何の拷問だろうか。 腰を抱きこまれ、首筋を往復する鼻筋に肩が震える。 背後から聞こえる「なんといい香り」「たまりませんな」「生き返ります」 などという言葉を無視して、 平静を保とうと踏ん張るのもそろそろ限界かもしれない。 こんなはずではなかったのに、どうしてこんなことになったのだろう。

最初はいつもの如く「ぬしさまは今日もいい匂いでございますね」と小狐丸が近付いて来たことから始まった。 いつだったか、「ぬしさまからは本当にいい香りがいたします」 と言われ、首元で鼻をひくりとさせられたことがある。 突然のことに驚いて思わず飛び退けば「ぬしさまは首が弱いのですか?」と指摘されてしまった。 必死で否定するも 「違うのならそこまで逃げずとも良いではありませぬか、小狐のことがお嫌いなのですか?」 と今にも泣き出しそうな声を出されてしまった。 泣かれては困ると思い、咄嗟にそうではないと否定すれば 「ぬしさまをお慕いしているのです、、、多くは求めませぬ、 どうか日々の戦に励んでいる小狐めに、少しの褒美を頂けませぬか」 と懇願されるものだから、つい乗せられてしまい、それを許可してしまったのがいけなかった。 それ以来度々彼が部屋を訪れるようになった。 他の刀達には見付からないように場所を選んでいるところが、彼の狡賢いところである。 そして今日も例によって現れた彼に、ああまたか、ぐらいにしか思っていなかったのに、 今日はいつものそれがまさかエスカレートするとは思ってもみなかったのだ。

唇を噛みしめて震える吐息に気付かれるまいと懸命に我慢していると、 ふ、と気配が動いたかと思えばいつの間にか小狐丸が背後から顔を覗き込んでいた。


「ぬしさま、何故そのような顔をしておられるのです?」
「そ、そのようなって…別にいつもと同じだけど、」
「頬が桃色に染まって、とても愛らしい顔をしておられますが」
「っ…!そんなことない!!!」


頬が熱を持っていることなど指摘されずとも気付いている。 彼に見られまいと必死で顔を反らすと背後でくすりと笑う声がした。 逃げた顔を追い、小狐丸の長い指が輪郭をなぞる様に顎に添えられて 反射的に身を固くする。


「隠さずとも小狐しか見ておりません、さあもっとお見せください」
「やっ、やだっ」
「どうしてです?小狐のことがお嫌いになられたのですか?そうなのですか…?」
「そういう問題じゃなくて!」


爆発寸前の恥ずかしさから解放されたくて小狐丸から逃げようともがくも、 腰に回されていた腕にがっちりと押さえこまれ無意味に終わってしまう。 せめてもの抵抗に上半身を前に傾け、近付こうとする彼の鼻筋から遠ざかると、 腰に回されていたはず腕がいつのまにか自分の衣服に手を掛けていた。 何をされるのかと身を硬くすれば、襟元を後ろにぐっと引かれ、肌蹴た肌に柔らかいものが触れる。 可愛らしい音を立てて吸いつかれたかと思えば、生温い舌が筋を残す。


「こ、小狐丸っ…!も、やめて、っ」
「そう言われましても、小狐とてもう止まりません」


そう言うなり彼の昂ぶりを臀部に押しつけられてしまった。 身を引こうにも襟を引いた逆の手で腰を抱かれて逃げられない。 本当に嫌ならここで張り倒すなり、大声を出すなりすれば良かった。 ただ自分を愛おしげに見つめてくる小狐の瞳に熱情が浮かんでいるのを見た途端、 何かに縛られたかのように何もできなくなってしまった。


「ああ、ぬしさま…」


うっとりとした表情で形の良い唇を三日月型に歪めた彼の色気に充てられて、体中が熱くなる。 思わず息をのむとそれに気付いた小狐丸が耳元に唇を寄せてきた。 ふう、と軽く息を吹きかけられてびくりと体が強張る。


「この小狐に、どうか褒美を」


ゆらめきのゆるし


御題配布元様 / 誰花
(20201003)

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