談話室の一角で一冊の分厚い本を膝の上に広げ、彼女は本を読んでいる。
気付かれないように背後から忍び足で近付いたはずだったのに、それでも彼女は気付いたらしい。
くすくすと小さく笑って振り向いた。
「脅かすつもりだったの?ラビ」
エクソシストは人の気配には敏感である。彼女も例外ではないようだ。
驚くラビをよそに、は首だけを後ろに向けてそう尋ねた。
両手を顔の高さまで持ち上げて、ラビは降参のポーズを示す。
「んー、まあ、そんなとこさ」
「ふふ、じゃあ気付いてない振りしてた方がよかった?」
「最初からバレてたら意味なくね?」
バツの悪そうな表情を浮かべながら、ラビはの向かいのソファに腰を下ろした。は確かにそうだねと可笑しそうに笑う。
そんな彼女にラビも笑みを返してから、彼女が持っている本に視線を移した。
「何読んでるんさ?」
「あー、これ?小説よ、小説」
「小説?どんなジャンルの?」
「ファンタジーよ」
興味深そうなラビに、は持っていた本を少し持ち上げて表紙を彼に見せた。
ラビにとって空想の世界の物語など今までは興味の対象外だったが、
とりあえず本のタイトルだけは読み取って、ああなるほどねと肯いてみせた。
「ってそういうの好きだったん?」
「うーん、特に好きってわけじゃないんだけど、ね」
そこまで話して言葉を切ったの様子に、ラビは不思議そうに首を傾げた。
その様子に気づいたのか、は一度本を閉じてまた笑う。
「ほら、私達って戦争の中にいるでしょ?」
「まあな」
「だからね、こういう世界にちょっと憧れるなあって思って、読んでみようと思ったの」
こういうの現実逃避って言うのかなと口にしては苦笑する。そんなの姿を見て、ラビは彼女を見据え小さく笑みを返した。
「別にいいんじゃね?たまには息抜きも必要さ」
何言ってんさー、と冗談交じりに笑われるかと思っていたは、ラビの口から出た言葉に目を丸くした。
驚きを隠せずそのまま固まったままでいるを見て、ラビは笑う。
「どした?固まっちゃって」
「い、いや、何かラビらしくないなーって」
「へ?俺らしくないって何さ」
「え?ほら、あの、てっきり馬鹿にされると思ってたから、意外で」
膝の上に肘をのけて頬杖を付きながら、何さそれ、そう言ってまたラビが笑う。
「俺も読んでみよっかな、ファンタジー小説」
「え?ラ、ラビがファンタジー小説を…ぷっ」
「なっ!今笑ったさ?!」
「わ、笑ってない、笑ってない!」
が誤魔化すように手を振れば、ソファから立ち上がったラビはに近づいてくる。逃げるようにも立ち上がれば、ラビは面白がって更に彼女に近付いた。
「ぜってえ、笑った!」
「そ、そんなことないよ!まあ、確かに似合わなくて面白いなとは思ったけど」
「、それ笑ったって認めてるようなもんさ…」
ユーフォリア
(君さえいれば何だって、どんなにつらい現実だって、乗り越えて行けるような気がするんさ)
タイトル配布元 :
Vacant Vacancy
(20080210)
(20210425)