ラビが任務に出かけてから2週間が経っていた。
出発する前、今回の任務はどの程度掛かりそうなのか彼に尋ねたとき、
「多分一週間くらいだと思うさ」
そう言われたというのに、予定よりも更に一週間が過ぎている。
一日二日の遅れなら日常茶飯時のことであるが、
一週間も予定期間が延びているとなると、さすがに心配になってくる。
自分のデスクに頬杖をついて溜息を吐きながら、彼の安否を思う。
もしものことがあったら――――
彼に限ってそんなことはないと思うし、
そう信じてはいるのだけれど、それでも心配で心配で仕方がない。
科学班である私は、危険な仕事をしている彼を見守ることしかできない。
彼が任務に行く時にはその背を見送って、無事帰還出来た暁には出迎える。
それも科学班の多忙さゆえ、毎回欠かさず出来るわけではないけれど、
出来る限りはそうしたいと思っている。
「」
休憩時間に託けてラビの身を案じていたは、不意に自分の上司に名を呼ばれて振り返った。
「あ、リーバー班長。お疲れ様です」
「おう、お疲れ。お前、今日はもう休んでいいぞ」
「え?で、でも、まだ皆仕事してますし…」
突然の言葉に驚いてそう返せば、リーバーは苦笑した。
「ラビのこと心配なんだろ?」
図星を刺されては思わず言葉に詰まった。
なるべく表情には出さないようにしていたつもりだったのに、
彼には気付かれていたらしい。
「それにココんとこ徹夜続きだし、そろそろゆっくり休まないとお前の身が持たないぞ?」
優しい笑顔と共にそう言われ、は苦笑を返した。
徹夜続きなのは自分も一緒のはずなのに、
こうやっていつも一番に部下のことを心配してくれる。
彼は仕事ができる上にこの人柄だから、皆から慕われているし、頼られているのだ。
自身も、すごく尊敬している。
「すみません、ではお言葉に甘えて」
「おう、また明日な」
おやすみ、笑顔と共にそう告げて、リーバーは自分の元を去って行った。
*
時刻は午前二時。
科学研究室を除いて、教団内は静まり返っている。
コツコツと自分の靴の音だけが響く廊下を歩き、自分の部屋へと向かう。
仕事場を出た後も、の頭の中はラビのことばかりだった。
「今日も帰って来られないのかな…」
誰もいない静かな廊下に、自分の言葉だけが小さく響いた。
自分の部屋に向かっていたはずの足は、気付けけばラビの部屋の前で止まっていて。
「ラビ」
彼を懐かしむ様に、彼の部屋のドアに触れる。
耳を澄ましても人の気配はない。
「はあ、早くお風呂入って寝よう」
そう自分に言い聞かせたはずなのに気付いた時にははその場にしゃがみこんでいた。
心配なのは、ビだけじゃない。
他のエクソシストの皆のことだって、もちろん心配だ。
だけど、ラビは。
誰よりも心配で、誰よりも失いたくない存在で。
今までこんなことがなかっただけに、もしもの可能性が大きく思えてしまうのだ。
「っ、」
いつのまにか溜まっていた涙が、一筋頬を伝った。
「?」
その時懐かしい声が聞こえて、は思わず俯いていた顔を上げた。
そこには心配していた彼の姿。
団服はボロボロで、傷だらけだけど、そこには確かにラビがいた。
「おいおい、こんな時間にこんなとこで何やってんの」
「ラビ、っ」
「おう、って、え、ちょ、何で泣いてんさ!」
慌てて駆け寄って来たラビは、が泣いていることに気づいて自分もしゃがみこんだ。
「ううう、良かった生きてて…」
涙で濡れた顔のままがそう呟いて、ラビは彼女の状態を察した。
それから苦笑して、の涙を親指で拭う。
「そんな泣くなよ、ちゃんと生きて戻ってきたんだからさ」
「だって、連絡もないし、全然帰ってこないからもしかしたらって…!」
「ごめん、ごめん」
もう、心配させないでよ、俯いたままそう呟いたにラビはもう一度苦笑して。
「なあ、」
「な、に?」
「ただいま」
傷だらけの顔でそれでもいつもと同じ笑顔をくれたラビに、は顔を上げるなり自分もできる限りの笑顔を返した。
「お帰りなさい」
どんなに遅くなっても、あなたが生きて帰ってきてくれさえすれば、それでいいからタイトル配布元
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