食堂でアレンと向かい合って昼食を取りながら、 一つ溜め息を吐く。 するとアレンは俺のそんな様子に気づいて、 いつも通り口の中を食い物で一杯にしたまま、もごもごと口を動かした。 汚ねえからやめろ、そう言いそうになる言葉を飲み込んで、 彼の言葉に耳を傾ける。 今この瞬間、哀れな自分を慰めてくれる相手は彼しかいないのだ。 彼の機嫌を損ねるような余計な事は言わない方がいい。


「どうして溜め息なんてついてるんです?ラビ」


アレンがそう尋ねてくると共に再び溜め息を吐いた。 なんで溜め息なんかついてるかって? 言わなくてもわかって欲しいんだけどなー、なんて思いながら 不思議そうに首を傾げるアレンに言葉を返す。


「何が楽しくて野郎二人で飯食わなきゃなんねーの…」
「は?それでため息ついてるんですか?こんなのいつものことでしょう?」
「そりゃそうだけど、今日は特別な日なんさ!」


泣きつくようにそう言うと、 口の中の食べ物をようやくすべて飲み込んだ様子のアレンが、 何かに気付いたように『あ、』と一言発してから俺に微笑んだ。


「そう言えば今日ラビの誕生日でしたよね?おめでとうございます」
「はははー、さんきゅー」
「あれ、折角の誕生日なのにあまり嬉しくなさそうですね?」
「いや、嬉しいんだけど、うん、なんかちょっと物足りないって言うか、なんていうか」


頬杖をついて再度溜め息をつけば、しばし考え込んだアレンがにやりと笑った。


「わかりました、折角の誕生日なのにがいないからでしょう?」
「はははははははは」
「図星ですね」
「なーんか、わかりきってること改めて言われると痛いさぁ〜」


そうなのだ。折角の誕生日なのに一番祝って欲しい人が傍にいない。 よりによって自分の誕生日に彼女に任務が入っているだなんて、 それを知った時は本当に絶望した。 コムイに泣きついて抗議したけれど、『お仕事なんだから仕方ないでしょー?ラビくん』 と軽く流された。おいおい、もしかして、わざとじゃねえだろうな。 コムイのそのテンションに殺意さえ覚えた。 それでも俺の誕生日の日には帰ってくる予定だと聞き、 それならば仕方ないかと渋々納得はしていた。 けれどやっぱり好きな人には一番に祝って欲しかったのが本音だ。 そんなことを考えながらもう何度目かわからない溜め息を吐くと、 向かいに座るアレンが突然腰を上げた。


「僕これから任務なんで行きますね」
「おーう、がんばれ〜」


力の抜けた言葉を返せば、今度はアレンが溜め息をついて憐れむような視線を送ってきた。


「そんなにがっかりしなくても、ならそろそろ帰ってくると思いますよ」
「…わかってるさ」
「だったらもう少し元気出したらどうです?見ていてカッコ悪いですよ」
「か、かっこわる…?!」
「それでは僕は行きますから、また」


言うだけ言って去って行ったアレンの背中に『それどういう意味さー?!』 と立ち上がって叫べば、完璧に俺の言葉を無視したアレンは平然と食堂から出て行ってしまった。 彼の背中が完全に見えなくなるのを見届けてから、 すとんと虚しく、自分の席に腰を下ろす。 唯一愚痴を吐ける相手だったアレンもいなくなってしまい、 暇を持て余すように目の前に置かれている飲みかけのコーヒーカップを回す。 早く帰ってこねーかな、。 願うはそればかりだった。 しばらくそうして食堂で暇を持て余していたが、 一向にが現れる気配がない。 余りにも待ち遠しすぎていても立ってもいられなくなり、 ついに席を立つことにした。 まさか自分がこんなにも自分の誕生日を気にするほど女々しかったとは。 そんな自分に思わず苦笑いを浮かべながら、食堂を後にする。


「(…俺、何してんだろ)」


気付けばいつの間にかの部屋へと足を進めていた。 彼女の部屋の前に辿りついたところで、ようやく我に返ってそんなことを思う。 俺がこんなにもが帰ってくるのを待ち遠しく思っていたと知ったら、 彼女は鬱陶しく感じるだろうか。 自分の彼氏がこんなにも女々しい人間だと知ったら、俺を嫌うだろうか。 それは困る。 さすがに部屋の前で待っているのはマズいと思い、 足早にこの場を立ち去ろうとしたとき、 廊下の向こう側から誰かが駆け寄ってくるのが見えた。 近付くにつれてその姿がはっきりしてくる。 ああ、あれは。


!」


息を切らした彼女が自分の目の前で立ち止まる。 驚いて彼女を見つめれば、彼女は息を整えながら困ったように笑って。


「ごめん、これでも急いで帰ってきたんだけど…遅くなっちゃったね」


申し訳なさそうにそう口にする彼女が愛おしい。 会いたかった、帰ってくるのが待ち遠しかった彼女が今、 自分の目の前にいる。 抑えきれない気持ちと喜びに押されて、思わずを抱きしめた。 突然のことに驚いて固まってしまうその姿さえ、愛おし過ぎて胸が熱くなる。 本当は祝いの言葉なんて、そんなに待ち遠しかった訳じゃない。 待ち遠しかったのは彼女の帰りだった。 本当はただ、一刻も早くに会いたかったのだ。


「ラビ?」
「え?あ、わり、俺…!」


我に返って抱きしめていたを開放しようとすると、 彼女は俺の服を掴んでそれを許そうとしなかった。 驚いて思わず彼女を見つめれば、照れくさそうに頬を染めたと目が合う。


「多分、一番には言えなかったと思うけど」
「うん?」
「誕生日、おめでとう」


その言葉で先程まで落ち込んでいたのが嘘みたいに心が満たされていく。 嬉し過ぎて幸せ過ぎて、今なら何でも出来そうな気がする。 落ち込んでいた分、尚更嬉しいのかもしれない。 頬を染めるの何と可愛らしいことか。


「それでね、あの、誕生日プレゼントなんだけど」
「ん?」
「まだ用意してなくて、だからラビに希望聞いてから買おうと思って…何か欲しいものある?」
「うーん…」


俺が欲しいもの。 いろいろ考えたけど、やっぱり一番欲しいものは一つしかなくて。 きっとが一番困るものだと思うけれど、 やっぱり俺が一番欲しいのは。


「あまり高いものは買えないけど…」
「いや、それなら心配ないさ」
「え?」


にっこりと微笑んでの手を取り、共に彼女の部屋へと足を踏み入れる。 驚く彼女を他所にその手を取り、壁に押し付けて至近距離で囁く。 その距離に再び頬を染めた彼女はもう、俺の望むものに気付いているかもしれない。


が欲しい」


彼女が真っ赤になるのと俺が彼女に口付けたのは、ほぼ同時だった。


いとおしい、きみ
(Happy Birthday Lavi !!!)


御題配布元様 : オーヴァードライヴ
(20080811)
(20210428)修正

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