異性を意識する年になり、高校生ともなれば初恋だってお互い経験済みだろう。 例え幼馴染と言う昔馴染みの関係が二人の間に存在しても、 それが大人になった後の二人を繋ぐものになるとは限らない。 幼馴染だからと言って二人が恋人になり、将来夫婦になるとは限らない。 だからこそ別に今の憲男との関係が恋人という関係ではなくとも、 あの頃から未だに幼馴染として彼の隣にいるということが凄いと私は思ったのに。 彼はそうではないと言う。嬉しい、凄いという感情は私だけの独り善がりだったらしい。


「ちょ、ちょっと待てよ、なんで泣きそうになっちゃってんの?!」
「だって憲男が凄いとは思わないって言うから、寂しいなって思って悲しくなったんだもん!」
「確かにすげーとは思わないけどそれは昔からそうなるって思ってたからで、別にが泣くようなことは何もねーよ!」


私の両肩を掴んで必死にそう訴えた憲男の顔を見つめてぽかんとする。 それって…高校生になっても私達が一緒にいるって、昔から予想してたってこと?


「な、なんだ、そういうことね…」
「もしかして変な勘違いしてたんじゃないのー?まったくもー、困ったちゃんだねーちゃんは!」
「憲男がややこしい事言うからでしょ!」
「俺はね、今でも俺達が一緒にいるのは運命だって思ってんの」
「…えっ」
「昔からそう思ってたんだよ、ずっと一緒にいるはずだって。 だから別に全然すげーことじゃねーの!運命なんだって!」


その言葉に驚いて再びぽかんとした私に、 少し頬を染めた憲男は『だからお前が泣く必要ないんだって!』と力説した。 驚いて言葉もなく黙っていた私はよく考えたらこれって物凄い告白なのではないかということに気が付くと、 一瞬にして顔が熱くなってしまった。


「…それって熱烈な告白?」
「っ、ば…!ちげーよ!」
「ちがうの?」
「っっっ、ま、ぁ、違わねーけど、さぁ…」


私の肩に両手を置いたまま、憲男は俯いてしまった。 我に返って自分の言葉の真の意味に気が付いたのだろう、 恥ずかしくなってしまったのか中々顔を上げようとしない。 そんな彼の様子に思わず笑みが零れてしまう。 運命、そう言ったからにはこれから先の未来も私に付き合ってもらおうじゃないか。


「ねえ、憲男」
「…なに、」
「これからも一緒にいてくれる?」


ゆっくりと顔を上げた憲男の視線は気恥ずかしそうに私に向けられている。 答えを待っていると、何かを決意したかのように彼は唇を噛み締め、やけくそとばかりに叫んだ。


「あったりまえ!いやだっつっても、一生傍にいてやるからな!」


思い出は美しいから
(きみとのものだからこそ、この先もずっと)


御題配布元様 : オーヴァードライヴ
(20080810)
(20210221)修正

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