瞼を上げたとき、もう既に窓からは日の光が差し込んでいた。 その眩しさから逃げるように、瞳はまた閉じられる。 気を抜いたらまた眠ってしまいそうだった。 覚醒しきらない頭でそんなことを考えながら何とか意識だけは保っていた。 確か今日はお昼過ぎから任務が入っていたはずだ。 パートナーは確か…誰だっただろうか、思い出せない。 まだ脳が覚醒していないのかもしれない。 一体今は何時なのだろう、枕元に置いてある時計へと手を伸ばそうとしたその時だった。


「あ、れ?」


体が動かないのである。 その上、心なしか体が重い。 思わずぴたりと動きを止めたとき、何かが自分の体に巻きついていることに気が付いた。 目線を下へとずらしていけば、 自分の腰に誰かの腕が巻きついている。 耳を澄ませてみれば、自分の背後からは規則正しい寝息すら聞こえてくる。 恐る恐る振り返ってみれば、視界に入ってくるオレンジ色の髪の毛。


「…ラビ」


脳内で確定された人物の名を口にしてみるが、 当の本人はすやすやと気持ち良さそうに眠り続けている。 部屋の鍵はしっかり閉めたはずなのに、一体どこから入ってきたのだろう。 怪訝そうな視線を向けても、彼の眠りが覚めることは無い。 それを見過ごして、とりあえずベッドから出ようと体を起こすことにした。


「抜けない…」


ラビの腕が腰にまわされている所為で、起き上がることができない。 腕を外そうとしても、一向に外れる気配がない。なぜだ。 不思議に思いながらも、1つの可能性を思いついた。 溜め息をついて、再び背後にいるラビに視線を戻す。


「…ラビ、起きてるんでしょ」


呆れた視線で彼を見やるが、彼の瞳が姿を現すことは無かった。 先程とは全く変わらず寝息を立て眠っているラビに対し、 私はもう一度溜め息をつくと、彼の頬へと手を伸ばしそのままそれを抓り上げた。


「いってェェェ!!!」


途端に叫び声を上げて跳ね起きるラビは、 勢いが良過ぎた所為でそのままベッドから落ちた。 ドシンという音が響いて、ラビの脚以外が私の視界から消える。 ベッドの上から下を覗き込めば、 頭を押さえながら『、ひでェさ〜』と涙目で見上げてくる彼の姿があった。 彼を見下ろしたまま、私は淡々と言葉を返す。


「狸寝入りなんかする方が悪いでしょ」
「だからって別に抓ることねーさ!」
「こうでもしないと起きないでしょ、ラビは!」
「別に起きなくてもいいじゃんか!」
「ラビは良くても、私はもう起きるの!起きたいの!」


不満気に口を尖らせたラビは、抓られた頬を擦りながらベッドへと上がってくる。 そのままベッドに腰かけるやいなや、胡坐をかいて座り込んだ。


「何で駄目なんさ?今日の任務お昼過ぎからだろ?」
「まあ、それはそうだけど」
「だったらいいじゃん、何でそんなに早く起きたがるんさ?まだ7時だぜ?任務までならたっぷり時間あんのに」


『7時』その言葉が耳に入ってきて、私はそこでようやく時計へと視線をやる。 確かにそれは、自分が思っていたよりも大分早い時間を示していた。 確かにこの時間ならまだまだ任務まで時間がある。 そう考えると途端に、抜けきらない疲れからか眠気が再び押し寄せてきた。 もう少し眠るのも悪くないかもしれない。


「じゃあもう少し眠ろうかな」
「おー!それがいいさ!」
「うん、だからラビは部屋から出て行ってくれない?」


途端にきょとん、としたラビが不思議そうに『何で?』と首を傾げた。


「何で、って、ラビがいたらさっきみたいに抱きつかれかねないから」
「えーいいじゃん別にー」
「良くない!あんなことされたら落ち着いて眠れないでしょ」
「えー」
「えー、じゃなくて早く出てって!」


私はそれだけ言ってベッドに潜り込んだ。 背後でラビが何か言ったり、唸っているけど気にしない。 一人でゆっくり休みたいのだ。誰に邪魔されることもなく、自分一人で。 しばらくの間、布団を被ったまま彼に背を向けていると、 いつのまにか唸っていたはずのラビの声が聞こえなくなっていた。 静かに部屋を出て行ってくれたのだろうか。 それを確認しようと布団から顔を出してしまったのがいけなかった。


「!!!う、わ!ちょ、ちょっと!!!」


布団から出た自分の視界を埋め尽くしたのはラビの顔だった。 体を引く間もなく、被っていた布団を剥ぎ取られて抱きつかれる。 もがけばもがくほど抱きついてくるラビの腕の力は強まって、 あっと言う間に彼の腕の中に納まってしまった。


「ラビの馬鹿!離して!っていうか部屋から出てったんじゃなかったの?」
「出て行くなんて一言も言ってない」
「なら、今からでも良いから出て行ってよ!」
「俺はこれからもっかいと寝るから、出ていかねー」
「勝手に決めないで!って、こら!変なとこ触るな!」
「んー、いい匂いするさ〜」
「人の話を聞けこのアホ兎!」


そんな叫びも虚しく、ラビは私を抱きしめたまま瞼を下ろしてしまった。 何と憎たらしい男だろうか。 目覚めたらもう一度抓ってやろうか、 そんなことを考えながら、渋々私も瞼を閉じた。 触れ合った背中からラビの体温が伝わって、思わずどきりと胸が跳ねる。 こんな状態で眠れだなんて、無理に決まってる。


「…ラビの馬鹿」


今日何度目か分からない溜め息をもう一度吐いて、 私が再び瞼を下ろせば、背後でラビが僅かに笑ったようなそんな気がした。


おはよう、
おやすみ、
ゆめのなか。



御題配布元様 / 美しい猫が終焉を告げる、
(20080731)
(20210428)修正

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