どうして僕はさんよりも年下なんだろう。 それは今まで幾度となく思ってきたことだ。 あまりにも何度も何度も思ってきたことなので、正確には思い続けてきたと言った方が正しいかもしれない。 そのことについて考える度に溜息が出てしまう。 どれだけ思い悩んでも何も変わらないのだけれど、それでもつい考えてしまうのだ。 もう少しこの世に早く生まれて来ていたならば、僕はさんの特別になれたかもしれないと。


「はああああぁぁぁぁぁ」


盛大な溜息をついて項垂れる。 僕はさんが好きだ。 いつからかと聞かれてもわからないほどに昔から彼女が好きだった。 僕らの出会いはもう10年も前のことになる。 あの頃は僕もまだ本当に子供だったし、さんのことをそういう目では見ていなかったけれど、 気が付いたときには好きになってしまっていた。 それは10年前の『優しいお姉さん』として好きだった頃とは違う『好き』だった。 そうなってしまってからはもう、他の女の子のことはそういう対象としては見られなくなってしまったし、 異性から好意を寄せられることも多かった僕だけれど、 僕自身はずっとさんが好きだったからその度に彼女達の告白を断ってきた。 けれどそうする度に、もし自分が同じようにさんに告白して同じようにフラれてしまったら、 その女の子達と同じ気持ちになるんだろうかと思うと断るのを躊躇う時もあった。

男ならば男らしく告白して、フラれてこようと思った時もあった。 でも何と言っても年の差というものが僕の中では大きな壁であって、 フラれるのがわかっているなら、別にわざわざ辛い思いをしなくてもいいだろうと結局はそういう考えに辿りついて逃げ続けてきた。 でも逃げ続ける度に、こんな男らしくない僕など相手にされるわけないと気付いてますます落ち込んだ。

さんの周りには昔からいつもツナ兄と隼人兄と武兄がいた。 別に4人でつるんでいたとかそういう意味ではなくて、京子姉やハル姉、ランボやイーピンもいたけれど、 男友達と言えばその3人だった。(ランボは牛だから除外、って言ったらランボは泣いてたけど) 今と変わらず3人とも昔から凄く格好良くて、しかもさんと仲が良いから、さんはきっと3人のうちの誰かが好きなんだろうと僕は勝手に思っていた。 それが彼女に告白できない理由の一つでもあった。 僕よりもさんと同い年の3人の方が、彼女と付き合う可能性は高いに違いないと信じていたのだ。

そんなこんなでさんに自分の想いを伝えられないまま時が経ってしまった。 今でもツナ兄や隼人兄や武兄はさんの傍にいて、今でも仲良しだ。 そう、ただ仲が良いだけなのだ。 僕が予想していた、さんは3人のうちの誰かと付き合うんじゃないかという予想は見事に外れた。 いや、でもこの先ありえるかもしれないから、外れたとは言い切れないかもしれない。 何故なら成長した3人は昔よりも更に格好良くなったから。 それは僕だって成長したよ。背も伸びて昔とは比べ物にならないくらいに成長したと思う。 でも3人よりはまだまだ子供で、年下なのだ。 僕がさんよりも年下なのと同じように。 そう、僕らが成長したのと同じようにさんも成長した。 昔よりもますます綺麗になって可愛くなって、僕の想いを募らせるばかりだった。 はああぁぁぁ、さんのことを考えると溜め息が出てしまう。 いや、もしかしたらこれは、自分の駄目っぷりにため息をついているのかもしれない、なんて。


「ねえフゥ太、ミルクと砂糖、両方入れていいんだっけ?」


この声はさんのものだ。 僕が一人項垂れて物思いに耽っている間にさんはコーヒーを入れてくれていた。 もちろんそれはさんの分だけでなく僕の分もだ。


「あ、うん、お願い」
「了解!」


僕がそう答えれば、さんは嬉しそうに笑って再び僕に背を向けた。 悩んでいる僕の気も知らないで、鼻歌を歌いながらコーヒーを用意している。 はあ、と僕は再び溜め息を吐いた。そしてさんの後姿に目を向ける。 きっとさんは僕らの年の差なんて気にはしていないだろう。 そうでなければこんなにも僕と親しくなってはいないと思うから。 いつも気さくに話しかけてくれるし、年の差を感じさせない接し方をしてくれる。 結局、僕ばかり気にしているのだといつも思い知らされる。 気にしなければいいじゃないかと言われてしまえばそれまでだけど、そ 恋愛感情というものを挟むからには、それは僕にとっては不可能なことなのだ。


「はい、どうぞ」


コトと小さな音を立ててコーヒーの入ったマグカップが僕の前に置かれる。 さんの笑顔と共に。 ああ、僕はやっぱりこの笑顔が、そしてこの人が好きなのだ。 思わず想いが溢れ出して口をついて出そうになってしまうのを何とか押し止める。 本当はすぐにでも伝えたいはずなのに、何だかんだ結局はまだ『好きだ』と伝える勇気が全然足りなくて、 その代わりに『ありがとう』そう言って彼女に笑顔を返した。


想えば想うほど


タイトル配布元様 : Seacret words

(20080311)
(20210307)修正

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