昇降口で下履きに履き替え、外に出る。 視界に入る空は暗い。 憂鬱な気分を呼び起こすその色に 思わず眉間に皺が寄った。 見上げた先にはどんよりと淀む大きな雲。 『一雨来そうだなあ』 心の中でそう呟いて校門へと足を進める。 ふと前方を見つめながら足を進めていくと、 校門のすぐ外が何だか騒がしい。


「何だろう?」


校門を数歩出たところで、壁に寄りかかる人物の姿を目にして思わず立ち止まる。 何でここにいるの?そんな疑問が頭に浮かぶと共に、 自分の存在に気づいた彼がいつもの笑顔と共に近付いてくる。


「ちーっす、やっと来たな!」
「憲男?な、何でここに?」
「何でってそんなの、ちゃんに会いに来たに決まってるじゃないの!」


思わずこちらが恥ずかしくなるようなことをいつものノリのまま大声で口にして、 憲男は最後に『俺ってば優しいね〜』などと付け加えた。 いや、嬉しいんだけど。 確かに凄く嬉しいんだけど、ね。


「ちょ、ちょっと、ここをどこだと思ってんの、もう!」
「どこ、って桜木女子高?」
「そんなことわかってるってば!私の学校なんだから!」
「やだなー、じゃあ何で聞いたの?」
「私が言いたいのは、こんな公衆の面前でそんな恥ずかしい事を大声で言わないでって言ってるの!皆が見てるから!」


掴みかかる勢いで彼に近付きそう伝えれば、 当の本人は何か問題でもあるのかと言わんばかりの表情を浮かべている。 そうだ、そうだった。 憲男は頭は良いのにそういうことには疎いんだった。 麻子や響子がこの場にいなくて良かった。 いたら絶対に『ラブラブね!』などとからかわれていただろう、危ない危ない。 大袈裟に一つ溜め息をついてから、ウンザリした顔で彼の腕を取った。


「はあ、もういいよ…帰ろう?送ってくれるんでしょ?」
「もち!私が責任を持ってお送り致しましょう」
「…はいはい」


俺に任せとけ!と言わんばかりに親指を立てて見せた憲男はもう、 いつのまにかいつものノリに戻っている。 本当に元気だなあ…。 彼のテンションの高さにはいつも驚かされるけれど、 幼馴染である以上、そんな彼のテンションにももう慣れてしまっていた。 ポケットに手を突っ込んで歩き始めた彼の背を追う。


「うっわ、やべ、雨かよ」


歩き出して数分も経たないうちに、ぽつぽつと雨が降り始める。 見上げた空は先程よりも淀んでいて、もしかしたら大雨が来るかもしれないなどとそんな考えが頭を過ぎる。 本降りになる前にと常備している折り畳み傘を通学鞄から取り出して、私はそれを勢いよく広げた。 そんな私とは反対に隣を歩く憲男は何も変わらない。


「あれ、憲男、傘持ってないの?」
「おー、だから入れて?」
「やっぱりね、はいどうぞ」


彼の方へ傘を傾ければ、待ってましたとばかりに隣に入り込んでくる憲男に思わず苦笑を零す。 相変わらず世話の焼ける男だ。 お互い小さかった昔もこんな風によく一緒に傘に入ったりしたなあ、 そんな懐かしい思い出が脳裏に浮かんできて思わず胸が温かくなる。


「昔もよくこうやって二人で傘入って学校から帰ったりしたよね」
「お、良く覚えてんねー、俺も覚えてるけど」
「いつも私が憲男を入れてあげてたよね」
と相々傘したくてさー俺いっつもわざと傘忘れてたんだよなー…超懐かしいんだけど!」
「もしかして…今日もそのつもりでわざわざ私のこと迎えに来たの?」
「あっれ、バレちった?」


そう言って憲男が笑う。 彼のその悪戯な笑顔が、その言葉が真実なのか嘘なのかを曖昧にしているけれど、 もしそれが本当のことならば昔の思い出を彼が自分と同じように覚えていてくれたことが嬉しいし、 もしそうでなかったとしても、彼がわざわざ自分に会いに来てくれたことは嬉しかった。


「でももう高校生になったんだから、いい加減傘ぐらい自分で持てば?」
「いいんだよ、いつもはチャリだから雨降っても飛ばして帰ればそこまで濡れねえし、別に困んねーの」
「そんなこと言って…風邪引いたらおじさんが心配するでしょ」
「そんなに言うんだったらさー、雨の日はがうちの高校まで迎えに来てくれればいいんじゃね?」
「大して近くもないんだから冗談言わないでよ、それこそ勘九郎と相々傘でもして帰ればいいじゃない」
「進藤ちゃんと!?そ、それはちょっと…」


実際にそれを想像して青褪めた憲男に思わず吹き出せば、 いつの間にか雨が上がった空には虹が掛かり、鮮やかな光が傘の中の二人を照らし始めていた。


色の天の


御題配布元様 : pulmo
(20080807)
(20210220)修正

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