「な、な、何考えてんの!」
自分の太腿を這い回っている手を掴んで制しながら私はそう叫んだ。だというのに手を掴まれた張本人は私の叫び声を物ともしないどころか、
逆にいつも通りの笑顔を返してきたせいでこちらが拍子抜けしてしまいそうだった。
「何って…言わないとわからないの?さん」
もしそれがにやにやとした妖しい笑みを浮かべながら発せられた言葉なら、
それはそれでまだマシだったかもしれない。
なのに実際に返ってきた笑顔はそんな妖しい笑みとは比べ物にならないほど爽やかなものだった。
加えてこの言葉。
そんな笑顔でこんなことを言うなんてこの人がとても信じられないと思った。
それがまたボスとか(だってツナって実は腹黒いから!)山本とか(山本は完璧な腹黒だ!)だったらまだ信じることができただろう。
はははーと乾いた笑みを浮かべてから拳の一つでも喰らわせてやればそれで終わり。
心の広い私はそんなセクハラ紛いのことでも冗談で終わらせてあげる。
そうできるはずなのに実際に私の太腿を撫で回していた手は、その二人のモノではないのだ。
それなら誰なんだって…ねえ?言いたくないし、信じたくもないのが現状だった。
「さんって、もしかしてマゾ?」
ああ、もう信じられなくて信じたくなくて泣きたくなってきた。
セクハラ紛いのことをした上に、先程から好き放題言い放っているのは紛れもない彼だった。
あのいつも爽やかで癒されるような笑顔をしている彼にこんなことをされる日が来るなんて。
そうその人物とはフゥ太だった。
「答えないってことは、肯定って意味で取っていいのかな」
そんなことを考えていたらいつの間にか勝手に話が進んでしまっている。
しかも勝手にマゾ扱いされている。
い確かにフゥ太はそういうお年頃なのかもしれないけれど、というかそうなのだろうけど、
だからと言ってセクハラは許されないだろう!
「だから駄目だってば!」
「えー」
「えーじゃない!こんなのセクハラだよ!ていうか言っておくけど私はマゾじゃないからね!」
私がそう言えば突然フゥ太は叱られた子犬のような表情を浮かべた。
その所為で思わず私は自分が何か悪いことを口にしてしまったかのような錯覚に陥った。
いや駄目だ、惑わされたら駄目だ!
「酷いよさん、僕がセクハラだなんてそんな」
「じゃあセクハラ以外の何だって言うの」
自分の理性をフル活動させてフゥ太からの子犬攻撃(?)に何とか耐えながらそう言うと、
彼は満面の笑みを浮かべた。
「僕なりのアプローチだよ」
ア、アプローチ?
いやいやいや、
アプローチってなんだよ、散々セクハラしておいてアプローチとか可愛い事言って誤魔化す気なの?!
…ちょっと待て。アプローチってことは。
セクハラされたことにばかり気を取られていた私は彼の言葉の真の意味を理解できておらず、
思わず「え?」と聞き返すと、フゥ太は笑って「まだわからないんだ、さんって意外に鈍感だね」と口にした。
鈍感、そこまで言われてしまえばさすがの私も気が付くわけで、
彼の言葉の意味を明確に理解すると一気に顔が熱くなる。
「ね?好きなら別にセクハラじゃないし、問題ないでしょ?」
いや、問題は大いにあるよ、大アリだよ。
本人がそうだと思えばセクハラにもなるんだよ。
でもまたしても私の大好きな爽やかで輝かしい笑顔でそんなことを言われてしまえれば、
それが正しいような気もしてきてしまう。
(もしかしてフゥ太は私がこの笑顔に弱いことを知っていてわざとやっているのだろうか…?)
フゥ太に触られたの、別に嫌ではなかったよ、恥ずかしかったけど。
途切れながらに私がそんなことを口にすれば、フゥ太は一瞬呆気に取られたあと、とびきりの笑顔を見せた。
「両想いなら尚更、問題ないよね?」
いや待って、嫌じゃないとは言ったけど貴方と相思相愛だとは一言も言ってないし、
はい、じゃあさっきのはセクハラじゃないねとは認めてない!
と否定したかったけれど、密かにフゥ太に想いを寄せていた私はその言葉を口にすることができませんでした。(くやしい!)
ルジンガンドに捕らわれる
タイトル配布元様 :
美しい猫が終焉を告げる、
(20080229)
(20210225)修正