目の前で雑誌を読んでいる憲男の瞳を、じっと見つめて覗き込む。
別に彼に用事があるわけではないのだけれど、
少しばかり気になることがあって今、私はそうしている。
あまりにも熱烈な視線を送っていたからだろうか、
そんな私の様子に気付くなり彼は驚いたように目を瞬かせて、読んでいた雑誌から視線を上げた。
「さっきからものすごい視線を感じんだけど・・・どったの?」
「んー・・・」
不思議そうに首を傾げる彼を他所に私は唸り声を一つ上げて、
相も変わらず憲男の瞳を見つめていた。
すると彼は突然何かを思いついたかのようにはっとした。
「なになに、もしかして俺の顔に何か付いてる?」
持っていた雑誌を膝の上に置いて、片手で自分の頬を憲男が触った。
いや、何も付いてないんだけど、いつも通り格好良いんだけど。
私が言いたいのはそんなことじゃないわけで。
そもそも私が見ていたのは、彼の顔全体ではない。
もっと部分的な場所だったのだ。
「目」
「へ?」
「だから、目」
きょとんと見つめ返してくる憲男は、訳が分からないとばかりに目を丸くしている。
それはそうだ。
急に『目』という単語だけを言われても何がなんだかわかるはずがない。
恐らく彼が予想出来るのは自分の目がどうかしたのだろうか、それぐらいだろう。
「俺の目がなに?」
「綺麗だなって」
「は?」
「だから、綺麗な色だなあって思って」
ますます目を丸くしてきょとんとする憲男が可愛くて、なんだか笑みが零れてしまう。
『ちょっと、何笑ってんの』
と喝を入れられたけれど、憲男は男にしては可愛い方だと思う。
何だろう、男臭さが無いって言うか、なんていうか。
列記とした男なんだけど・・・(えっちだし)
なんていうか、うん。
まあ今はそれは置いておいて。
「綺麗って言われても、俺外人でもねーから、
別に目だって青かったり緑だったりもしないし何でもないと思うんだけど…どういうことよ?」
理解できないという風に眉をちょっと寄せて首を傾げる憲男の言う通り、
彼は純粋な日本人で、ハーフでも何でもなくて、日本人らしい目の色をしているのだけど、
それが本当にそれらしくて綺麗なのだ。
魅力的かつ綺麗で、吸い込まれる様な色をしているのだ。
そう伝えれば憲男は『ふーん』と納得したのか何だかわからないような何とも言えない返事をして、
とりあえず引き下がった。
「でも俺、の瞳の方が綺麗な色してると思うけど」
「…そう?」
「日本人らしい真っ黒な目してんじゃん」
「まあ確かにそうだけど…よく知ってるね、憲男」
そう言い終えると憲男は膝の上に乗せていた雑誌を床に置いて、私の目の前に移動してきた。
何かを企んでいるかのような楽し気な笑みを浮かべている。
「のことで俺が知らないことなんてあると思う?」
「それは普通にあるでしょ」
「…ふーん?」
「何よ」
私のその反応に何故だかニヤニヤとした怪しげな笑みを浮かべている憲男に、怪訝な視線を送る。
何よ、もう一度そう言おうとした瞬間、
彼にぐいと強く腕を引かれて一気に距離が近くなる。
見上げた先には彼の楽しそうな瞳があって、彼のそれと私のそれはすぐにぶつかってしまった。
「じゃあ、全部教えてよ」
すぐに唇が重なる。
前言撤回。
憲男が男臭くないって言ったのは誰だった。
ああ、それは私か。
やっぱりきれいなのは、彼のひとみだけなのかもしれない。
きれいなひとみしてるのね
御題配布元様 :
pulmo
(20080723)
(20210220)修正