任務先での突然の雨。ぽつぽつと降っていた雨を頬を濡らした一筋によって気付き、 まずいかなと思った時にはもう遅かった。 豪雨が私とその前を行くラビ、探索部隊の面々を襲った。 急いで近くにあった建物に雨宿り場所を求めて走ったけれど、 そこに着いた時には団服も髪もびしょ濡れだった。 生憎建物の中に入ることはできなかったので、屋根のある場所で一先ず様子を見ることにした。


「派手にやられちまったさ〜」


団服の上着を脱ぎながらラビがそう言う。 そうだねと苦笑しながら相槌を返し、私も同じように上着を脱ぐ。 雨を吸って重くなった団服を両手で握って捻ってみれば、 大量の水が重力に沿って床へと流れ落ちた。


「うわ、すっげ」
「あはは、でもこんなに急に強雨になるとは思わなかったよ」
「夕立ちかもな」
「あー、確かにそうかも」


ラビの言葉を聞いて、どんよりとした空を見上げる。 つい先程まで晴れていたはずなのに、あまりにも突然過ぎる雨だった。 そのことから推測するとやっぱり夕立ちなのかもしれない。 『ちべてっ』と呟いてから舌を出し、ラビも空を見上げる。 灰色の雲を目にして憂鬱そうに眉が寄っていた。


「すぐ止むといいな」
「うん、夕立ちならきっとすぐ止むよ」


ラビの言葉に返事を返し、ポケットから出したハンカチで髪の毛の水気を取る。 私達から少し離れた場所で、探索部隊の人達も困ったように空を見上げていた。 彼等も同じようにびしょ濡れだったけれど、 フードを外しただけで、水気を吸った白いコートは着たままだった。 重いだろうし脱げばいいのに、などと思いながら髪の毛を拭き終えたハンカチを綺麗に畳む。 これでは皆風邪を引いてしまうかもしれない。


「なあ、それ俺にも貸して」


不意に聞こえた声に隣に視線をやる。 彼の言う『それ』とは私のハンカチのことである。 自分よりも少し高めの位置にある彼の髪の毛を見上げれば、 数分前の私の髪と同じように濡れていて、その先から雫を落としていた。


「これ?」
「うん、俺拭くもん何も持ってねーんさ。だから貸してくんね?」
「私が拭いたから濡れてるけど、それでも良いなら」


ラビは『サンキュ』と笑って私が差し出したハンカチを受け取る。 だがそれを受け取った瞬間に彼は一瞬思案顔になって、次の瞬間には何かを思いついたように口角を上げた。 何か嫌な予感。


「拭いてくんない?」
「は?」
「だから、に拭いて欲しいんさ」
「いやいや、自分で拭けるでしょ!」
「そりゃ拭けるけどさー、自分で拭いたんじゃつまんねぇさ」


私の嫌な予感は見事に的中したようだ。頬が一気に熱くなる。 第一、つまんねぇさ、とは何なのだ。 恋人同士でもないのにそんなことを『はい、わかりました』などと冷静に対応できるほど、 私はクールではない。


「ダメ?」


ここで嫌だと言い張れば、つまらなそうな顔をしながらもラビは引いてくれただろう。 けれど雨のせいで濡れた髪を下ろした彼の姿が色っぽくて。 自分を見上げて来る瞳にも思わずドキッとしてしまい、 真っ赤になった顔を隠すように顔を反らして一つ溜息を吐いた。


「…今日だけだからね」
「マジ!?やった!!大好きさ〜!!!」
「ちょ、ちょっと!調子に乗らないで!」


嬉しそうに抱きついてきたラビを引っぺがそうと奮闘していると、 ふと視界に入ってきた色。


「あ、」
「へ?……あ!」


いつの間にか雨が上がっていた空に架かる、それは。


R a i n b o w


(20080323)
(20210427)修正

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